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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第5章 南の島で

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第45話 吊り橋効果?

 私は虻輝さんを抱き上げると同時に胸元を押し付けました。


「ええと……当たってるんだけど……」


 とんでもなく恥ずかしいのですが、ここが勝負どころです。

 

 いったんは体を捧げようと思っていた(第4部52話)ぐらいなんですからこれぐらい我慢しないと……。


「あの……いつも視線が私の胸元に来てるじゃないですか?」


 もがいて抜け出そうとしてくるのでむしろ腕を強めました。


「あ……、ホント。それはゴメン。悪気があるわけじゃないんだけど……」


「いえ、それは別に構わないんですけど。良ければ――直接、触ってみませんか?」


「え……? それは何か新手のジョーク?」


 鈍感すぎますよ……。


「この弾力を“直接味わった”方が嬉しいんじゃないかという事ですよ。

 ご満足していただけたなら“その先”も行って貰って構いません」


 私は恐らく真っ赤になりながら胸を当てているでしょう……。

 こ、こんな日が来ようとは……。


「えっ!? そ、そんな……何を考えているんだ!?」


 虻輝さんは私の腕の中から無理やり飛び出して息を落ち着かせようとしています。

 

 虻輝さんも顔が真っ赤なのである程度は効果があったようですけど、私が期待した反応には程遠いです……。


「そ、それは、私を“触る価値すらない“という事なんですか?」


 この脂肪の塊ぐらいしか私には取り柄が無さそうなのに……しかも、恥を忍んでこんなことをしているのにそれすら駄目だなんて、もう泣きたくなってきました……。


「そんなことは勿論無いよ! 島村さんは今年のミス日本に選ばれるに相応しいぐらいの美人じゃないか!」


「なら、どうして……」


「だ、大体さ。僕に体を触らせようとしたり、肉体関係を持とうとしようとする感じがよく分からないんだよね?

 前も言ったけどさ、もっと自分を大事にした方が良いよ?」


 なんてズレているんだろう……。この人は女の子の気持ちを一切分からないんでしょうか……。好きだって直接的に言って断られたくないから“既成事実”を作ろうとしているのにっ……!


 私にもプライドって言うのがあるんですよ! 今まで冷たくしてきたのに急に“好きになりました”ってどう考えてもおかしいじゃないですか!


「私のことは別に気を使わなくてもいいんですけど……」


 ――と怒りたくなりましたが、ここで怒っちゃったら全部砕け散るような気がしたので、グッとこらえました。


「いや、気になるよ。だって、島村さんは誰かと付き合ったことも無いんでしょ?」


「それは、そうなんですけど……」


「だったら尚更慎重にならないとね。まずは僕の質問に答えてからね?」


 虻輝さんは私の胸元を見つめながら口を開きました。妙に改まっているので何かとんでもない話なのでしょうか……。


「は、はい……何でしょうか?」


「虻利家のこと今はどう思ってるの?」


「え……」


 わ、私としたことがすっかりお母さんのための復讐とかそう言ったことが頭から抜け落ちていました。それどころかお母さんを殺した息子と懇ろ(ねんごろ)の仲になろうと……。


「いきなりでゴメン。たださ、父上を命懸けで殺しに来たのに、それが簡単に解消されているとは思わなくて」


 あぁ……私、警戒されてるんですね……。


 でも何だか警戒したくなる気持ちは分かります。

 くノ一にはそう言った夜の関係を迫って暗殺する“房中術”があるそうですから……。


 私も同じような存在だと思われているんでしょうね……。


「……確かに、今でも許せませんよ。でも、あなたは虻成とは別の人間じゃないですか?」


 お母さんの死と言うのは揺るがないですけど――お母さんだって私の幸せを願っていると思うんですよね。凄く都合の良い解釈ですけど……。

 

「そんなに大差は無いと思うよ。僕だって自分の保身のため――それどころか断っても良かったのにそれをせずに大王に無実の人を売り渡したんだ」


「確かに公文書を偽装することは良くないことだと思いますけど、今反省されているみたいだしいいじゃないですか。

 そう言うのであれば私も虻利家当主への殺人未遂ですよ? ある意味同じ犯罪者同士じゃないですか?」


「あ……うん……そうなんだけど……。でも、島村さんは家族のこともあるしやむにやまれぬ要素も強そうな気もするんだよね……」


 普段はどこか間抜けなゲーム好きな“お爺ちゃん”なのに、真面目な会話になると無意味に頭が回るんですよね……。


 だから力や論理で意外と押し切れないんですよね。玲子さんもきっとそれで苦戦しているんでしょうか……。


「あまり違いはないような気もしますけどね。

 そもそも、お金と権力をそれほど持っているのに、どうしてそんなに倫理観に拘っているのか不思議でなりませんね。

 当主の虻成なんてとっかえひっかえ女の人に対して手を付けているらしいじゃないですか」


 私もそれを利用して暗殺しに行ったわけなんですけど……。


「……逆で、僕は父上みたいに性に開放的過ぎる方が問題だと思うんだよね。

 自分の立場や金をチラつかせて相手の感情を完全に無視しているんだからね」


「私が都合が悪くなれば、権力でいくらでも揉み消せますし、何かトラブルが起きたら最悪“抹殺”もできますよね?」


「そりゃ、出来ないことは無いけど。

 それって本当に幸せな関係なのかな? って僕は思っちゃうんだよね。

 僕は権力に頼るような関係は“始まってすらいない”と思うんだよ」


 なるほど、虻成のことがあるからこそ反面教師にしたいという事ですか……。


 事実上親代わりの教育をしているといっていい玲子さんが非常に真面目なのも影響が強そうな気もしますね。


「でも、私は自らそういう関係を望んでいるんです。

 別にお金も立場もいりません――それでも駄目なんですか?」


 それでも、何とかしてこじ開けようと必死に食い下がります。


 それに対して虻輝さんは私の胸元を見た後にどこか遠くを見定めると、フーッと大きく息を吐きました。


「……島村さんは極限状態で頭がパニックになっているんだよ。

 いわゆる“吊り橋効果”で、男がこの島では僕しかいないから“気の迷い”が起きているに過ぎないんだ。

 後で振り返った時、早まってしまったことを絶対に後悔することになるからさ――」


 何でそう言う時だけとても論理的なのかとても不思議で仕方がありません……。

 ゲームの時以外はこういう時だけは饒舌になるみたいなんですよね……。


 私がパニックになっているのはそう言う事じゃないのにな……。


「――長々と語ったけど“DVを受けた彼女“と同じ心境ということなんだよ。

 僕の立場があまりにも弱すぎるから下手に出ているだけでそれを“優しさ”と勘違いして、それをプラスに捉えてしまっている。

 島村さんは僕ら親子に翻弄されているという事なんだよ。分かってくれたかな?」


 取り敢えず、ほとんど私にとって無意味に近い内容を聞きながら、こめかみに指をあてながらずっと考えていました。


 あの玲子さんですらいつまでも“攻略”することが出来ないというのが何だか分かってきたような気がしてきました……。


 この人は“普通の発想ではない“と言う前提で考えた方が良いのかもしれませんね。


 色々と思考パターンが私が考えられる範囲と違い過ぎています……。


 そこがある種の“特異性”であり他の人に無い魅力にも繋がっているのかもしれませんけど……。


「――今の虻輝さんのお話を伺ったことで一つ分かったことがあります。

 どうやらあなたは根本的には頭は悪く無さそうなので、私が勉強を教えてあげますよ。

 きっとまじめに勉強をすれば成績が伸びること間違いなしです」


「えっ!? どうしてそう言う話になるの!? しかも、流石に年下から教えて貰うのはちょっと……」


「それなら自主的に突破してくださいね。玲子さんに代筆してもらったりするのは本来の学生の本分に反してますよ」


「いやぁ、それは分かるけどそう言ったことは無事助かってから議論しよう。そうしよう」


 そう言いながら虻輝さんはそそくさと海辺に戻っていきました。


 ちょっと“キャラ変“し過ぎてしまったことが戸惑わせてしまったのかもしれません。


 “気を引く“にしても積極的過ぎても引かれてしまうのかもしれませんね……。


 積極的に行っている建山さんすらも全く上手くいっている様子が無いですし、無理やり迫っていくのも逆効果なんでしょうね……。


 この様子だと他の皆さんも苦戦することは間違いないですし、私は私なりに距離をちょっとずつでも詰めていくしかないんですかね……。


 ただ、私のこの脂肪の塊はやはりある程度は効果的だという事も分かりました。

 

 事あるごとにこの胸元を見ていたり、押し付けた時は今までにないほど顔が真っ赤になったという事は間違い無いですからね。


 早まって小さくしておかなくて正解でしたね……。


 ただ、普通の男の方と違ってそこまで性欲と言うのが無いのかもしれません。


 また、結婚して子供や家庭を持つと言った考えもあまり無いのかもしれません――とは言うものの私もどうしたいのか分からないですけど。


 はぁ~~~~。私がこんなことに悩む日が来るだなんて思わなかったですね。


 だって、もうすぐ死ぬと思っていたんですから……。

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