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第8話 暗号対話

 玲子の行き先は虻成と虻景が入院している病院だった。

 ここは特別なVIPだけが入院することができる病院だ。更にその中でも警備部隊も200人常駐しているほど厳重な秒連である。


「玲子、来てくれたか」


「思ったよりもお元気そうで何よりです、お義父様。こちらがお見舞いの品です。先ほど、景君のほうの容態も見てきましたが……思ったよりも状況は良くなさそうなのですね」

 玲子は両手に紙袋を持っており、そのうちの片方を虻成に渡した。中には虻成が好きなお茶菓子が入っている。


「うむ……実はテロリストに襲撃されたのだ。虻輝には心配かけさせまいと思って。本当のことは言わないでおいたのだがな。あ、それはお茶菓子だろう? 開けて淹れてくれないか?」


「分かりました。――やはりそうだったのですね。私が見たところでも普通の事故では付かないような傷でしたからね」


 玲子はお茶を淹れ自分は椅子に腰かける。VIP室ということもあり、その椅子もブランド品であり座り心地もとても良さそうだ。


「ただ、このことは虻輝には伝えないで欲しい。今集中するべきはそこではない」


「分かっています……。輝君の処遇について甘かったのもお義父さんのお陰もあってのことですよね?」


「そうだ。とにかくご隠居には虻輝にはまだ利用価値があるということを口酸っぱく説明させてもらった」


 虻成は言葉を選びながら話す。表面上は虻利の方針から全く逸れない行動・発言をしているが、虻成は兼ねてからこの現在の虻利支配体制を変えようとしている。


 玲子とのこの対談も別の意図がある。虻成がコスモニューロンを導入している限りすべての会話は筒抜けなので選ぶ言葉は配慮する必要がある。


「どういう方向性であれ輝君にはあらゆる面において強くなってもらわないと……。

今は虻利家や獄門会などの巨大勢力のどこともことを構えたくありませんからね。

ちなみに輝君の精神状態は思った以上に安定していると思います」


「島村さんと言ったか……彼女についてはどうなのだ?」


「私が、死力を尽くして輝君と一緒にやるように説得しました。

 今日相談所みたいなのを立ち上げて共同作業をするように促しました。

 今後は2人で協力させて仕事をこなしてもらうつもりです」

 

 玲子は初日がどんなに悲惨だったかについては敢えて言わなかった。


「なるほど……島村さんは虻利についての恨みは末代までたたりそうな勢いだったからな。

どこからしら抜けている虻輝とはある意味丁度いいのかもしれん」


「それにしても随分な恨みを買ったものですね?」

 虻成は俯いた。流石に面目が無いのだろう。


「……結果を見ると何といっても言い訳にしかならないが、あれは本当に不可抗力だった。

 鳥山も必死でいたから先に刀を抜かなければ確実に殺されると思ってしまった……そしたら近くにいた彼らの母親に直撃したのだ……」

 

 虻成は玲子から目を逸らす。玲子は全てわかっていると虻成は知っているのだが、それにしても後ろめたい思いがあるのだろう。


「その事件は色々な人を不幸にした、あってはならない事件だと思います。

でも、こう言ってはおかしいかもしれませんけど、結果的にそれが全体から見ると良い流れを生むかもしれません。知美ちゃんもあの一件が無ければあそこまで強くならなかったかもしれませんから」


「彼女の弓の実力は相当なものだな。正直言って完敗だった。

私も剣術の腕に自信があるわけでは無いのだが、それにしても何もできなかった……」


「知美ちゃんはもっと強くなれると思います。今はリハビリ中ですが、足の状態が治ればすぐにでも私が指導しますので任せてください。それと、これが今月のBUD社の売上データと経費の明細書です」


 玲子は色とりどりのガーベラの花柄の紙袋を病室の机の上に置いた。


「うむ、後で目を通しておく。ところで――今晩こそこの私と寝てくれないかね?」

 虻成の女好きは枚挙にいとまがなく義理の娘の姉にまで及ぼうとしている――のもあるのだが、ここでは別の意図がある。


 ここから玲子と虻成は何の当たり障りのない一般的な世間話を始めたかのように見える。

 しかし、実は虻成のセクハラ発言以降は“暗号“でもって秘匿の会話をしている。

 セクハラ発言は逆に言うとこれから暗号で会話を始めるという”合図“なのだ。今回に限っては病室だが、定期的に2人はこういった巧妙な会話を行っている。


 ちなみに玲子が虻成に2つ目に渡した紙袋についているガーベラの絵柄の花言葉が”秘密”というのも含まれており、玲子側も“そろそろ始めましょう”と促していたのだ。


 正確には、虻成の思考は玲子に100%近く伝わっているので、玲子の思考が暗号化されて虻成に伝えているという状況だ。


 玲子はその暗号解読方法を暗号解読法と分からないようにして紙に書いてある。先ほど渡した“会社の資料”というのにそれが混じってあり、ごく自然な形で虻成が手に取るためにそれとはわからないのだ。

 

 虻成側は玲子の言葉をコスモニューロンで自動的に保存しており、それを後日解読すると言った形の会話方法なのだ。

 この病室での虻成側の発言は玲子の独り言にならないようなダミーの発言を行い、コスモニューロンを監視する特攻局を攪乱している。


 つまり、2人のやり取りは正確に言えば会話をしているのではなく“玲子の独り言をメモしてそれを後日解読する”と言った会話方法なのだ。それには特に玲子側の並々ならぬ能力が必要である。


 ここからは、暗号的な会話を見せてもあまり面白くないと思われるので、おおざっぱに2人の会話を要約すると、虻利家を改善するためには虻頼を倒すだけにとどまらず、その背後にいる“宇宙人“も倒さなければトップが代わるだけで何の意味もないということになる。


 虻利の力の原泉でもある“宇宙人”打倒のためには、テロリストとも連携することも厭わないというのが2人の一致するところだった。


「では、またしばらくしたらまたお見舞いに参りますね」


「いや、退院は思ったよりも早くできそうだ。次は社長室になると思う」


「そうですか。思ったよりも順調そうで何よりです。またお伺いしますね」


 玲子はそう言って。病室から去った。島村知美が加わったことは当初思っていたよりも早い段階で計画を進められる――そう思いながら。

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