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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第5章 南の島で

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第47話 倒れる寸前

 昼ご飯は魚と取った雑草を洗って干したものだった。

 砂浜に「SOS」の大きな文字を書いてまた火起こしをしてからご飯にすることにした。


 今日は少し波が高く明日にも文字がすぐさま流されてしまうだろうけどやらないよりましだろうからな……。


「これ……毎食だと飽きる気がするので、夕食は木の実でも探しましょうか……」


 島村さんがそんな提案をしてきた。


 遭難している身の上に食料調達すらままならないので贅沢は言っていられないのだが、確かに飽きる日は近そうだ……。


「木の実よりも甘い果物の方が良いなぁ……」


 島村さんは、あぁやっぱりと言ったような顔になって顔を伏せた。


 贅沢は言っていられないと思った先から贅沢なことが口を突いて出た。


 このどうしようもない音声発信装置はいつも僕の意思に反して勝手に動いている気がする……。


「無人島に天然で生えている果物は仮にあってもそんなに甘いのは無いと思いますよ。

 日本で売られているような商品は品種改良して甘くなっているのばかりですからね。

 あんまりご要望にお応えできるものは持ってこれないかと」


「そうだったんだ……」


 フルーツパフェの果物はいわゆる“果物”では無かったという事なのか……。


「それに結構高いところにあると思うのですが――登れます?」


 まず僕のひ弱な手や腕が木の幹を昇る図が想像がつかない。


 仮に登れたとしても僕が落下して骨折して地べたで蠢いている図が浮かんだ。


「いや、三脚は最低でも無いと……。後はハサミが無いと多分取れないと思う……」


「ホントお兄ちゃん役に立たないね……。さっきもすぐに足がボロボロになっちゃうし……」


「お前、マッサージ師にでもなれよ。結構上手かったぞ。足の痛みが消えたよ」


 まぁ、実際のところはまだまだ全然痛いんだけど、機嫌取っておかないとな……。


「えへへ……んじゃ、お兄ちゃん専属になるよ。全身くまなく――ね?」


 なぜ顔を赤らめてこっちをチラチラ見ながら言うんだ……。逆に怪しいだろ……。


「だ、駄目ですよ! ご自分でストレッチして治さないと、誰もいない時に応用が利かないですからね!」


 いや、なぜ島村さんは顔を上気させてまでそんなにやらせたくないんだ……。


「まぁ、抑えて抑えて……」


 しかし、つくづく自分の無力感に呆れ果てる。

 この島に1人で打ち上げられていたら餓死するか、毒の入った草を食べて即座にくたばっていたことだろう。


「ご飯食べ終わったら。早速ストレッチ方法を教えますよ。

 というか、玲子さんのストレッチ方法のことですけど覚えてます?」


「いや、記憶の片隅にも残されていない……」


 もう色々とパニックになっていて、覚えていられるほどの頭脳スペックは無い……。


 島村さんはやれやれと言う顔になりながらどこか嬉しそうにしている。


「どうせやることないんですから。魂魄や細胞に刻み付けるぐらいやりますよ」


「えー!」


 3人でいるときはまどかも島村さんも“異常行動“をしてこない。

 ある種のパニックには今なっているが、僕に迫ってこない。


 まどかもさっきのマッサージの時もちょっと顔を赤らめて妖しい雰囲気があった。

 島村さんは気づいていなかったようだけど、僕の足の指を舐め始めたんだからヤバすぎた……。


 島村さんに胸を押し付けられたときは突然過ぎたので正直言って“反応して”しまった。

 あのボリュームを薄い水着越しで押し付けてくるだなんて犯罪レベルだろ……。


 島村さんも経験が浅く余裕が無かったのか気付いていなかったようなので幸いしたけど……。


 トレーニングするのは全くもって嫌だけど、あんな風に2人がおかしくなっちゃう方がよっぽど怖いよ……。


 早くこの状況を打開できなければ、近いうちに取り返しのつかないことになってしまうだろう……。

 僕の理性が吹き飛び、襲ってしまう事も時間の問題だった。


 全てが流されてしまったから、当然のことながら避妊することもできないので行為に及んでしまえば運が悪ければ妊娠してしまうに違いない……。


 何をしてでも理性を保ち続けなければならないという事だ……。


 なんて生き地獄なんだ……しがらみや妊娠の可能性が無ければまどかを押し倒して、島村さんの胸を思いっきり触りたいんだけど……。


「おーい! お兄ちゃーん!」


「っー!」


 またしても意識が飛びかけていた。


 2人が心配して覗き込んでいるが、真っ先に目に入ったのが島村さんの胸元だった……。


 本当に僕は下劣な奴だな……自分が嫌になってくる。


「ちょっと自由時間にしないか? 来月の大会は総合戦だから脳内で色々と再現しないと……。落ち着いたらトレーニングをしたり木の実を取りに行こう」


「は、はぁ……でも、体調が悪いのでしたらそんなに無理することも無いですよ?

 私とまどかちゃんで木の実を取ってきますから」


「うん、お兄ちゃんの顔色悪いし。あたしたちだけで行こうよ」


 2人共、心底心配そうな顔をしている。そんなに顔色悪いのだろうか……。


「え……そうなの?」


 まぁ、理性が吹き飛びそうになるのを堪えるのは結構大変なんだけどさ……


「呼びかけても応じないぐらいだったんですから相当疲れているんですよ。

 すぐに行って戻ってきますから安静にしていてくださいね。

 できればゲームについても考えない方が体のためですよ」


 そう言うと2人は笑顔になると歩き出して行った。


 まどかと島村さんが優しいのがまた沁みるほどで勿体ないばかりだ……。


 そして、さっきまで木登りをして手がボロボロになるとか落下するのを嫌っていたのに、

 何だかそうやって一人きりで置いていかれるとなるとそれはそれで不安になる。


 せめて集める要員に連れて行って欲しいとすら思った。


 もう一体全体僕は何がしたいのか分からない。滅茶苦茶だった。


 そして、茫然と見送っていると2人のお尻が揺れているのがまた僕の情欲を誘った。


「はぁ~。今しがた決意したばかりだと言うのに。本当に救いようがない……」


 2人がそれぞれ迫ってきた瞬間が頭の中によぎる。実は僕に気があるんじゃないか……? とすら誤解してしまう。


 でも、無人島に来て2人共極限状態で頭がヘンになってしまっただけなんだから僕が抑えなくてどうする……。


「あ……あれ?」


 空が歪み、何が起きた? と思うと同時に僕の体は横に崩れ落ちる。


 腕に力を入れて立て直そうとするが、どうにもいう事を聞かない。


 かと言って目を瞑ると腹がムカムカとする……。


 し、しまった。もしかすると魚が“当たった“のかもしれない。

 ただでさえストレスで免疫が下がっているし、この間の世界大会で倒れた影響があるのかも……。


 唇を噛み締めて何とか意識を保とうと必死になって堪える。


 だ、駄目だこんなところで倒れたらきっと足手まといになる。


 ただでさえこの島に来て足を引っ張ってばっかりだって言うのに――。


 自分の無価値さや下劣さにうんざりして飽き飽きしているというのに――。

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