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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第5章 南の島で

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第49話 無謀な上陸作戦

 玲子たち残る6人は海と空の状況を常に観察していた。


“Ⅹ海域”はほとんどの時間帯で海が荒れており、その場に耐えているだけで精一杯だったのだ。


 ようやく波や雷が収まったのを見計らって、一番近い島に上陸するために徐々にではあるが接近していっていた。

 

 しかし、船には異変が起きていた。スピードが上がっていき、島に急接近してきているのだ。


 ゴオッ! という音が鳴り響き木の枝などが操舵室のガラスにぶつかってさらにどこかに飛び去って行く。


「ここは減速して頂戴! このままだと上陸と同時に大破するわ!」


 玲子が叫ぶと、真っ青な顔をしてハンドルを握っている美甘が振り返る。


「減速――出来ないんです」


「え?」


「ブレーキが効かなくなって……このままでは船が座礁して砕け散るまで止まらないかと……」


「自動運転はどうなっている? まだ生きていたはずだが?」


「それが中途半端に機能しているようで、切ることが出来ません。

それが逆に加速をキャンセルできないんです……」


「貸すんだ」


 美甘は静かに席を譲る。


 小早川が舵を取るが色々ボタンを押しても操作しても全く上手くいっていないようで、珍しく表情がこわばった。


「機器が制御しきれていない。しかも本当に自動運転を切ることが出来ない……」


 誰もが凍り付いた。冷静な小早川が言葉を無くしたという事がこの現実の打開の難しさを証明していた。


「……建山さん。ここは頼むわよ。最悪は自動運転装置を破壊して! 私は外の岩でも蹴散らしてくるから」


 だが、1人だけ頭が冷静な人物がいた。それは玲子だ。

 行動はあまりにも過激すぎではあるのだが……。


「え……そんなことできるんですか?」


「出来るか出来ないの問題では無く。私がやると言っているということよ

 現実を変えることが出来るのは行動した人間だけなんだから」


 美甘の問いに対して玲子は事も無げに答えた。

 理屈的には不可能かもしれないが、この人ならば――そういう賭けてみようという雰囲気に言葉が無くともなっていった。


「流石に素手、素足では難しいと思います。こちらを」


 用意の良い小早川は部屋の隅にあった箱から重そうな物を渡した。


「そうね。火山灰対策のものならそれなりの耐久力がありそうね」


 玲子は受け取りしっかりと感触を確かめていた。


「ここは任せてください。大きくカーブを砂浜で描けば実質的な減速に繋がるかと」


「あなたの度胸のある運転に任せたわよ」


 玲子は建山にそう言うとバッと脱兎のように操舵室を出ていった。


「だ、大丈夫なんでしょうか……」


 美甘が流石に不安そうに玲子の後ろ姿を見守っていた。


「雷を弾き飛ばしたり、姿すら消せるとんでもない存在ですからな。

 新しい伝説の1ページが増えるだけかと」


「為継は意外と非科学的とも言える玲子さんを信じているよな……」


 北条としては生きて虻輝に再会するためには玲子を信じるしかないとは思っていた。


「私や局長は大変科学的ではある。

ただ、柊玲子はその科学でもってしても全く解明できないことが多すぎる。

つまりそれだけ無限大の可能性を秘めているという事だ。

 皆も“彼女ならばなんとかやってくれる”と信じることが力を増す要因になるだろう」


「ますます科学的じゃねぇ話だが、今までも散々異常なことをアイツは目の前でやってきたからな……」


「どの道、柊玲子に賭けなければ我々の生存可能性が無いのだ。

 彼女の可能性とあの自信を信じよう」


「雑談はいいですからちゃんと指示してくださいよ。私はこのハンドル握っているのに精一杯なんですから」


 現在手動運転中でありながらも、システムの一部が切り切れずに生きているために岩に直行するルートが拒まれている状況だ。

 つまり建山の強引なハンドル捌きが問われる局面なのだ。


 腕っぷしが玲子の次にある建山は非常に適任と言えた。


「問題ありません。話しながらも任務は全うしていました――私が今あらゆるツールで分析したところ、大回りで旋回することで砂浜との接触の摩擦によってスピードを落とすことが出来る。

そのためには向こうに見えるあの大きな岩が邪魔だが――景親、柊玲子に伝えることを頼めるか?」


 為継の言う航路にはおよそ15メートルはあろうかという大岩があるのだ。


「よっしゃ! 柊玲子にそのこと伝えて来るぜ!」





 玲子は景親が現れた瞬間に全てを察した。思考を読み切ったのだ。


「分かったわ。私も最善を尽くすわね。ついでに、最後のブレーキも余裕があったら行うからね。ここにいると衝撃が来るだろうから操舵室に戻っていなさい」


「おう! 頼んましたぜ!」


 玲子は大きく迫りくる大岩を前に大きく息を吸った。


「はああああっ!」


 玲子は2連撃のパンチを繰り出し一気に岩を前に飛ばして打ち砕いた。


 真上に岩を飛ばしてしまうとこの船に大岩の砕ききれない破片が直撃してしまう可能性があるからだ。


 船は砕け散った岩の上をガガガガッ! と大きな音を立てながらグッと大きくカーブをして島の砂浜に上陸していく。しかしスピードの減速は少ない。


 このままでは船は木っ端微塵だ。


 玲子はそれを感じると錨に向かって直行していく。錨を片手でひょいっと持ち上げると、

砂浜に投げ込んだ。


「止まりなさぁいっ!」


 玲子はそう叫びながら錨を思いっきり海に投げ捨てながら気の力を込めて拳を繰り出した! 大きな水しぶきを出しながら大きくカーブを描き始める。


 そして、玲子の拳を繰り出した方に倒れ始めたが、スピードは無くなっていき、

 砂浜に突入していく! 


 ガタタタタタ! と言う石にあたったような大きな音を立ててバランスを崩していく!


 しかし横転したものの、船は停止し、大破は免れた。


 玲子は水しぶきでずぶ濡れになったにも関わらず、息つく暇もなく操舵室の方に向かった。

扉をこじ開けて、皆を助け出そうとしたのだ。


「皆! 大丈夫!?」


 操舵室に手を伸ばし、手を掴んだ者からひょいっと玲子が引き上げていく。


 5人共特に大きな怪我もしている玲子はホッと息をなでおろした。


「いやぁ、良いアトラクションだったじゃねぇですかい! この人生で最高のスリリングさがありました!」


「お前はいつも暢気で良いな……」


 伊勢の反応に対して北条は苦笑しながら船の状態を見ていた。

 すぐにエンジンに引火するなどして炎上する様子はないものの、もう使い物にはなら無さそうだった。


「私は生きた心地がしませんね……。しかし、時速100キロを超えている状況から止めてしまうとは……」


 美甘は依然として目を白黒させながら信じられないといった感じでそう言った。


「船の方しか動かない分楽だった気もするけどね。大体は、相手の方も動いてくるからね。

 半分は建山さんのハンドル捌きのお陰よ」


 自分が時速200キロで動いていようとも相手の思考や動きについて考慮が必要ないというのは大きいのだろう。


「“曲がれぇぇぇぇぇ!“と叫びながらやっていましたけどね……。最後はシステムが自動的に進路を変更していくので破壊しておきましたよ」


 小早川は半ば呆れたような表情で玲子と建山の2人を見ている。もはや人間を見ている眼では無い。新たな兵器を見ているかのようだ。


「あなたも私のことを言えないぐらい強引のような気がするけどね……

輝君たちを探しましょう――あら! あそこにいるのはまどかちゃんと知美ちゃんじゃない!」


 玲子は笑顔で手を振るが、すぐさま表情が硬くなる。何かを読み取ったようだった。

 

「しっかし、なんか表情が青くねぇですかい?」


「――どうやら、寝かされている輝君に何か異常があるみたいね。医療品はあるかしら?」


「ええ、用意はできています。行きましょう。他の4人はなるべく遠くに荷物を積み下ろしてください。生きていることを喜んでいられる暇はありません。この船も安全ではない可能性があります」


 そう小早川は指示すると玲子と共に走り出した。


 まだまだゆっくりしていられる暇は無さそうだった。

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