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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第5章 南の島で

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第26話 追尾される身

「はっ! ここはどこだ!?」


 目が覚めると太陽がまだ真上にあって眩しい。しかし頭のあたりはフニュっと少し柔らかい。


「あら、輝君。目が覚めたのね。良かったわ……。もうすぐ小早川君を呼んで状況を確かめようと思っていたぐらいだったから」


「あ、玲姉……」


 玲姉が心配そうな顔をして覗き込んでいる。

 ――、どうやら僕の頭は玲姉の膝枕という至高の場所に位置しているようだった。


 ただ、思考の場所であったとしてもあんまりにも恥ずかしいので慌てて離れた。でもまだ頭が重い気がしたのでビーチチェアーに横になる。


「あれ、どうしたんだっけ――あぁ、そう言えばみんなから水鉄砲で集中攻撃を食らって逃げようとしたら」


「頭からプールに飛び込んだからどうしちゃったかと思ったけどすぐに気づいてくれたよかったわ。

 ちょっと私たちも羽目を外しすぎたわ。

 そもそもの話、プールサイドを走らせてはいけなかったわね。ごめんね」


 玲姉は眉を下げながら申し訳なさそうに言った。完全に被害者なのにこっちまで申し訳ない気分になる……。


「まぁ、走ってしまった僕が良くなかった。そして、愉しんでくれたのなら何よりだけど。

なんで気が付けばみんなで僕を集中砲火してたんだよ……」


「それが一番愉しそうだったから~。でも次からはプールに入ってお兄ちゃんを集中攻撃するっていうルールに変更しよ~」


 そう言いながらまどかが水と氷枕を持ってきていた。僕は水を受け取ってグッと飲んで氷枕を頭に乗せる。ふぅ、疲れも取れていくようだ……。


 しかし、僕が狙われる状況は一向に改善されないらしい……。


「まどか。お前は覚悟しとけよ。後で頬っぺた引っ張る刑に処してやるからな!」


「え~、ちょっとやめてよぉ~。でもお兄ちゃんだって可愛い女の子に囲まれて嬉しいんでしょ!」


「“可愛い“とか自分で言うなよな。そして、お前はまだまだ子供だ。

 僕も“SSS級イケメン“とか言っている以上、お互いさまと言う感じがあるけど……」


「むぅ~~~~! ホントあたしに対して評価酷いんだからっ!」


 とびきり可愛いけど独特な娘ばかりだけどな……。お互いに別々の世界観を持っているというか……。


「ん? ところで建山さんは何であんなところで寝てるんだ?」


 ふと、視界を遠くに向けると、僕から5メートルほど先のところで建山さんが島村さんに介抱されている。


「あぁ……私と建山さんどっちが輝君の膝枕をするか論争になったの。

 色々と言い合いになって、建山さんが怒りのあまり水鉄砲に色々なものをを詰めて発砲したら銃が耐えきれずに爆発して、自爆して倒れたってわけ」


 玲姉にしては珍しく“自業自得よね”といった雰囲気を感じさせる言い方だった。

 結構タフな感じがする建山さんが伸びるほどの状況ってどういうことだよ……と思ったけどまさかの自爆だったとは……。


 でもその様子がすぐに想像できてしまった……。何を言い合っているかまでは分からないんだけど……。


「あ……そうなの……」


 なぜそこまで僕に執着しているのか不明だが、この2人の対立は深刻だった。

 まぁ、僕をダシにして何か2人とも別のところを見ているような気がしなくも無いんだが……。


 僕としては2人とも良い人だから仲良くしてほしいという気持ちではいるんだけど……。


 しばらく水分を取って安静にしていると気分が良くなってくると同時に改めて気恥ずかしい感じを覚えてきた。


 だってこれだけの水着の美人に囲まれていて“おかしい気”を起こさない方が人間として、男としてどうかしているよ。


「ふぅ……大分気分が良くなってきた。ちょっと散歩してくるよ」


 そう言って、今度は慎重に歩き出した。


「気を付けるのよ。さっきまで気を失ってたんだから」


「ほい~!」


 そう返事をして操舵室に向かった。いったい今どこにいるのかについて聞きに行くためだ。





 操舵室は正直言って形だけのものだ。

 というのも、よほどの異常事態が起きない限りは数多のセンサーが搭載された自動運転で目的地に向かうことができるんで様子を確認しているだけなんだろう。

 それにしても4人共いなくなること無いだろうに……。定時交代すればいいだけの話だ。


 そんな訳で僕が行く意味は全くと言っていいほどないが、プールにいれば命がいくつあっても足りないのだ……。


 操舵室に行くと思った通り4人がいた――もっともいるだけで具体的に操縦をしていそうではなかった。

 暢気に将棋をしていた。そして為継は将棋が尋常ではないぐらい強い。


「これは虻輝様。まだ、お楽しみの時間を満喫されていてもよろしかったのに」


 局面が難しいのか為継の表情は真剣だ。


「あのプール周辺にいると心身ともに疲労が真冬の豪雪地帯のように積もって寿命が縮みそうでね……」


「でしたら虻輝様も将棋いかがですか? 為継が飛車角落ちでも私は相手にならないのですが……」


 輝成の表情を見ると負け覚悟と言った様子だから意外と対照的と言えた。


「僕は8枚落ちで対局してもらっても為継に負けたことあるから遠慮するよ(笑)。

ところであとどれぐらいで目的地に到着しそう?」


「順調にいけば後2時間程かと。予定時刻は16時15分です。自動で操縦していますから問題なくその時間に到着するでしょう」


「しかし、その周辺海域から異常なことが起きているから船や飛行機が消失しているんだろ?」


「そうです。ですから我々がこうしてケアをしているわけです。

今のところ何も無さそうですが」


 海の水面やちょっとした海洋生物や船が飛ぶように過ぎるが、頑丈な透明のガラスが視界を遮らないようにして船全体を覆っているために風すら感じることが無い。

 

「何かあったら言ってくれよ。僕に何かできることは無いんで玲姉を呼ぶだけなんだけど(笑)」


「目標地点を今、ドローンやロボットを先行してデータを取っているのですがどうにも特筆すべき点は無いと言えるのです。これまで数多の怪奇現象が起きていたのが信じられないほどに……」


「何も無いことに越したことは無い。最近色々あり過ぎるからな……。

 まぁ、何も無くても女の子たちの水鉄砲の的になっているという有様なんだけど……」


「なんと……表情に疲労が色濃いような気がしましたがそう言う事でしたか。

 少し検査をしてみましょう。虻輝様、こちらへ」


 為継が持っている機械から何やらオレンジ色やら赤色の光が出ている。


「ふぅむ……特に問題は無さそうですが、精神的なストレスか胃に負荷が多少はかかっているようですな……」


「これまで“のほほん”と毎日ゲームに明け暮れていたのに突如として色々なことが殺到しているからな。

 玲姉達も僕を“おもちゃ”にしているような節があるし……」


「虻輝様が怒んないからつけあがってるんですぜ! いっちょガツンと言ってやればいいんですよ!」


「んじゃぁ、景親は玲姉にガツンと言えるのか? キレたら壮絶な反撃が待っているわけだが……」


「いえ、無理っす……アレに耐えられるとは思えません。俺は大人しく素振りしてます……」


 景親は即座に血の気が引いていった。こいつは目の前にいないと色々言ってしまうタイプなのだろう……。


「だろ? 僕だって現実問題逆らえないんだって。

 美人にボコボコにされるだけまだマシなんだよ。あれでも相当手加減していただいている感じだし。

 唯一の抵抗は逃亡だけど、それも何度阻まれたか分からない。これは諦めるしかないんだよ」


「まさしく悟りの境地に近いのですな……」


「玲姉の“弟”としてのキャリアが違うからね。そういう心境にもなってくるわけだよ。

 しかも、思考まで読んでくるから“考えること”すら許されない。

 コスモニューロンで監視されている状況をシステムを介すことなく味わえるわけだ」


「それは嬉しくない特典ですな……。我々もなるべく彼女がいる前では何も思わないように注意しないと……」


「ちょっとぉ~! 輝君どこにいるのかしら~! 」

 

 輝成がそう言うと操舵室の向こう側から玲姉の声が響いてくる。


「ひぃぃぃぃぃ! じゃ、じゃぁ僕は戻るから!」


 僕はそう言って操舵室から出ていった。


 噂をすれば影と言うやつなのだろうか? 僕の体に発信機が付いているんじゃないか? って言うぐらい玲姉に位置情報を毎度のように察知されているんだが……。

 大王も早く玲姉の全てについて解析して、僕にその対策方法を伝授して欲しいところだ……。

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