第9話 興味の裏側
「それじゃぁ、明日はよろしくね~」
あの人が部屋に戻ったのを見届けると再び女性陣4人で集まりました。
「ふぅ……どうやら、凌ぎきったみたいね。明日、皆頼むわよ」
先ほどまで優しい目つきだった玲子さんの目は一気に鋭いものになりました。
「流石に疑っていたみたいだけどねぇ~。実際にあたしたちゲームに興味があるわけじゃないし。あー、ホント寝ちゃわないか心配だよ~」
まどかちゃんはゲームに関しては興味すら無さそうですからね。
正直一番意図が露呈してしまわないか心配した場面でした……。
「ちなみにこの手紙は虻輝さんの所属しているチームに届き、
チームメイトが警察に届け出て巡り巡って私のところに来たという事です」
そう言って建山さんは袋に入った手紙を取り出しました。
そこには「死」という赤い血文字があり、
その後に“虻輝がFVの大会を欠場しなければ殺す”とありました。
突如として私たちが世界大会を見に行こうと申し出たのもこの脅迫状を見て“密かに警護してあげない?”と玲子さんに提案されたからでした。
勿論私としては玲子さんの頼みなので断るわけにもいきません。
あの人がどうなろうと関係は無いですが、玲子さんが悲しむ状況だけは阻止しなくてはいけません。
「輝君の身の回りの事務を担当している美甘さんが言うには、
こういった脅迫状は度々来るようなのでそんなに恐れる心配はないという話だったわ。
ただ、ここ最近赤井君の動きが活性化していることもあるし、
凄い頻繁に色々なことが起きているじゃない?
警戒しないに越したことは無いと思うのよ」
「私も同感です。ちなみに、我々特攻局でもこの脅迫状の差出人について既に調べたのですが、上手い事隠せています。
現代においては僅かな痕跡からも差出人を特定できます。
しかし、それでも差出人を突き止められないということはそれなりの“対策”をしているということです。
血文字と言えど当然ただの印刷ですからね。しかも、一番流通しているタイプのプリント機能があるものです。
手紙についても特定するには材料として足りません」
私が聞いた話ではコスモニューロンを体に入れている人の情報なら全て遺伝子などの生体情報などが取られており、捜査において非常に役立つとか……。
コスモニューロンを持っていない人も貧困層は“無料の炊き出し”などを利用して生体情報を取っているそうですね……。
獄門会の人たちはそういう人たちを管理されないように色々と対策を取っていましたね。
コスモニューロンを持っている人と持っていない人を上手い事間に入れることによって、東北と北海道以外の地域においても潜伏させることに成功していました。
「それだけの対策を施しているという事は、かなりの油断ならない相手という事よね。
ただ、始終付きまとうわけにもいかないから大会運営側にも言っておく必要がありそうね」
「そうですね。運営側としても中止にはしたくないでしょうから、
警備を強化するよう特攻局からも要請しておきます。
悪い組織には私の顔は割れていますから、逆に言うと抑止力になると思いますし」
建山さんは凄く細くてスタイルが良いのに玲子さんと同じぐらい強いんですから本当に凄いですよね。
私の方が太くて筋肉もあるでしょうに残念なほどに実力は遠く及ばないです……。
皆さん魅力的過ぎて本当に見劣りしちゃいます……。
「お兄ちゃんこんな風に深刻な話をしているのを知らないで、今頃暢気にゲームをしているかと思うとホントマイペースだよね~」
まどかちゃんも結構マイペースな気がしますけどね。だからある意味、“お似合い”だと思うんですけどね。
「全く……女の子4人に守ってもらう男の子ってどうなっているのかしらね?」
玲子さんは言葉とは裏腹にとても楽しそうにしています。
そもそも本人に知らせないのは“恩着せがましい“と思われないようにするためと気が張ってパフォーマンスが落ちないようにするためだという事のようでした。
本当に玲子さんは優しいですね……。
「ところで、伊勢さんには言わなくていいんですか? 一応あの人の身辺警護されている方ですけど……」
「小早川君には伝えたけど。うーん……伊勢君はちょっと口が軽そうで輝君にしゃべりかねないからね……」
「でも現地の大会の人には伝えておいて伊勢さんに言わないのはどうかと……。
流石に仲間外れにされているような気がして心外でしょうし」
「それなら、私から何とか言っておくわ。
輝君に漏らしたら“制裁”ということを強く言い含めてね」
玲子さんの“制裁“はこの家のある意味秩序を保っていますよね。
今、建山さんですらちょっと表情を変えましたからね……。
「虻輝さんには大会が終わってから伝えることにしましょう。
ちゃんと私たちが配慮をしていたことをアピールしなくては」
建山さんの言動にはいちいち意図があるような気がして嫌なんですよね……。
私もこのようにあまり話さずに裏でネチネチと考えていると言われればそこまでなんですけど……。
「何もなく輝君に報告するだけの状態が一番理想よね。
流石に私やまどかちゃんが世界大会に本当に興味があると誤解して、永遠とゲームの話をされても困るからね」
「玲子さんは健全な精神と健全な体は連動しているというお考えですからね」
「そうなのよ。私と輝君はどうにもそこだけは合わなくて……」
「誰もあの話にはついていけませんよ」
結構マニアックな気がするんですよね……。
「私ならついていけますけどね。さっきも虻輝さんにゲームの腕前を褒めてもらいました」
「お兄ちゃんがゲームをしている時は目つきから違うよね。
なんかちょっと怖いんだけど……」
「まどかちゃんは分かってないですね~。そこが良いんじゃないですか~」
建山さんも玲子さんとまどかちゃんに負けないぐらいあの人のことが好きみたいですよね……いったい何がそんなにいいのかよく分からないんですけど……。
「一生懸命にやってるところは良いと思うけど、内容がゲームなのがね……。
ともかく、明日は輝君になるべく分からないように警護しましょう?」
「そうですね」 「はーい!」 「はい」
こうして今日は解散する運びとなりました。
弓の手入れをしっかりして訓練場の掃除をします。大抵は片付けに時間がかかるので消灯と異変が無いか確認するのも私の役割となっています。
しかし、ここに来てから本当に色々なことが起きていますね……。
でも、元から虻成に復讐のために命を棄てるつもりでここまで生きてきたので、
今の私にとっては“余生”と言ったところなので別に構わないですけどね。
それにしたって気が休まらない日が多いんですけど……。
この間の色々な種類の水着を着た日だって凄く恥ずかしくて嫌でしたし……。
胸元に視線が注がれる感覚があるだけで嫌なんですよね……。
あの人は遠慮がちに見ているだけまだマシですけど……。
そんなことを思いながら訓練場を後にしました。




