第41話 “普通じゃない”集まり
どうにも眠れません。先ほどのまどかちゃんとあの人のことが気になって仕方ないんです……。
私、2人の邪魔をして良かったんでしょうか……。
まどかちゃんの念願が叶う瞬間だったのにあんなことをして……。
せめて、まどかちゃんが添い遂げるまで私は森の奥に引っ込んでおくべきだったのではないでしょうか……。
先ほどは誤魔化すようにペラペラと講釈を垂れていましたが、隣にいたまどかちゃんに対してずっと後ろめたい気持ちがありました……。
まどかちゃんに恨まれてやしないかと心配になっていましたけど、隣のまどかちゃんは何事も無かったかのように笑っていたので逆に驚きました。
あの人もよくあの状況を経験してからいつも通りに接していられるなって思ってしまいます。
それだけ友達以上恋人未満の家族みたいな“絶妙な距離感“でずっとい続けているってことなんでしょうけど……。
「知美ちゃんまだ起きてる?」
ビクン! と思わず私の体は反応してしまいました。たった今まで考えていたところでしたから……。
「その……先ほどは本当に申し訳ありません。お邪魔しちゃって。最初は奥に引っ込むつもりだったんですけど、思わず前に出ちゃいまして……」
「いいんだよ。昼の探索で知美ちゃんに気付けなかったあたしたちにも問題があったわけだし……」
「私もかなりの時間気を失っていたみたいですし……。大きな木の陰が近くにあって窪みみたいなところにいましたから」
「大丈夫なの?」
「ええ。魚を捕るあたりでようやく体にエンジンがかかってきたって感じです。
細胞がようやく目を覚まし始めたって言うか……」
今も実はそんなに体の状態が良いというわけじゃないんですよね。
頭はちょっと痛いですし、さっき水着の中を見たら痣があったぐらいですから……。
「でも、”思わず出ちゃった”ってことはお兄ちゃんのこと――好きになっちゃったってことなんだよね?」
「そ、それは……分かりません」
「この間(第4部52話)もお兄ちゃんに“カラダで謝罪”っていう暴挙に出そうになっていた気がしたんだけどね……。
普通、要求もされていないのにそう言う申し出をしないと思うんだけど……」
「あれも気の迷いでしたからね。最近私が血迷い過ぎているに違いないんだと思います」
星の無い夜で助かりました……。光が少しでもあれば表情やしぐさを確認されて図星だって分かりそうですから……。
「あたしも血迷っていたんじゃないかと思うよ。そもそもいきなり色々過程をすっ飛ばして、子供を要求したこと自体に問題があった気がするよ……」
「でも、好きな人相手なら自然な気もしますけどね」
実をいうと年上ぶっているだけで私にはよくわかりません……。
そもそもついこの間まで復讐を遂げることしか頭に無かったのでそれより先の人生について考えたことすら無かったんですよね……。
”浮ついた話”は私と全く無縁だと思っていましたから……。
「きっと女の子が他にあたししかいない状態だと思ったからやっと手を出してくれそうになっただけなんだよ。そうじゃなかったらあたしに価値なんて無いんだよ……。
小さすぎて“犯罪に近い行為”とまで言われちゃうんだ……」
真っ暗な中でもまどかちゃんが小さく泣く声が聞こえてくるのが私の心を締め付けます……。
「まどかちゃんはとっても魅力的ですよ。
あの人がとんでもなく空気が読めていないで照れ隠していっただけなんですよ。
焦らずに良さを出していけばきっと分かってくれますって」
しばらくするとまどかちゃんは泣き止みました。
こんなに泣くほど追い詰められて本当に可哀そうです……。
「う、うん――あたしも知美ちゃんや建山さんの影響もあって焦ってたんだと思う。
あまりにも強力なライバルが急に増えたわけだし……。
ちゃんと競争に勝ってからそういうことをしないとね」
「私なんて問題外で、あらゆる側面で玲子さんが抜きんでている気がしますけどね……。
その中でライバルの存在を許容しているのが理解全然できません……」
普通はライバルの存在を疎ましく思い、蹴落とそうとするような気がしますからね……。
直接は体感していませんが、高校時代の他の女子グループがそんな感じがしました……。
「改めてそれについても考えたけど、お姉ちゃんは色々と規格が違うし、見えている領域も違い過ぎるよ。
”ライバルが強いほど燃える”ってことなのかもしれないね……」
「玲子さんの著作物を色々と拝見していますけど、“こんな考え方の方がいるのか”って正直驚いちゃいますよね。
それまで生きてきた人生の歩みが違い過ぎるんでしょうかね……」
「いや、知美ちゃんも結構壮絶な人生でしょ……。
虻利家当主を暗殺しようと計画して、実現寸前だったんだから……。
自分じゃ“普通の人“だと思っているかもしれないけど、全然普通じゃないから……」
「え……た、確かに言われてみれば……」
結構変わった人たちがあの人の周りにいるなって思っていましたけど、
私も“変わった人たち”のうちの一人だったんですね……。
お父さんが行動するタイプだったからでしょうか? 私も結構、自分のできる最大限のことをやろうとしちゃうんですよね……。
「あたしぐらいだよ。お兄ちゃんの周りでの“普通の人”って」
わ、私はちょっとズルリとバランスを崩しかけました。
「いえ、まどかちゃんも玲子さんの妹と言う時点で普通じゃないですよ。
握力だって普通の女の子と違いすぎますよ」
「そう言えば確かに……。リンゴを片手で潰せるし……。この間も机を真っ二つにしたっけ……。(第2章22話)
客観的な視点で物事を見る必要があるね……」
「自分のことに必死になっていると“自分が普通”だと勘違いしてしまうのでしょうか……。私たち全員に共通した問題と言えるのでしょうか……」
「うーん、あたし頭が悪いかよく分からないんだけど……“普通”ってどういうことで、どんな人をそもそも指すんだろうね?」
「確かに何を基準に“普通“と言うのかによりますよね。
例えばこの世に1人しかいなければどんなに異常な人でも“普通”になるでしょうし……」
「2人以上いればもうある種の“異常“なのかもよ? だって、それぞれ個性ってあるわけなんだし」
「そう言う発想が出来るだけで頭が悪いとは思えませんけどね……。
玲子さんを目標としていると、感覚が狂ってくるのかもしれませんね」
「あー、分かるよ。何でも解決してしまいそうな滅茶苦茶な強さ。かと言って凄く優しいもんね」
「それでいながら、どうしてか分かりませんが好きな人に対して“競わせようとしている”と言うのも謎めいています」
「そういった能力の高さ、余裕や懐の深さ、妹のあたしから見ても得体のしれないところも含めてお姉ちゃんは強いよね……」
「……玲子さんについて玲子さんがいない中で議論するというのは陰口を叩くような感じがしていい感じはあまりしませんから終わりにしませんか?
真意は玲子さんと再会してからでも遅くはありません。
私から言い出したことなんですけど……」
「そうだね、コソコソやるのは良くないよね……」
「今日は色々ありましたし、日が昇ったらすぐに動き出すことになるでしょうからもう寝ませんか?」
「そうだね……ホント、遭難するだなんて思わなかったよ。科学技術だなんて思ったよりも大したことないんだねぇ。それじゃおやすみ~」
「はい、そうですね。おやすみなさい」
ただ色々なことを考えていると眼が冴えてしまって、夜はまだ長そうです……。




