第28話 意地のぶつかり合う中盤戦
玲姉のサーブはコスモニューロンで測定してみると何と、平均時速150キロに到達しており、場合によっては160キロ近くになっていることが分かった。
プロのビーチバレーの男子選手の最高速度が140キロほどなのでそれすらも超えているレベルだ。
簡単に言えば常軌を逸しているのである……。
1人で3人を相手に戦える自信があるのもこれだけの技術とパワーを持っているからだ。
「これでどうです!?」
しかし建山さんはその150キロを超える胸で受け止めて上空にあげた。通常のサーブの威力程度ではそんなことにはならないが、玲姉のとんでもない威力の前では話が全く変わってくる。
流石建山さん腕では衝撃を吸収できないと悟ったのか、荒業に出たわけだ。
そこをまどかがバシッと玲姉のコートに落とし込む!
「やったぁ! 初めて役に立ったぁ! どうだー! お兄ちゃんより役立つでしょ!?」
「そりゃ僕より役に立たなかったら問題だろ……。これで玲姉4対連合3な」
五体満足で僕より役立たないとか最早、難病持ちとかそう言うレベルだろうな。トホホ……。
「とりあえず玲子さんにサーブ権を渡すと危険過ぎます。
どうにかして私たちで連続サーブをできるように頑張りましょう。
まどかちゃん頼みましたよ」
「う、うん……やれるだけのことはやるよ」
島村さんはよく知らんのだろうが、まどかはプレッシャーをかけるとあんまりよくないような気がするけどなぁ……。
コイツはノビノビやらせた方が力を発揮するタイプだと思う。
プレッシャーを受けてしまったまどかは、恐る恐ると言った感じでのサーブはフワ~っと玲姉のところに飛んでいく玲姉は待ってそのまま強烈なスマッシュを打ち込んでくる!
「うわあああっ!」
まどかが倒れながらなんとか返す。
しかし、力加減が偶然とはいえネットのギリギリ上を通過したためにポトリと手前で落ちた。
そこを島村さんがブロックして玲姉のコートに上手く落とした。
「玲姉4―連合4!」
ついに同点になった。いや、人数差を考えればやっと同点と言う感じでもあるんだけど……。
「何とか揺さぶるようにしましょう!」
玲姉は建山さんのサーブを右足で上にあげようとするが失敗する。
次に島村さんのサーブは 玲姉は滑り込むようにしてレシーブするがネットに当たり惜しくも連合チーム側に行かなかった。
玲姉のレシーブを上手いこと失敗させることに成功して連続して連合チーム側が得点を加えていった。
「ふぅ……そろそろ本気で行かせてもらう時が来たようね」
まずこれまで本気でなかったことに驚きを隠せないが確かに目つきが一段と鋭くなり、見ているこっちが寒気を催すレベルだ……。
再びまどかがおっかなびっくりとしたフォームでフワ~っとした感じのサーブをすると今度は玲姉は一度上にあげてからこれまでより威力のあるスマッシュを繰り出した。
その弾道はビーチボールとは思えない閃光のようなスピードで弾道は僕も追い切れず、新しくついた砂の跡をみるとコート内に入ったことが分かったというレベルだった。
「み、見えませんでした……」
「こ、これは……ボールが割れたけど連合チームの陣営で割れたから玲姉に1点と言うことで良いかな?」
「くっ……仕方ないですね」
僕は玲姉にボールを渡す。玲姉は得意気でありながらも目がマジというちょっとアンバランスな感じの表情だ。
「当然よね。それじゃ、ドンドン行かせてもらうわよ!」
またしても強烈なサーブを打ち込む!
「うわっ!」 「キャッ!」
壮絶なサーブを連発しているために、島村さんが思わず可愛い声を上げてしまうほどだ――なんて思考が島村さんに悟られたら即座に吹き飛ばされそうだけど……。
「玲姉10点目!」
玲姉の脅威の6連続サーブでの得点だ。
玲姉は建山さんの胸でのレシーブすら許さないわ! とでも言わんかのように低い弾道で狙ってきている。
玲姉単独チームは玲姉が常にサーブをできるところが大き過ぎるメリットと言える。
ネットを掠めつつ低い豪速弾道と言うのがもはや人間の領域を超えている。物理の法則すら歪めていそうなほどだ。
連合チームのレシーブが成功する確率がかなり低いからだ。
無論3人が何もしていないわけでは無いのだが、低く厳しいゾーンに強烈な球が撃ち込まれていっているために上に上がってくれないのだ。
強すぎるレシーブは逆に球が破裂しかねない。そこを恐れている面もある。
「それじゃ、行くわよっ!」
しかし、7回目の連続サーブの時に遂にまどかが上にあげることに成功した。滑り込みながらだったために偶然に過ぎないが、大チャンスが訪れたことは間違いない。
玲姉はレシーブから連合チーム側に向けてスマッシュを加えるが建山さんがブロックする。
「連合チーム7点目!」
連合チームの3人はようやく得点を挙げられて嬉しいというより、ようやく玲姉の150キロサーブを受けずに済むという感じでホッとした感じだった。
僕は連合チームが圧されているから頑張れとか言いそうになったけど――どうにもどっちかに加担すると後で逆の方から何か言われることは明白だから、どちらの肩を持つのを止めようと思った。
僕の心の中での応援が効いたのか、続いて今度は3連続で連合チームが玲姉を上手く揺さぶって得点を加えていった。
「玲姉10点、連合チーム10点目!」
振り出しにまた戻った。思った以上に混戦になっている。
やはり玲姉にサーブ権を渡したら終わりと言う雰囲気が連合チームに緊迫感を与えており、精度の高い動きを実現させていると言えた。
連合チームに得点が入る度にどうしてか僕に対して睨むようにして見てくるのが気になったが……。
「ここから始まったと思って頑張ろうっ!」
まどかがちょっと間の抜けた声を出すと建山さんと島村さんが笑顔になる。
まどかはやっぱりムードメーカーとしての素質が高いと言えた。
「むしろ、サーブ権があるだけ私たちの方が有利ですよ! それっ!」
島村さんが再び弓を射るような格好でサーブをした。
玲姉が何とかレシーブをして連合チームに返すがまどかが軽くレシーブをして建山さんが決めた!
「連合チーム11点目!」
おぉ……ついに連合チームが初めてリードした。
「ふぅ……やるわね。皆もコツをつかんできたという事かしらね?」
玲姉はまだまだ余裕があるという感じだ。
心技体の全てにおいて頂点を極めているといっていい玲姉はこれから何をどうすればいいのか今も頭の中ではじき出しているのだろう。
「輝君は下らないことばかりを考えていないで平等にジャッジをすることに集中して欲しいところね」
「え……? 心の中で応援するのすら禁止?」
「無の境地でいなさい? いいわね?」
玲姉は髪を結び直した。特に乱れた様子が無いのにこの行動を取るときは、たいていイライラし始めている状態だ。玲姉が怒ればビーチボールが僕の顔面を直撃しかねない。
「は、はい……」
玲姉としては思考が流れてくるためにプレイに集中できないと言いたいのだろう。
僕の思考が何で影響するのかは謎でたまらないが、それだけ真剣勝負だと訴えたいのだろう。
スコアとしても今がようやく折り返しで、これからが本当の戦いと言えた。




