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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第5章 南の島で

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第46話 自己嫌悪

 私は考えながらも速足で虻輝さんに追いつくと肩をポンポンと叩きました。


 虻輝さんはビクッ! と大きく怯えるようにして振り返りました。


「さっきのことは忘れてください。私がちょっと正気じゃなかったです。

“吊り橋効果”って本当に怖いですね。あなたの子供を妊娠したらと思うとゾッとしました」


 会話が続かなくなり黙々と作業しながら色々と考えたところ、そう言う事が最善だという結論になりました。


「そ、そうだよね。やっぱり自分を大事にしなくちゃ」


 虻輝さんは心底ホッとした様な表情になりました。


 いったい虻輝さんが女性に対して何を求めているのか……そして求めている中で私が何をすることができるのかをきちんと考えていく必要がありそうですね。


 ――もしかするとズバズバと正直に言い過ぎちゃうのが良くないのかもしれません。

 でも、なんか話しやすいからついつい本音が出ちゃうんですよね……。


 真面目にこんなことを色々と検討している段階でなんだか滑稽な話なのですが……。


 でも、好きだって気づいちゃったんですから仕方ないですよね。


「さ、どういう草を取られたのか審査してあげますよ」


 私が笑顔で虻輝さんの雑草を受け取ると思わず笑みが消えました……。


「し、島村さんどうかな?」


「……ちょっとセンス無いですね。食べられるものは大体10のうち4というところでしょうか」


 私はサッと仕分けをしていきました。うーん、本当に覚えていないみたいなんですね。


 慎重に探されていて量が少ないのにこの結果って……。

 

 私にとって好都合のような、記憶力の深刻さは心配のような……。


 そして気が付けばまた本音が出ているという……。


「アハハ! お兄ちゃんらしいや!」


 まどかちゃんが笑顔で合流してきました。


「なら、まどかはどうなんだよ!?」


「これだよ」


 まどかちゃんは腕一杯に草を持ってきていたのをバサリと置きました。


 どれどれと……。私が見分しているとまどかちゃんはかなり緊張した様子で私を見下ろしています。


「まどかちゃんのは――大体8割ぐらいが食べられるものですね」


「そ、そんな馬鹿な……。この僕がまどかにダブルスコア以上での完敗とは……。

 しかも持ってきている量も僕の倍だ……」


 虻輝さんは口が半開きになってかなりショックを受けているようです。


 何でまどかちゃんにこういう子供っぽい意識で対抗しているのか謎なんですけどね……。


 恋愛対象と言うより“悪ガキの遊び相手”みたいな感じなんでしょうか……。


「フフン! どうだ! これからは“お爺ちゃん“って呼んであげよっか?」


「お前なぁ……調子に乗るなよなぁ! お前も“おチビちゃん“に改名するかぁ!?」


「ええっ!? 勘弁してよぉ~!」


 まどかちゃんは抱きつきながら猫なで声で虻輝さんに迫っています。


「ええい! ひっつくなぁ! なら、これでどうだ!」


 虻輝さんはまどかちゃんの頬を引っ張りました。まどかちゃんはいつも通りちょっと痛そうにしながらも嬉しそうにしています。


「やめてよぉ~! おにぃひちやぁ~ん!」


 本当に仲が良くていいですね……。


 私は失礼なことを言っても言い返されることってあんまりないし、反撃もしてこないから逆に寂しく思えてしまうんですよね……。


 私もこんな感じで自然にスキンシップを取れるようになれたらなぁ……。


 でも逆にまどかちゃんは兄と妹だからこの“特権”だと思っている感じはありますよね……。


 今なら私も分かります。これを失ってしまうかと思うとちゃんと想いを伝えたくなくなってしまうかもしれませんよね。


「さて、食べられない草も日差しに晒しておいた方が手っ取り早く肥料になるんですよ。最終的には風で散っていくと思いますけどね」


「これってそのまま食べるの?」


「本当は最低でも煮た方が良いと思うんですけど。ここでは飲み水は貴重で火起こしも大変ですから……。

 取り敢えずは海水で良いので洗って土を落としておきましょう」


「なるほど、いつも通り頼りになるね島村さん」


 今気づきましたけど、さっきの私が胸を押しつけた状況から“いつも通り”ならそれはそれで何だか問題を感じますね……。


 でも引かれたりしていない分、会話が成立しているだけマイナスの方向にはいっていないってことを意味しますよね……?


 それともさっきの私が胸を押し付けたことは、もう忘れちゃったってことなんでしょうか……。


 色々と虻輝さんはよく分からなくて、やきもきしっぱなしです……。


「とりあえず足を引っ張らないで下さいね。とりあえず見ている限りあなたには期待できないことは分かったので。

 怪我されたりした方が厄介ですから」


 いつも言っているようなことなのに何だか自分が“嫌な奴”だと思われてるんじゃないかと不安になってきました。


「さっきも穴に落ちかけたから本当に面目ない……」


「傷を治す薬草みたいなのは無いの?」

 

「ヨモギやドクダミでしょうか……。集中して生えていることが多いので。後で探してみましょう。“誰かさん“が怪我をする前に」


「ハハハ……」


「お兄ちゃんはあたしとトレーニングして知美ちゃんが薬草探しをするのは!?」


「そうですね。それが良いかもしれません」


 ただ、2人きりになると“危ない”気がするので見える範囲内にいることが重要ということでしょうか。


 なんだかまどかちゃんを疑うようで凄く自分でも嫌なんですけど、これが“同じ人を好きになった宿命”ということでしょうか……?


 しかし、残念なことに海岸付近にはヨモギもドクダミも無く、結構奥深くに行かなくてはなりませんでした。

 

 ついでに、海岸付近に無さそうな食べられそうな草も収穫しておきました。


 そして、お二人がいるところに戻ろうとしたところ……。


「うっ……まどかいいぞっ……。そこだ……! もっと裏を……!」


 虻輝さんの声が、な……なんだかいつもと違うような。ま、まさか私がいない間に……!


 ど、どうやらまどかちゃんが虻輝さんの足元で何かをしているようです……。


 私は思わず木の陰に隠れました。


 様子をチラチラと窺ってみると――虻輝さんは顔を赤くしてとても気持ちよさそうです。


「ここが弱いんだ~?」


「そ、そうだ! あっ! いい!」


「お兄ちゃんったら情けない声上げちゃって~!」


「う、うるさいっ! 調子に乗るな!」


 こ、これってもしかして――見たいような見たくないようなそんな複雑な気持ちになりました。


 やっぱり、2人きりになると欲望が爆発してしまうんでしょうか……。


 これも私の運の尽きですね……薬草が海辺の近くにあればこんなことには。


「もぉ~お兄ちゃんったらこんなに足の裏こっちゃうだなんて~。どんだけ運動不足なんだよ~」


 パサパサと音を立てて私は摘み取ったヨモギやドクダミを落としました……。


 だって、そこには――


 ただ単に虻輝さんの足の裏をマッサージしているまどかちゃんがいただけでしたから……。


「いつの間にか戻ってたんだ――って、ど、どうしたの知美ちゃん?」


「い、いえ……自分自身に失望しただけです……」


 私は頭を抱えながら近くの木の幹に寄りかかりました……。


「何があったのか知らないけど疲れているんだよ。慣れない場所だからね。色々と本当にありがとう」


「あたしも手伝う! 知美ちゃんお疲れ様!」


 今日は本当に自分が嫌になります。お二人はこんなにも優しいのに――邪な(よこしまな)思いに支配されている私をこの地上から消し去りたいです……。


 こんな私がこれだけ素敵な女性が周りに溢れている虻輝さんに振り向いてもらえるような女になれるのでしょうか……?

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