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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第5章 南の島で

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第33話 一難去ることなくまた一難

 玲姉は旋風のように操舵室を駆け出して行った。

 非常に気になるが、恐らくは僕が言ったところで足手まといになるだけだろう。


 それだけ玲姉と言う存在そのものが絶対的な信頼感があった。


 逆に玲姉がいなくなったこの操舵室の方が不安を覚えるのだが……。


「為継。今の強烈な雷でこの船の状況はどうなっている?」


 とりあえず状況整理が大事だろうと思って為継の方を見ると――なんと顔が真っ青だ!

 先ほどまで冷静な表情だったのが信じられないほどだ。


「虻輝様……。大変申し上げにくいことですが、このクルーズ船はもう長くは持たないと思います」


「えっ!? いきなりどうした!?」


「先ほどの雷が避雷針を打ち砕き、電源部までも破壊してしまったようです。

 幸い低速での運航のために急激に沈むということは無いように思えますが。

 つい先ほどまで自信を持って語らせていただいたのに大変恐縮ではあるのですが……」


 パニックになりそうになったが、ここで僕がパニックになったら本当に終わりかねないと思って深呼吸をした。


 本当に為継は申し訳なさそうな顔をしている。


 そして、為継は視線の半分では色々と切り替えて何か打開策が無いか検討している様子も窺えた。



「いや、現実を教えてくれた方が今後の意思決定に役立つ。

 聞き心地の良い嘘を述べられて、肝心な時に全滅してはお話にならない。

 正直まだ受け入れがたいものはあるのだが……」


 もう“ハプニングが僕を追ってきている”と言っても過言では無かった。

 

 いっそのこと家に引き籠ってハプニングを回避したいが、

 家にいたらいたでミサイルが降ってきそうなレベルで最近悲惨なことが相次いでいるし、

 命を狙われ続けている。


「虻輝様ならそうおっしゃってくれると思ったので勇気を持って言えました。

 しかし悲観する必要はありません。

 エンジン付きボートを格納しています。

 今の嵐もムラがありそうなので、少し収まったタイミングで脱出しましょう」


「この様子だと調査は難しいという考えで良いのか?」


「まだ初日ではありますが、撤退は致し方ないです。

こんなにも船が早期に壊れてしまう事は、誰も想定していませんでしたので……」


 正直なところ少しではあるがホッとした。

 尋常では無いことが起きつつあるのだからこの状況で続行しても全滅するだけだ。


 ただ、今回の依頼は大王からのために僕の一存で撤退を決断できない。


 しかし、いくらサイコパスな大王も全幅の信頼を置いている為継の判断で撤退したとなれば、強く批難ことはできないだろう――厭味ぐらいは言われるだろうけど。


「まぁ、この海域についてはもう忘れた方が良いな。

興味がある奴が出てきたらそいつに任せればいい」


 後はまた“調査に出ろ”と言わないことを願うまでだ。

 せめて大王本人がこの異常な海域をじかに体験して二度と関わりたくないというこの感じを痛感して欲しい。


「局長は中々諦めないと思うのですが……なるべく説得できるよう尽力したいとは思います。

科学技術局はこの調査を行おうとしていた辺りを“Ⅹ海域“と呼んでいるのです。

目下の目標としては、このⅩ海域から脱出することに全力を注ぎます」


「へぇ、そんな不気味な感じの名前だったのか」


「得体の知れない意味も込めてありますからな。

 そしてⅩ海域の外ならば電波妨害も無いと思います。

 近郊の国に支援を求めて日本に帰国しましょう。

 脱出用のボートもそれなりの出力は出せますから波が静かな時でしたら打開できるかと」


 これまでの流れからするとその話ですら不安しかないわけなのだが、

 とりあえず一縷の望みだと思ってその案に乗るしかない。


 僕に為継以上の案が浮かぶわけもないわけだし……。


「大体のプランは分かったが、僕たちはどうすればいい?」


「この船はもはやどこも安全とは言えないのですが、

 9人全員となると少し狭いですが、緊急脱出用の船が近くにあるこの操舵室に集まっていただきたいです。

 最終的には脱出船で何とかⅩ海域を脱出します」


「なるほど」


「現在は雷も小休止の状態ですので“今の内”という事です。

 そのために、沈没まではまだ時間があります。

 補修用ロボットが穴を塞いでくれますので、一定の時間稼ぎも可能です。

 ただ、避雷針を失っている今では次の大きな雷ではまず沈みます」


「一刻も早くここに皆を集めることにする。任せてくれ」


 そう言って操舵室を出て皆を探すことにした。


 しかし今でも信じられない。もしかしたら難破するかもと思ったけど、

 本当にこんなことが起きてしまうだなんて……。


 バカンスで終わる筈は無いと思っていたが、それでもどこかで楽観視していたところがあった。

 科学技術局のテクノロジーで塗り固められたようなこのクルーズ調査船ならば大丈夫だろうと安心しきっていたのだ。


「あっ、輝成。為継の話なんだけど――」


 僕は輝成に対して先ほどの為継の話を伝えた。


「そのようなことが起きているとは……。本当に“まさか”と言う感じですね。

分かりました。ですが私も皆を集めるのを手伝いましょう」

 

 なるほど、どこか崩れたりして通れなくなったりしたら輝成ならあっさり撤去してくれそうだもんな……。


 そしてほかに誰かいないか探していると美甘が前からやってきた。


「美甘。良かった無事で」


「虻輝様。今どういう状況なんですか? 誰にも連絡がつかなくって……」


 悲惨な状況になりつつあることと操舵室に向かうようにと言った。


「そんな……まだ初日なのにそんなことになるだなんて……」


「僕も実感が湧かないよ。それじゃ操舵室で」


 船は広いが今、アミューズメント施設にいるとは思えないので、先ほどの宣言通り個室にいてくれていることだろう。

 僕と輝成は個室に向かう。


 すると、徐々に誰かを呼んでいる声が聞こえてくる。


「まどかちゃーん!」


 声のする方に歩きながら耳を澄ますと、どうやらまどかを探しているようだ。


 到着すると、玲姉が顔面蒼白で探している。

 建山さんと島村さんも一緒だったが焦りを感じた。


「玲姉、まどかいないのか?」


「そうなのよ……。自分の部屋に戻ったと思ったんだけど……」


 僕は頭を抱えた。一難去ることなくまた一難と言った状態だ。

 一体何がどうなっているんだ……。

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