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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第5章 南の島で

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第29話 スポーツの素晴らしさ

 玲姉が髪留めで結び直すと、それと同時にまどかがふんわりとしたサーブをしてきた。

 

 依然としてまどかはコツを掴み切れていないらしい……。

 残念ながら身長や手足のリーチ的にも連合チームの“弱点”とも言える存在と言えた。

 

 勿論得点に絡むシーンもあるので僕ほど酷いわけでは無いのだが、建山さんと島村さんに比べるとぎこちなさが目立った。


「ふぅ~~~~ハッ!」


 玲姉は掛け声とともに強烈に打ち返してくる。


 それに対して今度は島村さんが胸で受け止める。ブルンと豊満な胸元が揺れてとても刺激的なレシーブだ……。


「視線くぎ付けユルセナイ、ユルセナイ……トウゥ!」


 建山さんがそれに対して何やら怨嗟のような声を上げながら玲姉の陣営とアウトになるギリギリのところに打ち返した。


「連合チーム12点目!」


「やるわね……。もっとも何やら今のは変わった理由での精度だったようだけど……」


 玲姉はそう言いながらボールを返す。最近では僕が遠くまで飛んで行ったボールを取りに行くケースが多いから疲れてきた……。


 次に島村さんがサーブをする。流石に運動神経なのか、かなりの威力のサーブをギリギリのゾーンに打てるようになってきている。


 玲姉はそれに対して太腿で空中に打ち上げてから強烈なスマッシュを繰り出す。


 建山さんがブロックするが、真上に上がってしまいアウトになる。


「くっ……!」


「アウト! 玲姉11点目!」


 玲姉がサーブ権を獲得すると連合チーム側に緊迫感が毎度走る。

 閃光のようなサーブの威力を誰もが思い起こされるからだ。


「さあ! 行くわよっ!」


 玲姉の見惚れるようなフォームから信じられないほどの威力のサーブが放たれる。


「うわあっ!」


 まどかがレシーブに失敗して尻もちをついた。ちょっと涙目になっていて気の毒だった……。


「玲姉12点目!」


 それは島村さんも思ったのか、まどかの様子を窺った。


「だ、大丈夫ですか?」


「う、うん……お兄ちゃんみたいに途中棄権するわけにはいかないよ……」


 僕みたいには余計だろ……。


「まどかちゃんはあんまり無理しないでください。私と建山さんでどうにかしますから。

 ただ、正面に来たのだけを確実にレシーブしてください」


 島村さんのいう事は的を得ていると言える。まどかは玲姉のサーブに恐怖してフラフラとしているような感じで、偶然レシーブできることがあるぐらいのレベルだ。


 役割を絞って自信を持って立っていてくれた方が活躍できるような気がする。


「わ、分かった。レシーブに徹底的にするよ……」


 そんな話をしている最中も玲姉は次のサーブを打つ構えをしている。


「大丈夫? タイム終わったかしら?」


「うん! お姉ちゃん思いっきり来てよ!」


――そして玲姉は要求通り再びまどかに向かって強力な球が放たれる!


 まどかはこれまで動けない又は一歩下がり気味だったが、今回は立ち向かった!


「連合チーム13点目!」


「やるわね。今後も本気の出しがいがあるというところかしら?」


 玲姉はニコニコとまどかを見つめている。やはりまどかのことが大切なのだろう。

 失点して笑顔になるというのはよっぽどのことだ。


「そ、それはそれで怖いな~」


 まどかがそう言いながらサーブの構えをした。

 レシーブは良くなった気がしたが、サーブは相変わらずふんわりとした感じだ。

 玲姉のとんでもスピードサーブの後だとスローモーションにすら見える。


「とうっ!」


 玲姉はレシーブをした後強烈な一撃を連合チームにお見舞いする。

 上手く建山さんのガードを掻い潜るが、島村さんが何とかレシーブに成功する。


「よくやってくれました!」


 建山さんが玲姉のいる場所と逆サイドに打ち込む。


「させないわ!」


 玲姉はそれでも追いついたのだ。サッカー選手のように足でレシーブするのが上手過ぎる。何のスポーツをやっても超人レベルで活躍することだろう。


 しかし、玲姉が微妙な体勢から際どいラインをハイスピードの当たりを狙ったために初めてアウトでの得点献上となった! 

 正確に言うと弾道はほとんど見えなかったので新たに増えた砂の跡を見た限りの話なのだが……。


「アウト! 連合チーム14点!」


「くっ……!」


 玲姉は唇を噛み締め、心底悔しそうな表情をした。玲姉はまず負けることすらないのでこんな表情を見ること自体が稀だ。


 しかし、まどかのサーブのターンは超スローモーションなのに何でか知らないが連合チームに得点が入る可能性が高い気がする。

 まず打ち返されるからサーブで決まってしまう事が無いにもかかわらず得点になっているんだから不思議だ。


 建山さんと島村さんがより気合を入れてまどかの心がくじけないように懸命に取り組んでいてくれているのかもしれない。


 つまり、まどかはその天真爛漫さから皆の接着剤みたいな役割になっていてくれているのだ。


「建山さん!」


「任せて下さい!」


 建山さんと島村さんが普段の険悪なムードが信じられないほど連携がうまくいっていた。


 スポーツとは本当に素晴らしいものだ。

 当初のスポーツの始まりは異常な暴力性を持つ人物を減らすために競技として始まったかもしれない。


 しかし、こうして普段対立している建山さんと島村さんのわだかまりが解消されていく。

 皆の連携や心の友情も少しずつ芽生えているに違いない。


 しかも、こうして審判側も女の子の健康的な肉体を凝視していても“試合をジャッジしようとしている”という正当性があるためにヘンタイだと言われないのだ(笑)。

 あんまり見惚れすぎるとジャッジできなくなるからちょっとした間の瞬間だけなんだけどね。


 このまま試合が永遠に続いてもらっても構わないとすら思えた。

 随分と自分の都合の良い考え方ではあるのだけども(笑)。


「玲姉14点対連合チーム19点!」


 気が付けば連合チームが連続ポイントを獲得していた。

 5点もの大差がついたのはこの試合が始まって以来初めてのことだ。


 しかし、玲姉は表情に焦りといった表情は無い。むしろ何か愉しんでいるかのようだ。

 これが真の強者なのか……。


 マッチポイント寸前になった状況で玲姉が頭でレシーブした後、キックで連合チームの陣営に叩き込んだ。もはやサッカーをしているかのようだ……。


「玲姉15点対連合チーム19点!」


 ようやく玲姉が1点返したがまだ20点のマッチポイント寸前の追い詰められた状況であることには変わりない。

 連合チームもこれまでのサーブ権を奪われたような恐怖感はあまり無いように感じた。


「フフフ……まさかこの技を解禁することになろうとはね……」


 玲姉の雰囲気が明らかに変わった。まるで悪役がこれまで技を隠していたかのような感じになってるじゃないか……。


 今まですら本気でなかったというのは正直言って驚きだ。


 しかしその雰囲気が変わったことを連合チームも気づき3人共ゾッとしているのが分かった。


 しかも雰囲気から言ってブラフでは無いことがこれまでの玲姉との関係性から僕にはわかる。


 150キロを超えるサーブを放ったり1対3で良い勝負になっていることですら常軌を逸しているのに一体玲姉はこれ以上何を隠しているというんだ……。

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