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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第5章 南の島で

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第7話 新たなる憂鬱

「お二人とも流石でしたね。どちらが勝つのかハラハラしながら見ていました」


「た、建山さんありがとう。ちなみにどっちかを応援していたりしていたの?」


 建山さんが不気味な笑顔を浮かべているためにこちらとしては表情が引きつった。


「もちろん! 虻輝さんに決まってるじゃないですか! 

ヴァーチャリストの時からお世話になりっぱなしです。

ところで、次は私と勝負もしませんか?」


 そう言って僕に抱きついてきた。建山さんらしい妖艶な良い匂いがしてこれまた興奮を抑えるのが難しい……。


「え……建山さんとぉ……ちょっと流石になぁ……」


 だって、玲姉と同等レベルだろ? “魔改造人間と戦え”って言うのと同じじゃないか……。玲姉が目の前にいたら消し炭にされそうな考えだろうけどさ……。


「えー、良いじゃないですか。それとも、私と戦うのがそんなに嫌なんですか。

 それならこの状態から離れませんから……」


 急にしょんぼりしたような感じになってしまった。まるでこちらがイジメているみたいだ……。

 そして、この幸せでありながら拷問みたいな状態から早く脱しないと色々な意味で“危険”だ……。


「いや、全然そんなことないよ。それじゃ、お手柔らかに」


「そうこなくっちゃ! 私も勝負になるように頑張りますね」


 更にニコニコしながら僕から離れていく。そして少し真剣な表情になった。


 ただ、建山さんなら本気を出せば“精神的殺人”ぐらいやりかねない。見た目は男を腑抜けにするぐらい美人で、細くて強くなさそうだけど気を引き締めないと……。


 “スタート!” と出る。爺との死闘で正直疲れてきたので、短期決戦をしたいところだ。僕は一気に距離を詰めていこうとする。


 むむっ! 攻撃が当たらない! 建山さんは距離をキープしつつ、たまに攻撃をして下がるという動きをやり続けてきた……。


「ふふふ、どうですか私の戦術は?」


 さっきの爺とは違ってテクニックで勝ちに来ているんだ!

 確かにヴァーチャリストの内部でも足場の目印にしていた石を吹き飛ばそうと提案してきたり(第3部21話)、正直言って僕よりも“えげつない“と思える部分があった。


 このままではネチネチとやられていくだけのような気がする。

 僅か数%の体力を削られていくものの確実にアドバンテージを取られているので、このままでは最悪完封されてしまうだろう。定跡の動きではとても勝てる感じがしない。


 そして建山さんがまた一定の距離まで近づいてくる。また中距離の打撃攻撃をしてくるに違いない――僕は思い切って自分の腕を攻撃してスピード加速コンボを始めた!


「えっ!?」


 流石に自分にダメージを与えながら突っ込んできたのは衝撃を受けたのか、建山さんの動きが僅かではあるが止まった。


「ま、負けませんよっ!」


 建山さんは目力をグッと強め、これまでとは全く違うスピードの攻撃を繰り出す――とても回避できるものでは無く、ほとんどお互いノーガードでの殴り合いになった。


「ピー! 勝者、建山さん!」


 ロボットがそう告げた。終盤は自分のHPゲージを見直す暇もないほど一心不乱に攻撃をしていたが及ばなかった……。


「はぁ……ふぅ……建山さん強すぎでしょ……。ゲームも強い上にリアルでも強いから当たり前か……」


 今度は反射一つの差で負けた感じだった……必死の追い上げもあと少しだった……。


「FVの登場キャラクターではそれぞれ跳躍力などに限界がありますからね。

 私はそのシステムの穴をついたまでです」


 建山さんはまだ余裕がありそうだった。ゲーム上のゲージだけが近づいただけで元の体力差は歴然としているからな……。


「確かに攻撃が届かないところからやられた感じがあった。

 ゲームの内容を知り尽くしているという感じがアリアリと出ていたよ」


「私、かなりの負けず嫌いなので済みません。

 でも、想像以上でした。まさか、自分の体に攻撃を加えて連鎖コンボを決めて勢いづけてくるとは……。序盤のアドバンテージが無ければ負けていましたよ。

 これが格闘ゲームの世界大会7連覇で世界ランク1位の実力ですか……」


「あのまま何もしないで負けていたら流石に惨めすぎるからね。

 しかも、やっぱり爺と同じように手加減していたでしょ?

 建山さんにしては一撃一撃がしょぼすぎる気がしたんだが……」


 玲姉との殴り合いを見ていたら――あの一撃が決まっていたら僕は直ちに地面に突っ伏していてもおかしくない感じがした。

 終盤窮地に追い込まれてから建山さんが本気を出したという感じがした。


「だってその方が面白いじゃないですか? あの状況をどう打開するのか注目していましたし」


「建山さんゲーム好きだし、愉しむのがある意味上手いよね……。

 僕は2人から舐められ続けたという事か……」


 だからゲームも強いんだろうな。


「いやぁ、しかしそうは言ってもゲームとなると本当に素晴らしい動きをされますな……。

 普段では逃げ回ってばかりだというのに……」


 爺は何故か知らないがしきりに頷いている。


「ま、まぁ、僕は痛いとか苦しいとかそう言うのが嫌なんでね……。

 ゲームではそういう事が無いから永遠と続けられるわけ

 そもそも普通の木刀では素振りすらまともにできないが……」


「それだけ強いと負けることすら稀だと思いますから持続できるというのもあるでしょうね……。

 ゲーム内の同条件だと手も足も出せないまま負けてしまうと思いますよ」


「ホントぉ? それなら建山さんFVでやってみようよ」


「わ、分かりました。たった1戦での勝ち逃げでは問題だと思いますのでやってみましょう」

 

 僕たちの前にゲーム機が出てくる。世界大会では不正を防ぐためにリアルでの戦いになるために逸れに合わせてくれるという事なのだろう。


 建山さんは相変わらず筋は良い。ただ、基本に忠実過ぎるのもあって逆にアドバンテージが取れていく。流石に力の差があったか。体力ゲージ半分ぐらいで快勝した。


「あぁ……やっぱり、全然ダメでした。相手にならなくてゴメンなさい」


「でも、途中まではかなり緊迫感があったけどね。

 このレベルなら、アマチュアでは最上位クラスだろうね。

 まず、世界ランク1位の僕とハンデ無しでまともに戦えている時点で凄いよ。

 普通はノーハンデだと30秒以内で勝ち切れるからね」


まどかなんてどんなハンデつけても無傷で勝てるからな。目隠しして、両手塞いでも勝てそうだ……。


「動きの精度が違いすぎますよ。かなり細かいコマンド入力していそうですよね」


「そうそうFVではオートマモードだと同じような感じでしか攻撃してくれないけど、

 マニュアルモードだと細かい動きまで指定できるんだよ。

 プロプレイヤーは全員マニュアルでやってるから、その分差別化できているんだろうね」


「では、虻輝様。次に腕に重りをつけて建山さんと戦われてみてはどうですか?

 筋トレにもなりますぞ」


「あぁ、それもあったね……」


 爺が言うまで完全に忘れ去っていた案件だった。

許可する間もなく僕の腕には錘がつけられた。3キロはありそうだ……。


「ちょっ! いくらなんでも重すぎなんだけどぉ!」


「これぐらいのハンデが無いと勝負にならないと思いますよ。それじゃ始めましょう!」


 序盤は動きが慣れなくて押されていたが、終盤には感覚が戻ってきてどのように腕に負担をかけずにボタンを押せるのか徐々に分かってきた。


「す、凄い……あの状況からコンボを決めてくるだなんて……」


 何とか最終的に逆転勝ちをすることが出来た……。メンツを何とか保つことが出来たな……。


「もう二度とやりたくないね。腕ボロボロだよ……」


 手をブラブラさせる。正直なところ、リアルの体では何にも影響は無いのだろうけど、流石に精神的にも限界だ。これ以上やれば明日に支障が出るだろう。


「お疲れさまでした。私もゲームでまともに勝負できるように頑張ります」


 建山さんは今でも強いがな……。


「でも2人ともありがとう。世界大会クラスの相手とはまた違った形で思考をしながら戦うことが出来てとても役立ったよ。

 特に初めての相手でどう動くかどうかの対応力について良く学べたと思う」


「いかなる状況でも打開しようとするその気持ちが凄いですな……。

 正直驚きましたぞ。身体能力さえついていけばかなり見込みがありますぞ。

 これは鍛えがいがありますなぁ~」


「そうですね。本当に素晴らしい状況判断だと思います。

 伊達にゲームの世界王者ではないということですね。

 身体能力が身につければ虻輝さんの選択肢の幅も広がりますからね。

 本当に楽しみですね」


 2人が別の方向でやる気になったのは正直言って僕にとっては新たなる憂鬱だった……。

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