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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第2章 悪夢の共闘

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第7話 初仕事はサイン大会

2055年(恒平9年)10月26日火曜日


 文字通りの足の踏み場もないような人混み。そして、デモ会場のような叫び声の嵐。それが目の前に展開されていた。


「嘘……だろ?」

 ここは、帝君大学のサークル学生館1階。かなり狭いところに500人ぐらいだろうか……。

まるで、某遊園地のアトラクションを想起させるような長蛇の列が展開されている。

ちなみに、正平とカーターは列の整理に翻弄されている。

 

 列に並ぶ者同士でトラブルも発生しているようでまさしく“地獄絵図”と化してきている。「早くしろよ!」といった声があちらこちらから聞こえてくる。


「だから言ったじゃない! 無料だとこうなるって!」

 僕の右隣にいる玲姉が叫んでいる。玲姉は普段は品位がある話し方をするが、

今は叫びでもしないと隣にいる僕にすら伝わらないほど凄まじい人々の雑踏と化しているのだ。


 昨晩、虻利のつてを使い、空いているサークル部屋を貸してもらった。

そして大学ホームページのサークルコーナーで“相談所”を開設したことを宣言した。

 そこで今日まで僕は絶望的に失念していたことがあった。僕は一般の学生からしたらかなりの有名人だったのだ……(笑)。


「とりあえず他のサークルからも苦情が来ています! サークル学生館に入ることができないって!」


 今度は左隣にいる島村さんが叫んできた。“お前のせいだ”と言わんばかりの殺意に近い目つきで僕を睨みつけてくる。いつもながら目つき怖すぎだって……。


 皆が求めていることはひたすらサインと握手。更に、玲姉と島村さんも男達へのサイン・握手に奔走されている。玲姉&まどかは自分の用事が終わり次第、僕たちと合流してくれた。


 最初は、僕たちも大学の授業が終わってからこっちに来たので自分たちの部屋に入るためにサインを書きながら列をかき分けるという訳の分からない作業をしていたんだからほんと凄まじい事件と言える……。


「これは尋常ではないね……。ちょっと為継に連絡する……何か解決案があるかもしれない」

 何か解決策はないか為継に連絡した。


「それは大変ですな。私にお任せください」


 為継に連絡してから、およそ10分後。たちまち列がドンドン崩れて去っていくのが分かる。

全員一様に舌打ちや悪態をつきながら帰っていくのは気になるところではあるが……これは一体どうしたことか……。


「い、いったい何をしたんだ……」


「簡単に言わせていただくと、サインは行わない、非道徳的行動・不純なことは行わない。

後は、あまりにも人が多いので相談料は一律3000円とさせていただきました。

その通知を学生会館にいる人たちに一斉に通知したところ一気に帰っていったんです」

 ワロタ、それはあまりにも現金すぎるだろ……。


「あとは、学校の掲示板では凄いことになっていますな。サークル活動を積極的に行う人には虻輝様に対するグループに対する通行不能による不満が200件。サインを求めていた人たちはサインがもらえなくて不満が80件。とりあえず、私が掲示板も火消しにかかっています」

 為継が頼りになりすぎるだろ……。


「そもそも、何で僕のサインなんて欲しいんだ?」


「純粋にお兄ちゃんが人気だからじゃないの? 実情を知らないと見てくれは多少はマシに見えるからさ」

 それにしても、まどかは兄に対してあまりにも酷い言い草である……。


「私の調べたところによりますと虻輝様のサインというのはあまり書かれないためか結構高額で販売されており、人気もあると思うのですが転売にかける者も多いようなのです。

オークションサイトでは最高30万円という販売実績があるほどです。今日はそのサインが無料で獲得できると思ったのか殺到してきたというわけです」


「へぇ、そんなに僕のサインなんかが高値で売られているとは知らなかった。ようは、モラルのない人間が多いというわけだね」

 

 ふと、視線を感じたほうに目をやると玲姉は随分呆れた表情をしている。

恐らくは僕が暢気に見えていなかった発言をしているからだろう。


 しかし、その表情にはなかなか普段見られないような疲れが見えたし反論はしてこなかった。今の玲姉の言いたいことは大体分かるからな……。

また、玲姉は人混みだと特に他の人の思考が殺到してくるだろうから色々と辛いのだろう……。


「今度からサインはタダでもいいから純粋にサインが欲しいファンに行渡るようにしたいねぇ。

別に僕としてはいくらでもかまわないけどさ、欲しくも無い人が奪い合うように低価格で獲得してさ、

それを本当に欲しい人が何十万も払わなきゃいけないなんておかしいでしょ」


「そうですな……AIなどを駆使して判断したいところですね。虻輝様へのファン具合をクラウド上にアップされたデータや行動記録などを元に数値化して、上位の者から配っていくという手はどうでしょうか」

 為継に最初からこの一件も任せておけば良かったと思うほどにあっという間に全てを捌いている。


「なるほど、そんな手があるのか」


「また、転売対策として手に入れた価格より不当に高く売却した者に対しての罰則を加えましょう。

これも顔の識別判定とAIを駆使して行えば問題ないはずです」

 いやぁ、為継が万能すぎる……。


「それも是非行ってくれ。為継色々ありがとう。助かったよ」


「何のことは無いです。この程度ならお安い御用ですので」

 為継との連絡が終わった。為継は地獄から僕達を救ってくれたと言っていい。僕はみんなを労うために缶ジュースを買いに行った。それがこの騒動の根本問題を起こした少しでも償いになればいいんだけど……。




 人と人との押し競まんじゅう状態だったので、着ていた服が擦り切れた。今日でこの服とはおさらばだろう……。

この場にいる誰もが憔悴しきっていた。僕は労いと罪滅ぼしの気持ちも込めて協力してくれた皆一人一人にジュースを渡していくことにした。


「ひぃ……もう限界……まぁ、初日から普通では体験できないことが体験できたけどな……あ、ジュースさんきゅ」

 正平がパイプ椅子に倒れ掛かるようにして座りながらそんなことを言ってきた。


「それにしてもヤバすぎだろあの人数……マックスの時は入り口にびっしりいたから1000人近くいたかもな……」

 カーターなんて地べたで倒れこんでいる……。ジュースを奪い取るように受け取って開けると一気に飲み込んだ。


「せ、1000人……そりゃ、悲惨なことになるはずだ……。皆、本当に済まない……僕の認識が甘かった。これで悪評だらけだろうな……」

 まぁ、今日のように殺到されることは勘弁してもらいたいから暇なぐらいでちょうどいいんだが……。


「悪名は無名に勝るともいうから、宣伝効果は絶大ではないかしら。もうこの大学に知らない人のほうが少ないと思うわね。しばらく軌道に乗るまで私も手伝うことにするわ」

 玲姉の助言を無視したのに本人は前向きな意見だったのは正直言って助かったので胸をなでおろした。今後は玲姉の意見はしっかり聞いておかないとな……。僕とは見えている次元が違うのだから……。


 ちなみに、大学の運営側に謝罪のメールを送ったところ“次からは色々と配慮してください”とこちらに対する畏怖を感じつつも警告を受けた。


「なんというか、不特定多数に対して告知するのがよくなかったのかもしれないな。誰か知り合いに困っている人とかいないの?」

 特に、交友関係がよくわからない島村さんに自然と目が行った。


「私の仲間を紹介するのはさすがに気が引けますね……」

 島村さんの微妙な表情を見て「ああ、そうか……僕の配慮が足りなかった」と思った。きっと“テロリスト”と呼ばれている勢力に少なからず繋がりがあるだろうが今は仲間に迷惑をかけたくないというところだろう。

恐らく、島村さんを虻利家が野放しにした理由の大きな要因がこの1件に違いない。


「でもゆくゆくは、お父さん達とまた一緒に生活したいですし、そのための情報を集めたいです。情報収集になら純粋に協力したいです」


 ちなみに、島村さんのお父さんが今どうなっているのかと僕も気になった。そこで、僕なりに虻利のデータベースを使って調べてみたが、虻利の管轄内には存在せず、データ外だった。こうなると今もテロリストと繋がっているか若しくは死んでいる可能性が高いだろう。


 テロリストにもきっと派閥争いがあり島村さんが所属しているグループとはまた違うのかもしれないが……とにかくそんなことはあまり口にできないな――また睨まれるから(笑)。


「そうだよね……やっぱり実の親子とは一緒に居たいよね」

 まどかがそう意味深な表情で言ってきた。ここでは詳しく書かないが玲姉&まどかも家庭が複雑なのだ。


「虻利としては直接手伝うことはできないが僕個人としてはできるだけのことはしてやりたいと思う。まずは生きているかどうかそれすらも確かめられていないんでしょ?」


「そうなんです……でもいつかきっと会えるって信じてます」

 ただ、もう何年も会っていないのだから詳しい容姿を教えてもらっても僕達では判別つかない可能性が高い。ここは身内の“カン”として見分けてもらう他ないな。


「さて、今日は片付けもひと段落したしここまでにしましょう。ただ、私は少し用事があるから出前でも取ってもらえるかしら」

 玲姉が気が付けば片付け終えていたようで、そこら中が綺麗になっている。


「あ、そうなんだ。仕事の都合か何か?」


「そうなのよ。せっかくだから、吉岡君や佐藤君も夕食に誘ってあげたら?」


「ひゃっほーい! 俺寿司が食べたい!」

 カーターが先ほどまで死体か撃ち殺されたゾンビのように倒れていたのが体中から生気を感じる……何とも現金なやつである。


「わりぃな中将。たらふく食わせてもらうぜ」

 正平もそんなことを言っていた。


「量を食べるのは構わんがちゃんと味わって食べてくれよ」

 2人も雪崩れ込むサインを求める人々を整理してくれたんだから感謝の気持ちも込めて何でもご馳走してもいい。正直、僕達だけでは収拾がもっとつかなくなっていたに違いない。だが、最低限味わって食べてくれないとなぁ。


「輝君、後のことはよろしくね」

「うん、分かった」

 

 玲姉は優雅ないつもの足取りではなく、少し速足でその場を去っていった。どこへ向かって行ったのかは不明だが、玲姉が自ら言わないということは“聞くな”ということを暗に示している。ここは聞かないのが弟の役割だろう。


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