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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第5章 南の島で

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第19話 体のリミット

 ラストの11戦目が始まる前に簡単にデータを振り返っておく必要がある。


 眼を開けた瞬間から視界が歪んでいるので、眩暈と吐き気との戦いに舞い戻る。これまで吐いていないのが奇跡とも言える。全世界から見られているから、吐いたりしている無様な姿を見せられない意地があった。


 そうなると不快感を遮断するためにも、もう目を瞑って戦った方が良いだろう。


 こうなってくると“音”だけが僕の頼みとなる。

 相手の最後のキャラクターは確か“ブラック・ペッパー“だったはず。


 足音が独特なキャラクターだからどういう足音の時にどの攻撃が来るかを簡単に振り返った。


 確かステップが多くなればなるほど大技を繰り出してくるはず。そのステップ音をしっかり聞き分けることが重要になってくる。

 後は自分がどこを向いているか相手がどちらにいるのかも判断することが大事だろう。


 もはや調律師のような聞き分けが必要かもしれない――それは言い過ぎか(笑)。


「ふぅ、もう1回状況を整理しよう」


 そんな考えが浮かんできているだけ少し余裕が出てきたのかもしれない。


 後は僕の指がきちんと動いてくれるかどうかだ――でも、さっきよりは色々と余裕が出てきた。

 最後は本来なら得意で相棒とも言えるダッシュ・ウルフなのだが、こんな状況になるのは想定外だ。

 

 立ん棒で負けが続いて“相棒“に対してとても申し訳ない気がした。

 

 ウルフ、最後にお前に最高の見せ場を作ってやるよ――そんなことを思っていると何となくウルフが頷いたような気がした。


「決勝戦、最終第11戦目、スタートです!」


 とりあえず、向いている方向を変えないように注意しながら様子見でジャンプしながらバク転する。


 ステップが2回聞こえた。これは斜め上からの攻撃が来る。僕は相手が“いるであろう”方向にスライディングしながら上方向に攻撃をする――相手がダメージを受けた声がした。


 どうやらこちらが反撃をしてくるとは思わなかったのか、動揺が走ったような気がした。


 僕はすかさずコンボを繰り出す一気に体力を削ったのも実感できた。


 ところが、僕が復活したのを警戒して相手が距離を取ったのが分かった。

 そしてチマチマと遠距離で攻撃し始める。


 流石相手も世界ランク2位、状況の理解能力が速い。

 僕がどの方向に敵がいるのか判別がつきにくくなっているのにも気づいているんだ。

その状況を理解して遠距離から攻撃をすることにしたのだろう。

 

 恐らくは僕の方が今はちょっとだけHPゲージでは負けと言った状況だろう。

 5分の時間制限があるから最悪体力ゲージの判定勝ちもフェルミさんとしては狙える。


 これは困った。正直なところ接近してくれないとどれぐらい離れたのか完全に手さぐりになるからだ。

 遠距離の攻撃は正直なところダメージ的には少ないのだが、今の状況では一番痛い。ダッシュ・ウルフの長射程の技が少なく攻撃範囲が狭いのもまた状況的に良くないように思えた。


 これは昨日の建山さんにやられたような状況に近い。今日はすぐに強引にでも飛び込んだ方が良いだろう。


 とにかく長期戦にされるのが一番状況的に良くない。


 しかし根本の問題はダッシュ・ウルフのHPよりも僕の体力側の問題だ。

 もはや気力だけで耳を澄まして指を動かしている状況で、ちょっとでも集中力が切れたらまた目が回ったり体が震えだしかねない。

 

 体がたまに勝手に震えだすたびにそれだけ極限の状況下に僕はいるのだという事を思い出した。


 僕の中のリミットはもう1分も無いのかもしれない。


「ぬっ!」


 しかし、接近戦をしようとするがどうにも僕の思惑とは裏腹に相手が右に左に動いているらしく場所が掴めない。


 どうやら何秒かおきに移動しつつ攻撃をしているのだという事が分かった。

 これは僕の勘ではあるのだが、大体5秒ごとに切り替えているんじゃないか?


 そんなことを考えているうちに僕の体力ゲージが残り僅かになったという危険的なことを告げる緊急音がした。


(これが最後の賭けになりそうだ。僕のこれまでの人生の全てをこの瞬間に注ぎ込む!)


 僕は目を片目だけ開ける、視界は相変わらず歪んでいるがブラックペッパーの大体の位置は分かった。

 ここまで来たら気持ち悪いとか言っていられる場合じゃない。


 ブラック・ペッパーの足音が3回した! 相手も決めに行こうとしている! これは逆にチャンスだ! 一瞬でも乱戦になってくれた方が良い! この決勝戦を引き受けてくれたようにフェルミさんは   イタリア人ながら“武士道“のような正々堂々と戦おうといた精神があるのだろう。


 僕はもう一心不乱で攻撃している、側に相手がいると信じて一気にコンボを仕掛ける!


 相手の攻撃予測を外すような動きを取り、なおかつ攻撃も加えていった。


 感触はとても良かった。コンボがもはや奇跡的と言ってもいいほどに次々と決まっていく感じがあり、逆に相手を押し込んでいった。


「WINNER!」


 ゲーム音が響いた。一瞬自分が勝ったのだと気づかなかった。でもこの音声は勝った側にしか出てこないはず……。


「決まりました! 第11戦までもつれ込みました今大会、虻利拳王は空前絶後の8連覇! しかも! 虻利拳王が今宵は目を瞑ったまま大逆転勝利です! 新伝説がまたしても誕生しました!」


 や、やった……ついに僕は自分の存在価値を守ったんだ――。


 最後の方はもはや自分でも何をしたのか記憶にないほどだ。


 ウルフが指を立てて僕に最後に応えてくれたような気がした。お前に意思があるか知らないが、ありがとう。夢の中の出来事だったのかもしれないけど……。


 でも、実況があんなにもはしゃいでいるのを見ると間違いなく勝ったんだよな……?


 ホッとしたと思うと頭がグルグルと回りだし、体が言う事が効かなくなり勝手に痙攣しだした。


 そして、椅子ごと倒れこむ。椅子の重さは相当なものでなかなか抜け出せない。


 助けを呼ぼうにも、言葉がまたしても“ボボボボボ!”とかしか出て来なくなった……。


 誰かが叫んで次々と色々な人が駆け付けてきた。それに対しても言葉にならない何かを発しただけだった。


 最後に自分が分かった感覚は部屋のカーペットの感触だけだった。

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