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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第5章 南の島で

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第35話 対雷対策

 虻輝たち3人を救出することを決めたものの、何か状況が好転したわけではない。


 強い決意は時間と共に焦りのようなものに変わりつつあった。


 玲子は先ほどの死闘からか、タオルケットを持ってきて体を横にしていた。


 現在の天候、そしてどの島から向かうのかと言うデータ分析に関しては小早川、伊勢、北条の3人で行うことにした。


「とりあえず、コスモニューロンでどうにか位置情報を確認できねぇのか?」


 伊勢が言うと小早川は視線を様々なデータを見て確認する。


「……本来であれば数センチの誤差で位置情報を確認することが出来るのだが、

 電波妨害があり、このX海域内にまだ存在されている。そしてまだご生存されていることぐらいしか分からない」


「輝君が生きてるのならまだそれでいいわ。きっとまどかちゃんや知美ちゃんもそこにいる」


 気が付けば玲子がむっくりと起き上がっていた。


 何の根拠も無いが玲子が力強く言うだけで何故か信憑性が出てくるのだから不思議だ。


「島はどれだけあるんだ?」


 次に北条が聞いてきた。


「Ⅹ海域内だけ人が流れ着きそうな島は大きなものだけで30はあるようだ。

 ただ、まだまだ海は荒れていたり沈静化したりを繰り返しているのでまだ動けないことを皆さんご理解いただきたいですな。

 臨時船はこの船より耐久力が無い上に、このままでは更にバラバラになってしまうので」


「分かったわ。タイミングは皆の総意で決めましょう」

 

 玲子が言うと全員がまた頷いた。


「とりあえず、地図から見た場合ここから一番近いこの大きな島に向かいましょう。

 状況にもよりますがここで船を乗り換えることが出来たら理想です。

 荒波の中乗り換えればまた誰か行方不明になりかねません」


 そう言いながら小早川は、何やら操作をしながら機械を解体し始めている。

 北条はそれを見て声をかけた。


「為継何をしている?」


「ここの機械は捜索のためにコスモニューロンを介さずに使えるものもある。

 このⅩ海域の電波妨害も受けることはない。

 だから船から摘出しているという事だ」


「当初の目的を忘れていないのは流石に抜け目がないな」


「私はこれでも全てを諦めないタイプだからな。

 先ほど柊玲子に吊るし上げられた時も、

 皆の気持ちが中途半端ではないかある意味確かめていたのだ」


「為継って昔から素直じゃねぇからなぁ~」


 伊勢が小早川の肩をバシバシッと叩く。


「景親、お前は素直過ぎるんだよ。私は先々まで見通しているという事だ。

 これから先どういう展開になろうとも生半可な気持ちでは切り抜けられない。

 それだけ今切迫しているという事だ。

 しかし、“試す“にしても柊玲子の頭に血が上っていたのか命の危機を感じたがな……」


「そもそもあの方でしたら何をしてでも助けそうですから、

 為継が“試す”相手ではそもそも無さそうですがな……」


「そこら辺は察してくれるものだと思っていたのだが、

 どうにも頭に血が上り過ぎていたようで全く配慮してくれなかったのだが……」


「いや、あれでも配慮してたんじゃねぇの? 本気だったら即死だぜ。

 ロボットすら捻じ曲げるような奴だぜ? 尋常じゃねぇよ」


 伊勢がそう言うと、3人はその時感じたのだ。後ろから禍々しいオーラを……。


「無駄口はいいからさっさと調査を続けるっ! い い わ ね !」


 玲子の低い声はどこから出てくるのかは謎だ……。

 腕を組んでいるために威圧感もある……。


「は、はい……申し訳ありません」


「それで? 調査は真面目にやってるのよね?」


 玲子の言葉の前に一気に空気は張り詰めた。伊勢と北条は焦って小早川の方を向いた。


「現在、潮の流れなどを分析したところによりますと、

 おおよそ3つほどの島に絞られています。

 特に真ん中のこの島は一番大きく流れ着いている可能性が高いでしょう」


「それならすぐに行く準備をするべきよ」


 と、玲子が言った瞬間にピカッと大きく光ると共にすぐさま大きな雷が近くに落ちたようだった。


「もう暗くなりつつありますし、とりあえずこの船で夜を過ごした方が良いでしょうな。

 夜の移動は危険すぎます。明日にした方がリスクが少ないです」


「仕方ないわね……あの3人なら1日ぐらい大丈夫と思うしかないわね」


「とりあえずは、いつでもこの船を出れるように最低限の荷物を用意してください」


「もっとも私たちそんなに物を持ってきてないからね。元々の持ち物すら少ないし」


「着替えしかないですね。洗濯もできる想定でしたし」


 玲子の発言に建山も頷いた。


「……着替えぐらいならいいでしょう」


「あと、私と玲子さんで雷を迎撃してはどうでしょうか?」


 建山の発言に一同仰天した。北条は座っていた椅子から落ちかけていた。


「そうね。多少の雷なら進路を逸らすことも可能でしょうし」


 更にその場にいる者たちがギョッとしたのが分かった。


「やべぇな。おい……」


「私は、雷が落ちないように願ったり祈ったりしているというのが性に合わないだけですよ」


「全く同感だわ。“座して死を待つ“ぐらいなら雷に当たって死んだ方がマシね」


 まずそれを実行できないだろ……と他の4人は全く同じことを思ったのだった。


「とりあえずは私が先に行ってきますね。玲子さんは休んでいてください。1時間半おきに交代しましょう」


 玲子は静かに頷いた。


 ちなみに休憩1時間半というのは個人差はあるものの睡眠をするのに深く眠る一つの指標である。


 建山は率先して操舵室の引き戸を開けて颯爽と出ていった。


「通常であれば雷が直撃すれば死ぬ恐れすらある。

 正気とは思えないのだが、彼女たちならば容易に雷の進路を妨げることをやってのけそうな雰囲気があるのが恐ろしい……」


 そして小早川は化け物だと続けようとした――が、思考を読まれているにしろ、口に出せば怒ることは間違いないと思って口をつぐんだ。


「皆さん落ち着いていて凄いですね……私一人なら絶対にパニックになってるな……」


 美甘がそんなことをポロリと呟いた。


「全員無事に日本に生還するという目標なので、かなり困難なミッションであるとは思う。

 ただ、騒いだところでその確率が上がるわけではないし、むしろ下がるだけだろう。

 落ち着いてそれぞれの専門家の意見を仰ぐんだ」


 北条はそう美甘を諭した。

 一番ネタっぽい伊勢ですらも元自衛隊のプロと言える存在だ。


「確かに、この船にはそれぞれのトップレベルの方々が揃っていますよね……」


「さて、私もその専門家の1人として今できることに注力しなくては……」


 玲子と建山の規格外の言動を前にしても冷静に自分の役割を果たそうとするのは流石小早川と言えた。


「俺たちはどうすればいい?」


「脱出船の積載量に見合った必要な荷物はどれぐらいか計算して欲しい。60キロの大人20人用ボートだからある程度は食料なども載せられる。

 ただ一番重要なのは医療品だ。食料は最悪、現地調達すればいいからな」


「おっしゃ! 必要なモノは任せてくれ! 食料なら現地で熊でも何でも倒してくれる!」


 伊勢はそう言うと壊れそうなほど勢いよく操舵室の引き戸をバシッと開けて出ていった。


 状況は好転していないもののそれぞれのやることが徐々に見えてきた形だった。


 



 建山は空を凝視しながらゴムを付けた木の棒を腕に持っていた。


 ピカッと光ると建山はサッと船の端まで移動してブンッと木の棒を振る!


 するとゴロゴロッ! と雷が鳴りだすと建山バッと走り出す!


 更に建山はブンッと棒を振ると雷がちょうど落ちてきてプシュン! と言う音を立てて見事に雷を食い止めることに成功したのだ!


「あら、大したものね」


 建山はギョッとした。


 玲子が腕を組んでその様子を見ていたのだが、その気配を全く感じられなかったからだ。

 

 これが仮に敵だったら確実に殺されていたと建山は思った。


「玲子さん。休まなくて大丈夫なんですか?」


 焦りを誤魔化すようにして建山は前髪をかき上げた。


「雷がこの船に落ちそうな気配がしたから、ついでに建山さんの実力を確かめに来たのよ。

バックアップが必要なら助太刀しようかなと思って」


「落下点の判別の訓練は先ほどのビーチバレーで玲子さんに散々鍛えられましたからね。

 私だけでも大丈夫ですよ」


 お互いの視線が交錯する。味方同士の筈にも関わらず緊迫感がとんでもない状況だった。

 

 本当は互いに味方だと思っていないのかもしれない。ただ単に同じ屋根の下で一緒なだけに過ぎないのだ。


「ふぅん……お世辞にしか聞こえないけどね。元々それぐらいできそうな気がするけど」


 この2人は互いに信用していない様子がありありと出ている。

 視線を交錯するだけでも、常に何か“意図“や”“弱点“を掴み取ろうとしているのだ。


「玲子さんも色々な“奥の手“がありそうな気がしますけどね。

 本気を出せば私なんて一瞬で息の根を止められそうですよ」


 建山は茶化すように言ったが、玲子は何かを探る姿勢を変えない。


「さぁ、どうかしらね?

いずれにせよこの様子なら安心して休めそうね。起こしに来るのは1時間後で良いから」


 玲子はフッと笑って立ち去った。


 建山は何かを感づかれたのか? と思い少し表情を歪めながら見送った。

 ハッタリの可能性もあるが、そう思わせないだけの駆け引きが玲子は上手かった。

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