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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第5章 南の島で

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第48話 胸が苦しくなる恋

 私とまどかちゃんは木に登って次々と木の実を収穫しました。


 比較的高いところに実っていましたが、まどかちゃんの身体能力の高さだとすぐに慣れていきました。


「これだけあればしばらく大丈夫そうだね!」


「そうですね。食べ物の問題さえなければとりあえず暮らしていけますからね」


 両手に抱えきれないほど木の実を私たちは持っています。

 高いところに登れば思ったよりも実っていたんですよね……。


「知美ちゃんがいなきゃ初日の時点であたしたち終わってたけどね……」


「でも一度覚えちゃえば簡単にできますよ。

 ゲームの世界大会で優勝するわけじゃないんですから」


「お兄ちゃんはゲーム機が無くてもコスモニューロンが無くてもゲームができるだなんてどれだけだよ……。だから世界一なのかなぁ~」


「“ゲームが恋人“とまで言われているぐらいですからね……」


「“恋人”で思い出したけど……ねぇ、知美ちゃん」


 そこで一拍置いたので私は怖くなりました……。

 この流れは私にとってはなんとなく不都合な問答になりそうな……。


「な、何でしょうか?」


「ここからだとお兄ちゃんに聞こえてい無さそうだから聞くけど――お兄ちゃんのこと本格的に好きになったね?」


「え!? どうしてですか!? アッ!」

 

 私は驚きのあまり一瞬バランスを崩しかけました……。


 ボロボロと木の実や果物が落ちてしまったので慌てて拾い直します。


「あっ! ゴメンね……」


「い、いえ。良いんです……」


 まどかちゃんも黙って拾うのを手伝ってくれていましたが、その間どう答えるのか迷っていました……。


「驚かせて悪かったけど、さっきお兄ちゃんの様子を見ていると“何かあったな”って言う感じがしたんだけど……。

 もしかして知美ちゃんが迫ったけど断ったとかそう言う感じだったのかなって……」


「――実を言うとそうなんです。というか、本当に好きなのかどうかよく分からないんですけど……。

 あの人とまどかちゃんが仲良くしているのを見ると、胸がキュッと痛くなるんです……」


 考えた結果、私に今起きていること、感じていることをそのまま伝えました。

 まどかちゃんが純粋で悪い子じゃないって知っているから……。


「そりゃ、あたしと同じぐらいお兄ちゃんに侵食されているよ……。

 あたしもお兄ちゃんが他の女の子と仲良く話してたり、体が近いのが視界に入ると、呼吸困難になることがあるからね……」


 それは私より重症じゃないですか……。


 私は出会って1か月未満なのに対して、まどかちゃんは物心ついてからずっと近くにいますから仕方ないでしょうけど……。


「す、すみません、抜け駆けみたいなことをして……」


「“恋人の座“っていうのは競争――いや、争奪戦――でもないや。戦争みたいなもんだから仕方ないよ……。

 じ、実はさっきマッサージしてたけどお兄ちゃんの足の裏から血が出ていたところを舐めたりしたんだよね」


 虻輝さんが何か艶めかしい声を出していたのはそう言う事だったんですね……。


 自分のできるあらゆる“兵器”を使うという事ですか……。


「えっ……そうだったんですか」


 虻輝さんとまどかちゃんと2人きりにはやっぱりできないですね。

 

 でも、さっき考えた結果、私は“体で訴える“よりも信頼関係を築いた方が良さそうですよね。


 警戒されているレベルだと関係の発展は望めないですから……。


「どうして好きだって気づいたの? 昨日の時点では違うって言ってたけど……」


「その……昨日の夜、まどかちゃんと話した後色々と考えてみたら、虻輝さんのことを好きだって――本格的に気が付いちゃったんです。

 一生懸命にゲームとはいえ打ち込む姿や、命を懸けて他人を守ろうとすることは中々できるものではありません」


「やっぱりそうだったんだね。

 あたしはお兄ちゃんといると満たされていくのが分かるんだ。

 ずっと一緒にお爺ちゃんやお婆ちゃんになっても傍にいたいって、そう思うから……」


「な、なるほど……」


 私はそこまでの心境にはなっていないのでとても参考になりますね……。


「でも、お兄ちゃんは“難攻不落“でしょ?」


「そうなんですよ。私は恋愛経験が皆無に近いですけど、それにしても“他人から聞いていた”のと全く違う気がします……」


「なんか話しているとズレていくんだよね……。

 お姉ちゃんすら全く攻略できる気配が無いんだから。

 お兄ちゃんを恋人にしようとするのなら長期戦になるのを覚悟した方が良いよ。

 あの……参考程度に聞きたいんだけど――何をしてダメだったの?」


「この胸をこう――体に押し付けたんですけど……とても恥ずかしかったですけど、それでも駄目でした」


 私は空中で再現しました――改めて凄いことをやっていたなって思います……。


「えっ……! お兄ちゃんはどっちかって言うと巨乳好きだと思ってたんだけど、どうしてダメなんだろ……」


「何だか吊り橋効果とかを理由に、私が騙されているみたいなことを永遠と言っていましたね……」


「なんか妙な世界観が構築されているような気がするよね。

 あたしも“2人きりだ“って思いこんでいたからあと一歩だったんだけど……。

 多分この手はもう使えない感じがするね」


 だから足を舐め始めたんですか……? とは聞かないようにしますけど……。


「性欲とか無いんでしょうか……」


「少なくともリアル空間で誰かと付き合ったって言う情報は聞かないね。 

 あっ! あたしたちの知らないVR空間で“1人でできちゃう”とか“VR空間の恋人”とかいるのかも……」


「私もその一件については聞いたことがあります。VR空間での恋愛が流行りすぎてリアルでの結婚離れが進んでいると。

 これは国家として問題だから新たな規制が考案されているとか……。

 でも今はVR空間と繋がれないのでその可能性も低そうな気もしますね……。

 そうなると、一体どうして誰とも付き合わないんでしょうか?」


「うーん、結局のところ“ゲームが恋人”って言う事なのかなぁ……? 

 あたしもこの間初めて世界大会を観に行ったけど、あんな目つきのお兄ちゃん見たことなかったもんね」


 あれは本当に驚きました。鬼気迫る姿は逆に惹かれるものがありましたけど……。


「やっぱりその説が濃厚ですか……。そうなると、虻輝さんはゲームが強ければ好きになってくれるとかあるんでしょうか……?」


「どうなのかなぁ……かなりゲームが強そうな建山さんに対する反応もイマイチだしね。あんまり意味無いのかも。

 あたしが全く駄目だからそう思っちゃうのもあるのかもしれないけどさ」


「な、なるほど……」


 まどかちゃんは自分の都合の良い解釈であるかもしれないと考慮出来ているところは本当に冷静ですね。


 やっぱり、“無邪気で幼い雰囲気“っていうのは虻輝さんの前限定という事ですか……。


 純真さはあると思いますけど……。


「虻輝さんの大好きなゲームの世界のように“リセット“するような恋愛観では無いのはちょっと意外な感じがします。

 でも逆に”恋愛を重く見過ぎている“感じがあるような気がします」


「うーん……不思議なもんでさ。

 ずっと近くにいるからお兄ちゃんこと何でも分かっているような気がするけど、

 何も分からない気もするんだよね……。

 なんかあたしが分からないところで拘っているのかも……」


「それは分かる気がします、単純そうでありながら何か奥底にあるような気もするんですよね……」


 分かりやすそうなのに掴みどころが無さそうな、そんなちょっと不思議なところにも惹かれたのかもしれませんけど……。


「とにかくさぁ、お兄ちゃんの思考パターンはずっと一緒にいるあたしだってよく分からないからね。気長にチャンスを窺うしかない感じかなぁ」


「私も同じことを思いました。少なくとも私の考えられる手段ではとても不可思議な思考法を攻略することが出来そうにありません」


「まぁ、他の女の子と付き合っている様子を目の当たりにして“切なくて苦しい”って思う必要が無いのは良いけど……」


 誰かと話しているだけで呼吸困難になっちゃうまどかちゃんが、いよいよ誰かと付き合った際にどうなってしまうのか今から心配になってしまいますけどね……。


「でも……いつかその日は来てしまう可能性は高いですよね。

 こんなにも魅力的な女の子が多い状況ですからね――私を除きますけど」


「ええっ!? 知美ちゃんは今年のミス日本で身長も高くて胸も大きいじゃん!」


「こんなのただの脂肪でどうしようもないですよ……」


「あたしなんて太ってもお腹にしか脂肪がつかないよ! 身長も伸びないし、もうずっとちっこいままだよっ!」


「まどかちゃんは小さくて可愛いくて羨ましいですよ。虻輝さんに自然に触れ合えていますし……」


「あたしは“女”として認識されていない可能性すらあるよ……」


「私だってこの脂肪を押し付けても駄目だったんで、意味無いですよ」


 でも、押し付けた時に顔が真っ赤だったことは伏せておこうと思いました。

 まどかちゃんは胸が無いことについてかなりのコンプレックスを持っているようですし……。


 そんな虻輝さんに絶対聞かれてはいけないことを話しながら海辺が見えてくる場所までやってきました。


 しかし、虻輝さんが何やらのたうち回っているような――そんな異様な雰囲気を感じたのです。

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