第6話 なんでも万屋相談所開設
「ところで、玲姉。僕の考えを読んでいるならあらかた分かると思うんだが、
吉岡やカーターが就職活動に向けて他の人たちと差別化したい“何か”をしたいということらしいんだ。その“何か”について何か思いつかないか?」
ちなみに玲姉は勝手に頭に“流れ込んできた“相手の情報については玲姉自身からはほとんど言ってくることはない。
あくまでも会話の上で得た情報を中心に話を組み立てつつ、本当に言いたいことを引き出させる――そういった話術を用いているように思える。
以前、玲姉に凄い話術のやり方だね? と聞いたら子供の頃、聞こえてきた内容を直接的に会話に使ったら嫌われたから――と答えてきた。昔は相当この能力で苦労したらしい。
「そうねぇ~、その“何か”というのは本当に何でもいいのかしら?」
「具体的な事は何も言っていなかった。ただ、就職活動での面接で言えるようなことじゃないと正平やカーターは満足しないだろうね」
「……なら、丁度いいわ」
「な、何が丁度良いんだ?」
冷汗が手からにじんできた……とても嫌な予感がする。
困ったことにこういう予感は無駄に当たる。
「なんでも万屋相談所を大学で作りましょう」
「はぃぃぃ? そんなの大学の学生相談所みたいなのがあるだろう」
「やっぱり大学の先生相手や専門医の先生では逆に相談できないことってあるのよ。
同じ年代の人のほうが話しやすいってことがあるでしょう?」
確かにそれは言えているかもしれない。が、僕がやるべき仕事ではない。
「いやー、しかしダルすぎるでしょ。大体僕みたいな人生経験が浅い人間が質問とかされても何か答えられるってことってほとんどないと思うよ。
僕なんて外の世界についてロクに知らんからな」
何とかして僕が関わらなくていいように必死に頭を巡らせてみるがいい案は浮かばない……。
「輝君に人生相談なんて大層な事ができるとは全く思っていないわ。
それなら私が引き受けてもいいしね」
そこまであっさりと言われると逆に傷つくが……事実なのも仕方ない。玲姉が人生相談を受けたらそりゃ何でも解決しそうな気がする……。
「えっ、じゃぁ具体的にはどんなことを僕がやるんだよ」
「“足”で動かなくてはいけないことよ。
むしろ経験を語るのではなく経験をしに行くの。
外の世界を知らないのならば今から知っていけばいいじゃない」
「そ、そういうことなの? ……いやしかし、力仕事とかまたできないからなぁ……」
真っ先に頭に浮かんだのは肉体労働だが、両手で10キロのものすらロクに運べないレベルなんだが……。
「力仕事は、吉岡君や佐藤君に任せればいいのよ。ホラ、輝君は人に任せるのは得意じゃない?」
「う、うん……」
実情は押し付けているだけなんだけどね……。
「仕事の内容は輝君にしかできないことを行ってもらうわ。
これまでは虻利家のツールを悪いことにしか活用していなかったけれども、
コスモニューロンなどの最先端の技術と虻利が関わっているツールを使って問題を解決してもらうの」
「は、はぁ」
ちょっとこめかみを押さえて考えてみたが……それならばなんとかなるかもしれないし他と差別化もできるかもしれないが、それにしてもいきなりそんなことになるとは……。
「ウジウジしてないでサッサとうなずいちゃえばいいんだよ! お姉ちゃんの言うことはまず正しいんだからさ!」
まどかに言われると何故か腹が立つのは何故だ……。
「そもそもコスモニューロンでのAI診断とかもあるし、
僕の出る幕はない気もするがね」
虻利の最新ツールを提供して終わりということにはならんのかね?
「効率重視の世界の中で誰もが生活するのが精一杯で自分以外に目を向けていられないのよ。
そんな、思いやりが失われて行っている社会の中で、人が人に対して真摯に向き合って相談を受けるという気持ちは貴重だと思うけどね」
「こんなにやる気が無い僕に対して“人に対して真摯に向き合う“気持ちが生まれるとでも?」
半ば皮肉を込めて言ってやった。しかし、玲姉はそれを受け止めるかのように穏やかな表情だ。
「輝君、これはある意味チャンスなのよ」
「いや、いったい何のチャンスなんだよ……」
「言ってたじゃない。“ありがとう“と言われる人物になりたいって」
「少し言い方は違ったと思うけど、おおよそそうだね」
「成果を挙げれば間違えなく“ありがとう”と言ってもらえるわよ」
「っ! そ、……そうか」
僕としては思いもよらぬコメントだった。確かに相手側のことを考えてみると悩みを解決してもらってお礼を言わない人は逆にそういない気がする。
「ゲームをしているだけじゃ、味わえない体験だと思うけどなぁ~」
確かにゲームで世界一になっても、“凄いプレイでした”“感動しました”と言う声は多く聞くがお礼を言われることはあまりない。
「分かったよ! やればいいんでしょやれば!」
本当に持って行き方がうまいよな……。ホント完全に負けだよ。
そんな会話をしているうちに僕の視界の端で島村さんが静かに自分の部屋に戻ろうとしている。
「知美ちゃん待って」
玲姉に言われるとビクリと反応した後、島村さんの動きが止まる。
「察しがいいから立ち去ろうとしているんだろうけど。
もちろん、島村さんも参加してもらうわ」
「や、やっぱり、私も参加するんですか?」
「そうよ。これは私からの業務命令なんだから」
「わ、わかりました……」
おい……最悪過ぎるだろ……。島村さんはまともに会話すら成立しない間柄なんだぞ?
しかし、先ほどの会話の流れ、そして玲姉の性格からしたらそうなるだろうと僕も想像していたけどな……。
「あのぅ……島村さんとだけは勘弁し欲しいんだけど……」
他の人の相談や問題を解決するどころか、問題が新しく発生すること以外想像がつかない……。
「輝君は知美ちゃんのことを“更生させる”って虻利家に啖呵を切ったそうじゃない。それなら自分で何とかし貰わないとね~。さっきだって一緒に行動することを承知したじゃない~?」
「いや、それとこれとは話は別でしょ。島村さんと共同作業したら作業にならないって!」
「何も1から10まで共同作業をしろとは言わないわ。
とりあえずは、2人とも別々のミッションをこなしつつ最終的には同じ目標を達成するということよ」
「そ、それなら仕方ないですね……別のミッションでしたら……」
もはや観念したのか島村さんは項垂れながらそう言った。
先ほど、僕と一緒に行動すると“仕事“を与えられたのもありこれ以上の抵抗は無駄だと思ったのだろう。玲姉は僕らの言質をすかさず付いてくる。
もはや僕らに逃げ道は存在しなかった。
「ふぅ、分かったよ。……ちなみにどんな相談事を受けるんだ?」
それにしても、玲姉のいささか強引なリーダーシップが凄すぎる……。
弱点は強制的に克服させようとする玲姉らしい考え方ではあるけれどもそれにしても場を完全に制圧している。
「“なんでも相談所”というからには文字通り“何でも”よ。
でも、お金を貰ったほうがいいと思うわ。
とんでもない内容を安く請け負うことになったら嫌でしょう?
それにあまりにもたくさん仕事が来過ぎると思うの」
「まっさかぁ~、いきなり相談所を学生が開いてそれで客が殺到してきたら笑えるけどな。別に僕はお金に困っていないし。サークル活動みたいなものなんでしょ?」
僕の頭の中では基本的に仕事がなくて足を投げ出してゲームをやっているというイメージしか湧かなかった。
「……輝君がそう言うならそれでも良いけど、知らないわよ?」
何か玲姉の言葉には少し引っかかるものを感じたがとりあえず無料で始めることになった。
しかし、これだけ嫌われている島村さんとの共同作業とかある意味悪夢以上のリアルな悪夢と言えるな……。
まぁ、特別拘置所で“島村さんを新しいプログラムで更生させる”と高らかに宣言した以上はこういったことも仕方ないのかもしれないが……。




