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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第5章 南の島で

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第27話 人数差ビーチバレー

 操舵室から急いで出ると玲姉がニコニコとした表情で待ち構えていた。逆に怖い……。


「や、やぁ。ちょっと為継に体の状態を診てもらっていてね」


「ふーん、私たちから逃げたわけじゃぁ無いのよね?


 玲姉が澄んだ瞳で僕を見つめてくる。何もかも見透かしているようで怖さすらある……。


「も、勿論さぁ……」


「でも、体調の方は本当に心配ね。気を失っていたぐらいだったんだから……。

 検査の結果はどうだったの?」


「体の状態は胃が少しダメージを受けている程度のレベルらしい」


 ストレスでな……と言う言葉は飲み込んだ。


「それなら安心ね。それじゃ、また遊びましょ」


「う、うん……」


 拒否してもどうせ強制参加だ。ここは従う他なかった。

 信じられないほど柔らかい手に引っ張られながら玲姉に好き勝手にされる。この構図はずっと変わっていなかった。

 

「さぁ、輝君も戻ってきたことだし今度はビーチバレーで遊ぶわよ~!」


 玲姉がどこからともなくビーチボールを取り出し何個も持ってジャグリングを始めた――無駄に上手と言える。


 建山さんがそのうち1つを玲姉からサッと奪い取り、空中に上げてスマッシュしようとすると、パーンッ! と言う音を立てて破裂した。


「ちょっと先んじて練習をしたつもりだったのですが、手加減するのが難しいですね……」


 スパイクでビーチボールが破裂したの初めて見た……。

でも、ロボットを蹴り飛ばすぐらいの力があるんだから当たり前なのだが、にわかには信じられないことが展開されている。


 僕も通常の価値観から“この4人専用“にアップデートしていかないとついていけない。

 見た目はむしろ女の子でも細い部類の4人だが、それだけ常軌を逸している存在と言える。


「ルールは簡単。私とそれ以外の4人での対戦で21点マッチ、2プレー以内で相手コート内に返球よ」


 玲姉が笑顔でピシッと指を僕たちに向けて指してくる。


「はっ!? 正気か!?」


「舐められたものですね……。私と玲子さんで対等レベルだと思っていたんですけど……」


 建山さんの表情が歪んだ。正直バカにされていると思ったのだろう。プライドも相当高そうだからな……。


「建山さんは力加減が上手くいかなさそうな気がしたからね。

 私は力加減はかなり自信があるからね。これぐらいのハンデでちょうどいいのよ」


 玲姉は相手に合わせるのは天才的だからな……。ビーチボールの力加減に対する最適解を既に見つけ出しているのだろう。


「あともう一つ、ボールを破壊した方は1点相手に与えるというのはどうですか?」


「あら、私に有利なルールだけどそれでよければね」


 そう言いながら玲姉はキビキビとネットを設置した。この船にはそんな物もあったのかよ……。確かに砂浜みたいな場所があるからできなくもないとは思っていたけどさ……。


「お兄ちゃん、足引っ張んないでよね!」


「お前もな!」


「私の方が、少ないから私からサーブさせてもらうわよ! それっ!」


 ビュン! と言う音を立てながら玲姉のサーブが僕付近をめがけて襲ってくる!


「グハッ!」


 腕で必死に上にあげようとするがあらぬ方向に飛んでいく……。威力が凄まじくレシーブ不能だ!


「まずは私の1点ね! 次っ! それっ!」


「ひいっ!」


 今度も飛んできて頑張ろうとするが、上に上がらない……。そして、腕が内出血で真っ赤に染まって痛い……。

 あっという間に玲姉2対連合チーム0だ……。


「やっぱりお兄ちゃんが足手まといだ~! 戦力外だよ戦力外!」


 まどかがいつもの仕返しとばかりに笑顔でそんなことを言ってきた。


「いやぁ流石に戦力外はちょっと……」


 僕にも意地があると言おうとしたが、島村さんが振り返る。まさしく鬼の形相だ。


「駄目ですよ! 離脱してください! あなたがそこにいると誰もその場所をカバーできません!」


 ひ、久しぶりにこの顔を見たが縮みあがった……。確かに玲姉から集中砲火くらって2点取られたけど……。


「4対1より3対1と数が減る方が有利とか言われるって……」


「知らないんですか? 無能な味方の方が有能な敵より脅威だって言われているんですよ?」


 それナポレオンの言葉の応用だよね……。


 島村さんも“超”が付くほどの負けず嫌いだ。今は“スイッチ”が入っていると言ってよかった。


「は、はい……」


 僕はおずおずとコートの外に出る。このままだと電気が水の弓矢で強制退場されかねない。

 この中で唯一の男子なのにいない方がマシって言うのがホント凄いよな。僕が酷すぎるのもあるけど……。


「虻輝さんは体調にもまだ懸念がありますからね。スコア担当と言うことで良いと思いますよ。玲子さんもそれでよろしいですか?」


 建山さんは声と言葉の内容は優しいが、内容は結局戦力外通告だし、目はやはり島村さん同様真剣だ。

 

「そうね。今のままだと輝君集中砲火で正直言って勝負にならないからね。自然に狙っちゃうし」


「自然に狙うなよ……。おかしいだろ色々と……それじゃ僕は審判でもやるよ。

 こう見えても動体視力は良いからね。適切な判定が可能だと思う」


 そして、的確に僕を狙えるのも凄いよね……。


「輝君はゲームばかりしていてよく目が悪くならないわよね……」


「まぁ、その点は虻利家からサポートを受けているからね。視力低下しないようなあらゆるサプリメントなどの栄養法や視力が低下しないような画面の工夫もあるし……。

 あとはVR空間だとそんなに視力低下しないから昔ほど懸念する必要が無いんだよ」


「何でも良いから頼むわよ」


 玲姉は僕が解説し始めるとげんなりと言った表情になる。

 趣味が合わないのがホントに残念なところだ。


「はいよ」


「じゃぁ、行くわよ!」


 玲姉は今度はまどかめがけて強烈なスパイクを打ち付けた。こうやって横から見ると本当に見事なフォームだ。


「あちゃー! 2人ともゴメーン!」


 まどかもしかし僕同様にまともにレシーブできていない。


「おいまどか~お前もか~?」


 玲姉の動きはさっきから変わっていない。“一番弱そうな奴”を狙っているのだ。

 例えそれが大切な妹だとしても容赦しない。


「むぅ~!」


 まどかがプクゥっと膨れてちょっとだけ可愛いが今はその場面ではない。


「早く試合に戻れよ」


「これで私の3点目よ。輝君も早く得点を更新するっ!」


 僕の後ろにそう言えば得点版があったので更新しておいた。デジタル式なのでタップするだけでいいのは楽だ。さっきまで玲姉がサッとボタンを押していた。


「私の連続サーブ止めてみなさい!」


「させません!」


 建山さんがまどかの方向に飛んでくることを読んでブロックしてきた! 玲姉はコートの端の方に立っていたために飛び込むようにしてあげようとするが流石に失敗する。


「ふぅ……建山さん流石にやるわね」


「連合チーム1点!」


 玲姉がパッパッと砂を綺麗に払いながら立ち上がる。そんな姿まで華麗なのだから驚きだ。


 しかしようやく3対1だ。玲姉単独チームにやられそうな雰囲気がヤバすぎる。


「それじゃ、私がまずサーブを打ちますよっ!」


 コートギリギリを建山さんが強烈なサーブで入れていこうとするが、玲姉もそれを読んでいるのかポンと腕で上手いこと上に打ち上げて次にバシッと先ほどよりは劣るものの強烈な返球を返す。


「た、建山さん!」


 島村さんがレシーブをして建山さんの真上辺りに上手くトスする。

 これまでサーブだけでほとんど決まっていたので初めて“ビーチバレーらしい“感じになった。


「もらいましたっ!」


 建山さんはうまい具合に手前の玲姉でも届かないところに決めて2点目だ。

 普段は仲悪そうな2人の上手い連携にちょっと感動すら覚えた。


「連合チーム2点目!」


「やるわね。私も気合を入れないと」


 単独でありながら人類最高レベルの戦いが続いている……。


「では、次は私が行きますね」


 島村さんが弓を構えるような格好になってサーブをした。

 端ギリギリのラインに行ったが、玲姉が何と今度は足でレシーブをする。

 上手い具合に真上に上がっているんだから驚きだ。


「えっ!? ありかよ!」


「ビーチバレーじゃ、サーブ以外じゃ足を使ってもいいのよっ!」


 そう言いながら玲姉はスマッシュをする。弓なりの姿はそれはそれで美しい。


「くうぅ!!!」


 建山さんがレシーブに失敗してコートの外に飛んで行った。


「玲姉4点目!」


 玲姉は得意げな顔でブイサインをしている。たまにこういった子供っぽい表情もするんだよな……。


 しかし、玲姉にまともに打たせたら誰もレシーブで止められない。恐ろしい……。

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