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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第5章 南の島で

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第38話 食料問題解決

 逆光で分からないが意外と大きな影であることに脅威を覚えた。

 

 僕たちが見つけ損ねただけで実は熊でもいたのだろうか……。

 

 僕たちで熊に勝てるのだろうか――気が付けば体震えているのが分かった。


 しかし、近づいてくると思ったよりも細いことが分かり、更に近づいてくると顔は最近よく見慣れたものだった。


「あ……! 島村さん!」


 近づいてみると島村さんが憔悴しきっているものの無事に立っていることが分かった。


「やったぁー! 元気にしていたんだぁー!」


 まどかがバッと島村さんのところに向かって走り出す。

 

 僕は自分の腕を見つめる。ホッとしたと共にまどかの柔らかい感触が名残惜しい気もした。


 相反する気持ちが僕とまどかの今の関係を象徴しているような気もした。

 

「知美ちゃんがいてくれて助かったよ! 危うく人生最大の過ちを犯すところだった!」


 そう笑顔で元気いっぱいに言い切られるのは流石に嫌だがな……。


 でも、僕だってまどかが魅力的なのは間違いないにしろ、流石に「妹」だと思い続けていた子とはちょっと……と言う気持ちは多少なりともあったからな。


 島村さんがいてくれてよかったとも言えた。


「そんな……何か、お邪魔だったんじゃないんですか?」


 島村さんは僕たちが行おうとしていたことを察していたようで何か恐縮している感じがした。


「全然ッ! もうお兄ちゃんに押し倒されちゃうだなんて最悪だし! 危なかった~!」


「いや、お前が無理やりそう言う雰囲気にしてきたんだろ……。

 僕だってお前と関係を持つだなんて“犯罪に近い行為”だと思っていたから本当に島村さんがいてくれて助かったよ」


 何でか知らないがまどかは悲しそうな横顔になる。

 いや、これまでの話の流れに乗っただけなのにおかしいだろ……。


「ところで、島村さんはどこに今までいたの? さっき島中を1周しても見つけられなかったんだけど……」


 何とも言えない空気感になってきたために話を逸らす意味でも島村さんに聞いてみることにした。


「実はついさっきまで気を失っていたんです。

 この島に投げ出されたときに受け身を取りきれずに頭を打ったのだと思います。

 まだまだ修行不足ですね……」


 確かに普段は艶がある髪が少し汚れている。

 頭を打ってしまったのかちょっとオデコが赤くなっている箇所があった。


「大丈夫? もっと横になった方が良いんじゃ……」


「いえ、ちょっと横になり過ぎたぐらいですよ。今から取り戻さないと」


 島村さんはそう言いながらストレッチを始めた。

 水着のために胸の谷間がフルフルと揺れるのが刺激的過ぎる……。


「僕たちも島村さんを探しきれなかったのは不覚だった。

 思ったよりも元気でいてくれて本当に良かったよ。

 僕たちは砂浜に直接投げ出されただけだったから運が良かったんだろうな……」


 多少体の痛みはあったけど全く無事だったものな。


「探索してこの島はどうだったんですか?」


「僕たちの探索の成果としては目の前に島があるから泳いで行けそうだという事が分かったぐらいで、   ここには特に人の気配とかも無いみたいなんだよね。

 今日一日、飛行機も船も通りかからなかったしね」


「なるほど……とりあえずは私たち3人で望みが薄いながらも救助を待つしかないという事なんですね。  ただ自然は豊富そうなので何とかなりそうですか」


 島村さんが神妙な顔で何かを考えている時、“キュリュー!”という音がした。


「あはは……真剣な話のところ悪いんだけどお腹減っちゃった……」


 どうやらまどかのお腹の音だったらしい。なんか未知の動物の鳴き声か何かかと思った……。


 ただ、昼間っから雑草を食べてはマズくて吐き出すと言ったことばかりを繰り返していたので僕もお腹が空いてきてはいた。


「今後については後にして、日が落ちきる前にお夕飯を何とかしましょう。

 長めの木の枝を拾って来てください」


 島村さんが有無を言わさないような雰囲気を漂わせていたので、僕たちは急いで木の枝を拾い集める。

 すると島村さんは受け取るや否や手早く木の先をちょっと折って鋭利な感じにしていた。


「では行きますよ! それっ!」


 何と島村さんは魚を次々と枝で刺して捕えていっているではないか!


 先ほどボロボロだった雰囲気は既に無くなり、活き活きとした様子も斬新だ。


 枝が細すぎて折れてしまうものもあったが、耐久力のある枝は魚のお腹を的確に捉え、瞬く間のうちに15センチ前後の6匹の魚を捕獲していた。


「す、凄い……!」


「へぇ、大したもんだ……」


 僕とまどかは都会育ちのために食料の調達すら困難を極めそうだと思っていたところだ。

 それを思うと心の底から拍手をした。


 景親がトップレベルのサバイバルモンスターだと思っていたが、島村さんも大層立派なものだ……。


「私、弓道をやっているぐらいですから的を狙うのは得意なんです。

 魚を捕らえるのは獄門会にいた時に山籠もりの修行で学んだのもありますけどね」


 島村さんがはにかみつつも、ちょっと得意気だ。

 普段はかなり謙虚なためか、あんまりこういう顔を見せないのでかなり新鮮だと言えた。


 でも生家では弟がいたぐらいなんだから“お姉ちゃん気質”なのかもしれない。

 年下がまどかぐらいしかいないからそれが発揮されていないんだろうけどね……。


「いやぁ、正直僕たち何食べればいいのか途方に暮れていたんだよね。

 森の中にはキノコとか雑草はあるけど毒があるとか無いとか何を食べたらいいか全然わからなくて……」


「私が一つ一つ教えるんでお二人とも安心してください。

 今日のところは日がいよいよ落ちそうなので、少しでも明るいうちに火を起こします。

 太い薪のような木を急いで集めて下さい」


 確かに、もう日が落ちるまであと少しと言う感じがした。


「はい」


 僕とまどかは島村さんより大きくサバイバルスキルが劣るので言うとおりにするしかない。

 なるべく質の良さそうな丈夫な木を拾い集めた。


 戻ってくると島村さんは凄い勢いで手で穴を掘っていた。

 頭を打ったショックでどうかしちゃったんだろうか……。


「何やってんだ……? 火を起こす前にモグラとして覚醒しちゃったとか?」


 島村さんは振り返ると、ムスッとした表情でありながら目つきも鋭く、僕は震え上がった……。


「いいですか? こうやって土台を地面の下にしないと例え火が起こせても風ですぐに消えちゃうんですよ。

 夕方以降の海辺は風が強くなりますからね。

 モグラになったわけじゃなくこれは火起こしや焚火をする際には当然なことなんです」


「な、なるほど。ゲームの世界だと木と火種を集めたりするだけで勝手に火が発生したりするから……」


「ゲームの中の王者ってホント意味無いんですね……。

 本来ならIHのボタンを押したり、コンロのスイッチをひねるだけで魔法のように火が出ることは無いんです。現代人はそれだけ恵まれているという事ですよ」


「ホント情けない限りだよ……。僕はこれでもサバイバル系のゲームも強いんだよ。狩猟王の称号も得ていたことがあるぐらいでさ。

 しかし、ゲームと実際はこんなにも違うんだなぁ……」


「そんな称号をお持ちだったなんて、それは酷い冗談ですね。

 ――あ、この木はかなり丈夫そうで良いですね。後はこうやって使えそうな石を……」


 サラリと辛辣なことを言いながらも島村さんは手際よく火起こしを始める。


 とんでもない回転スピードで驚きだ。しかし、素手で火を起こすためにはそれぐらいの速度が必要なのだろう。

 

 後は島村さんの手はかなり頑丈そうだからできる技なのだろう。


 僕なら強制的にさせられても一瞬で手の皮がボロボロで血だらけになりそうだ……。


 とか思っていたら、火が線香花火のように小さく出来始める。


 島村さんは細かい枝を集めた火種に火を移し一気に火力が上がっていく。

 しばらくすると、そこから薪にまで火を移らせていった。


「ふぅ……何とかなりました。これで魚を焼けますね」


 島村さんは獲った魚を火にかけた後、手を揉んでおり、緊張感が解けたのかグッタリした感じになる。


 先ほどまで頭を打って倒れていたのに、穴掘ってとんでもない握力で火を起こしたんだから仕方ないよな……。


 そして、焚火がこれほど労力が必要だという事に衝撃すら受けた。


「火があれば結構何でもできるから本当に凄いよ……これから頼りにさせてもらうよ」


 目の前で魚が徐々にではあるが焼かれていっている。

 時間はかかりそうだが、中々身のつき具合も良く、とても楽しみだった。


「今度はもっと手際よく集めて下さいよ。あなたはただでさえ足を引っ張るタイプなんですから」


「は、はい……面目ないです。島村さんも無理しすぎないようにね……」


 もうどっちが年上か分からねぇ……。


「知美ちゃん。手を揉んであげるよ!」


 島村さんの下にまどかが飛んでいく。まどかもジッと観察してたまに手伝っていただけでほとんど島村さんがやり切ってしまった。


 ここでポイントを稼ごうとするのはズルいぞ! きっと魚の上手い部分を奪おうという算段なんだ!


「あ、まどかちゃんいい感じですね。気持ちいいです」


 島村さんは気持ちよさそうに目を細めている。完全に取り込まれてしまった……。


 だが、僕が島村さんの手を触っても嫌がられるだけだろうからな……。


 そんなあまりどうでもいいことを考えているうちに、焚火の火以外は完全に漆黒に包まれた。


 この島では当たり前ながらも僕にとって未知の世界が訪れたのだ。

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