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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第5章 南の島で

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第36話 2人きりの漂着

 まどかが顔を真っ赤にして僕に寄ってきた。僕はそのあまりの可愛さにドキリとした。


「あ、あたしずっと結婚して子供産みたかったんだ。

 もし、他に誰もいないならお兄ちゃんと――ダメかな?」


「えっ……」


 まどかは目を潤ませ僕の服に縋りつくようにしてきた。


 信じられない……妹だとずっと思い続けてきたのに。そう思うようにしてきたのに……。いや、ここはどういう状況になっても断らなくちゃ。超えてはいけない一線があるんだ。


「まどか、ゴメン。お前はどうしても妹としてしか見れないんだ」


 まどかは僕の返事を聞くとこの世の終わりのような顔になった。

 

 いや、そんな顔をしなくても――と言い返そうとした瞬間に、まどかは僕から背を向けて走り出した。


「あっ!」


 ところがまどかは、石に躓いてしまいあたまから地面に衝突してしまう。


 まどかの顔は真っ赤に染まる。そして動かなくなっていた。


「嘘だろ……! まどか!」


 体をさするが息をしていない。僕の血の気も引いていくのが分かった。


 そ、そんな……僕が返事を間違えたばかりに。こんなことが……。



 2055年(恒平9年)11月16日 火曜日



「はっ……!? ゲホッゲホッ! どこだここは!?」


 水と砂らしきものを吐き出す。ジリジリと肌が焼けるような感覚がある。

起き上がってみると砂浜だという事が分かった。


 まどかになぜか肉体関係を迫られ、その後死んでしまうというあり得ない夢をみてパニックになりかかっていたが、記憶が徐々に覚醒してくる。


 僕たちは調査クルーズ船から海に投げ出されて遭難したんだった……。


 泳ぎが上手いとはお世辞にも言えない僕が生きているだけで喜ばなくてはいけない。


 どこかにか行ってしまったがビーチボールに感謝しなくてはいけない。


「うぅ……」


 周りを歩こうとすると、足元で小さくうめき声が聞こえる。

まどかが僕の足に掴まっていたのだ。

 

ここまで意識が朦朧としていたためにまどかが近くにいたことすら気づけなかった。

 

 先ほどの夢があったからちょっとドキリとしたが、とりあえずのところは生きていてくれて助かった。


 一人で遭難したとしたら絶望と寂しさですぐさま死に絶えてしまう事だろう。

 例えその相手がまどかだとしても心強かった――ちょっとだけだけどな。


「まどかしっかりしろ。何とか命だけは助かったみたいだぞ」


 まどかの体を軽く揺さぶってやる。改めて体の細さと軽さ、そして女の子らしさ実感する……。

 

 何とか僕が守ってやらないと。


「あぁ……お兄ちゃん? あたしどうしたんだっけ……」


 目をこすりながらまどかが目を覚ました。


 ふぅ、良かった……本当に大丈夫そうだ。


 さっきの夢のことがあるから目を開けてくれるだけでホッとしてしまった。


「調査していたクルーズ船から投げ出されてどこかの島に流れ着いたんだよ。

 とりあえず大きな怪我は無さそうで良かった」


「そ、そう言えばそんなことがあったね……。他の皆は?」


「分からんな……」


「あっ……髪留めっ! ――付いてるっ! 良かった~!」


 まどかが自分の頭に手にやって、髪留めを取って確認して喜んでいる。

 実質的にその髪留めによって僕たちはここに流されてきたわけで、あってくれたのは僕としても良かったと言える。


 この状況下では何一つとして役に立たないけど……。


「よくあの嵐の中で無事だったな。まさかのビーチバレーの方が衝撃があったという……」


「そもそもこの髪留め一度壊れちゃったんだよね。お姉ちゃんが思いっきり強化してくれたから耐久性は高いんだよ」


 パッと見た感じ原型はとどめているから本当にうまいこと玲姉は補強したのだろう。あらゆる方面で玲姉には驚きだ。


「そんなに大事だったのがそもそも驚きだよ……。そんなありふれた大量生産品がさ」


「お兄ちゃんに初めて買って貰った誕生日プレゼントなんだから――大事だよ」


 そんな風に言われるととても照れるじゃないか……。


「へぇ……。でも次に危機の状況の時に無くしても無理に探さなくていいぞ。

 また何か買ってやるからさ」


「そ、それじゃぁ……こ、今度は指輪とか……?」


「そういうのは恋人にでも買って貰えよ……」


「い な い ん だ よ !」


 まどかはブチ切れて膨れっ面になりつつも上目遣いで僕を見つめる。

 

 正直、玲姉やまどかがモテないとは到底思えないんだよな。

 そうなると“男そのもの”が嫌なんだろうか?


 でもなぁ、僕とはこうして普通に会話で来てるわけだし、あ……僕は男カウントされていないとか――うーん、分からん。


「お兄ちゃんが何だかズレていることを考えていそうだってことは分かったよ……」


 勝手にその膨れっ面は解除された。


「しかし、これからどうしたものか……。助けが来るまで待った方が良いんだろうか……」


「正直このまま砂浜にいてもどうしようもないと思うんだよ」


 突如として真剣な声になった。


「何とも言えないが、このままボーっとしていても誰かが見つけてくれる可能性が低いと言えばそうだな……。アサリでもいればここにいても良さそうだけど」


 アサリって結局主催者側が埋めてお客さんが取っているだけで実際はほとんどいないことが多いらしいからな……。


「それなら島を探索しない? もしかしたら誰かいるかもしれないし」


「誰かっていったい誰がいるんだ? こんなところに人が住んでいたらある意味衝撃的なんだけど……」


「あたしたちはほとんど同じところに流れ着いたけど、

 もしかしたら他の人も流されちゃったかもしれないでしょ? 例えば知美ちゃんとかさ」


「確かに、島村さんもあの場にいたからな。

 一番可能性があるとしたら島村さんがこの島に流れ着いているかもしれないな」


「そうだよ。知美ちゃんは今頃、心細そうに身を縮めているかも……」


「島村さんが心細そうにしているイメージ全然湧かないけどな……。

 どっちかって言うと熊でもなぎ倒していそうなイメージなんだが……」


「えーッ! ヒドイよそんな言い方は! 知美ちゃんだってか弱い女の子なんだから!」


「そ、そうか……」


 島村さんがか弱かったらこの地上の男の99%だってか弱いと思うんだが……。


 人類史上最強と思える玲姉すらも“自称か弱い”らしいんだから本人が名乗ればそういうことになってしまうのだろう。

 玲姉より強い存在って地獄の門番とか神とかそう言うレベルだろ絶対に……。


 つまりここで無駄に議論や指摘してもしょうがないということなんだ……。


「あとは通信が取れないだけで原住民の人もいるかもしれないし……」


「どうなんだろうなそこのところは……。この島は確かに自然が豊富そうだけど……。

 見たところジャングル化していて人がいるような雰囲気は無いんだよな。

 どっちかって言うとクマやら蛇が出そうだ。

 そうなるとここでアサリを探した方が良いような気も……」


 どちらかと言うとサバイバルの大会が開催されそうな無人島の様相だ。

 ――勿論ゲームの中でしかそんな大会には参戦しないけど(笑)。


「お兄ちゃんはいつもグダグダと考えていて動かないのがダメなんだと思うよ! 行動しないと!」


 そう言ってまどかは僕から離れてズンズンとジャングルの中に入っていく。


「あっ! 待てよ! お前は逆に考えも無しに行動しすぎなんだよっ!」


 コイツを一人で放っておくと何をしでかすか分からないからな。

 僕がちゃんと見ておかないと玲姉に再会した時に何を言われるか分かったもんじゃない。


 ある意味、僕とまどかは弱点を補完し合っているのかもしれないが……。


 どうせなら“お化けが出るぞ”とでも言って引き止めなくちゃいけないって行方不明になっていた時思ったのを完全に忘れていた……。

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