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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第5章 南の島で

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第10話 殺人ソファー

2055年(恒平9年)11月14日日曜日


 ㇵッ! 気が付けばゲームをしながら寝ていた……。それでも最終戦はちゃんと勝っていたんだから我ながら恐ろしい執念とも言える……。


 時刻は6時前。昨日寝たのはコスモニューロンに備え付けられているメディカルチェックのデータによると0時ちょっと過ぎか。


 寝ていた時間数的には短いのだが、昨日から早朝にかけて万全の調整を行うことが出来た。

 少なくとも今の時点では最高のパフォーマンスを出すことが出来るだろう。


 僕は意外と寝た時間数よりも「いかに爆睡できたか?」の方が大事のような気がした。

 特に世界大会決戦当日では、適度な緊迫感が持続している方が良い。

 気が付いたら気を失うような感じで夢も見ないような状況は僕にとってはベストと言えた。


 そうは言っても相手次第ではあるが、仮にも僕は世界ランク1位ではある。

 昨日の爺と建山さんの協力もあり奇抜なプレイングに対しても恐れずに対応できる気がした。


 玲姉は“一緒に行かない?” と提案してきたが、美人に囲まれながら世界大会に行くとかどれだけスキャンダラスな状況だよ――と思ったので速攻で断り、景親と2人で行くことにした。


 ただでさえ僕は無意味とも言えるぐらい有名人だからゴキブリのように生き残り続けている週刊誌がここぞとばかりに群がってくることだろう。


 それをどうしても避けたかった。


 会場はプロ野球の球場にもなっている東京ドームだ。

 ただ、今日はいつもと違ってブースが区切られており違った様相となっている。


「いやぁ、懐かしいですなぁ。俺が最後にこの球場に来たのは中学野球の全国大会の時でした。俺はライトスタンドにホームランぶち込みましたよ」


「へぇ……そういや景親は野球少年だったんだってな。

僕もスポーツの中じゃ野球はできる方だが……」


「そりゃいいですな! 虻輝様の球を打ちたいです!」


「景親に球投げたらストライクは全球ホームランにされそうだがな……」


 そう話ながら気づいたが、今日はやけに並んでいる。

いつもであればコスモニューロンを持っていない人以外は事前に入場IDを購入して顔パスで通ることが出来るのだが、


 いつもサッサと流れていくので関係者専用口みたいなのはあまり使っていない。

 例によってオーラが無さすぎるせいかほとんどの人には世界王者と認識されていない(笑)。


しかし、今日は関係者専用口で行った方が良かったか……。


 開始1時間半前だからまだまだ時間があるとはいえ、何となく見慣れない状況には心がざわつく感じがあった。


「大会参加者の虻輝さんですね? お待ちしておりました」


 いつもは名前を確認して金属探知機の機能も付いているゲートをくぐって終わりのところが――。


「少々お待ちください。今、通話履歴などを確認しております」


 まさかのコスモニューロンでの通話履歴などを確認している……。

 これは僕が疑われているわけでは無く、皆が共通して行われているようだった。


 よく見ると巡回のロボットがいつもより多いし、人間の警備員もいつもの倍はいる。しきりにIDチェックを行っている様子も窺えた。


「だ、誰ですかあなたは!」


「俺は虻輝様の護衛だ! 通せぇい!」


「し、しかし証明が無いと……」


「おい! てめぇふざけてんのかぁ!」


 景親がセキュリティに引っ掛かっていた……。まだ手を出していないのが景親の“最後の良心“というところか……。


思い返してみると、景親に対して特別のIDを発行し忘れていた……。

 普段は会場の外の無料席はIDを発行する必要が無かったりするから必要が無いものと思っていた。でも選手専用の場所に入ったりするんだから必要だったよな……。


「か、景親は僕の護衛なんだ。通してやってくれないか……?」


「し、しかし……証明していただかないと……」


 警備員は眉を下げて困惑しているのが分かった。

 これが普通の人間が相手なら入れることが出来ない1択だが、僕のように世界王者で権力者の一族ともなれば話は変わってくる。

 なんとか、ゴリ押ししていくしかない……。


「うーん、それならこの景親が僕のもとに住んで働いている証明のデータを送ろう。

 この間は僕の命を救ってくれたこともあったんだ」


 僕はコスモニューロンでの景親と仲良くしている映像や活躍している映像を送った。

 今の技術は大体の映像を検索してすぐに切り取ることも可能になっている。


「しょ、少々お待ちください……。上司と相談してまいります……」


 そう言って警備員は奥に下がった。すると、2,3分後に少し服が重厚で階級が高そうな人と一緒に飛んで戻ってきた。


「虻輝様失礼いたしました。何分、今は重点警戒中でして……安心して大会に参加していただくためにも誰に対しても警戒を怠らないようにしております。

 伊勢さんにつきましては信頼に足る人物であるという事が私どもの方で確認できましたのでお通りいただいて構いません」


「そうでしたか」


 良かった。逮捕と言う最悪の事態、入れないという景親が可哀そうな事態は避けられそうだった。


「ただ、観客席のお席はもう残っていないようですので準備控室で虻輝様とご一緒に行動することでよろしいですか?

 控室からでも小さいモニターではありますが虻輝様のプレイはご覧いただけますので」


「ええ、大丈夫ですぜ。俺は大会内容そのものにはそこまで興味はありませんので」


 そうハッキリ言われるとそれはそれでショックだがな……。僕の存在価値を全面否定されたような気分だから……。景親に悪気はないのだろうがな……。


「ただ、そんなに長い木刀を携帯されていては困りますので預からせていただきます。

 ご了承いただけなければ虻輝様の護衛と言えどお通しするわけにはいきません」


「チッ、分かりましたよ」


 景親は渋々と木刀を警備員に渡した。あの木刀は僕ですら命の危機があるからある意味当然だよな……。

 でも景親としてはあの木刀を随分大事に手入れしているみたいだし、数少ない持ち物だ。

それを預けるという事はかなりの意味を持っているのかもしれない……。


 そんなやり取りをしてふと振り返ると、僕の後ろには多くの人が並んでいた……。


「おい、あれ虻輝じゃね?」 「何もめてるんだ?」 「おい! 早くしろよ!」


「サインしてくれないかなぁ!」 「映像保存しなきゃ!」 「俺が先だ!」


 などと色々な声が飛び交っていた。


「か、景親行くぞ。会場運営の皆さん失礼しました~!」


 僕たちは逃げるようにその場を立ち去る。こんなに並ぶことは夢にも思っていなかったから注目されるなんて想像にもしていなかった。


しかし、今日はやけに物騒だな……。

 もしかして獄門会やテロリストか何かが爆破予告でもしているのか?


 だとすると注意しないとな――とは言っても何かできることは無いのだが(笑)。


「この世界大会とやらはこんなに警備が厳しいんですかい? 

もっとすんなり通過できんのかと思ってましたよ」


「僕もここまで厳しいのは初めてだよ。もしかしたら何かしらのテロ予告か何かがあったのかもしれない」


「いやぁ、腕が鳴りますなぁ。これだけの警戒を突破したテロリストとか楽しみじゃねぇですか?」


 そう言って腕では無く指をポキポキと鳴らしていた。文字通りの意味ではないにせよ何故かちょっと心の中で突っ込みたくなった。


「僕は御免だけどね。最近の面倒ごとに巻き込まれる頻度が尋常じゃないから、心安らかに日々を過ごしたいところなんだよ」


「きっと虻輝様ほどのお方ですとトラブルにも好かれているんでしょうな! ハッハッハッ!」


「全く嬉しくないよそれ……。可愛い女の子から好かれたいよ……」


「その様子ですと為継が言っていたように重篤そうですな……」


「え、何が?」


「い、いえ。俺の発言は忘れてください」


 そんな話をしていたら控室に来た。


 僕は世界ランク1位のためあってか控室は一番奥で一番いい部屋だった。

 まずドアからして重厚そうで、ソファーもフカフカで思わず寝てしまいそうだった。

 その他の備え付けの家具も欧州のブランド品だろう。


「あっ! 虻輝様!」


「え?」


 僕が暢気にソファーの弾力を味わっていると突然僕は景親に突き飛ばされる!

 何すんだよ! と思った瞬間に僕の頭の近くを弓矢がビュン! と通過していった。


「あ、あぶねぇ……」


 景親が部屋の隅に行くとどうやらボーガンのようなものが設置されていた。


「よ、よく気付いたね。助かったよ」


 間一髪で死にかけていた。死には至らなくても怪我するだけで多少なりともプレイングに影響が出かねない。世界トップ選手とそれだけ際どいラインで僕は戦っている。


「扉の前ではカチャっと何かが作動する音がしました。きっと、そのソファーにボーガン発射のスイッチが入っていたかと」


「座った瞬間、あの世とか怖すぎるだろ……」


「とりあえず、セキュリティに伝えて部屋を替えて貰いましょう」


「そうだね……この部屋に僕が来ることが分かっていた可能性がある。

僕を狙い撃ちしていたのかも……」


 高級な家具も今や不気味な針山に見えてくる。

 すぐさまその部屋から出て大会事務局を呼んだ。


「あの……部屋にボーガンが仕掛けられていて殺されかけたんですけど……」


 先ほどのボーガンを画像付きで送った。


「えっ!? 本当ですか!? 大変申し訳ありません! 

すぐに警備の者と別の部屋を用意させます!」


 警備の人と大会運営のバッチを付けた人が2分後にはやってきた。


「こ、こんなものが設置されていたとは……。もう一つVIP専用のお部屋がありますからそちらに……」


 そう言って案内されると、今度は景親が先に入って色々と家具や部屋の隅の辺りを確認していった。

 ちょっと離れながら色々触ったりしているのは今後の参考になりそうな動きだった。


「虻輝様この部屋は大丈夫そうですぜ」


「殺人ソファーじゃないことがこんなに嬉しいとは思わなかった……」


 さっきの部屋より装飾は全体的に3ランクぐらい下だ。

どっちかと言うと硬めのソファーなのだが、ボーガンが飛んでこない殺人ソファーでないだけ快適だ。

 やはりテロリストが設置したのだろうか? 後で捜査の内容とか聞けるかな……。


 そんなことを思いながらも順調にキャラクターの動きの最終調整していた。

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