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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第5章 南の島で

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第6話 VRでの英雄決め

 夕食はレバーだった。鉄分が鼻血で消失していたために大変有難い。

もっとも、ウチにあるものは一般に売られているような格安のものでは無く、九州の恵まれた大地で放し飼いされていた鶏たちだ。


 今日は水着ファッションショーを目の当たりにして他の日とは違って別の側面で精神的に疲れた……。

 ボロボロだった体に負荷がかからなかったのは本当に良かったけど……。


「さぁ、今日も訓練するわよ!」


「きょ、今日は自分で歩くよ」


 玲姉が僕の襟首を掴もうとしたので僕は先に歩き出した。


 訓練場では相変わらず皆が準備を進めているかもう訓練を開始している。

 まぁ、僕が毎日グダグダとしているせいだけどさ(笑)。


 いったいどこからそんな体力があるのか……と言うか僕が体力が無さすぎるのか……。


 今日も爺や建山さんとVR空間での訓練だ。明日の世界大会があるから何とかそれに近い形の訓練にならないものかなぁ……。


 いつもの建山さんが建てた宇宙のような世界にダイブすると早速手をモミモミしながらできるだけ笑顔で2人に向かって近づく。


「あ、あのぉ……2人共、明日は格闘ゲームのFVの世界大会だからちょっとお手柔らかにして欲しいんだけど。

 流石に腕が上がらなかったり腰痛が酷すぎたりしたら支障が出る……」


「そうでしたか……では本日は虻輝様のためにこの爺が一肌脱ぎましょうぞ」


「え、どういうこと?」


「私をゲーム上で登場させて、それを虻輝様がゲームの技術で打ち破るのです」


「わぁ! それは面白いアイディアですね! 虻輝さんはゲームの中での英雄。

 それに対して村山さんは第三次世界大戦での英雄ですからね。

 どちらが強いか興味があります」


「なるほどね。僕もゲームでの条件ならば爺に勝てるかもしれない。その挑戦乗った!」


 このVR空間の特殊仕様で一方はゲームでの環境、片方はリアルの体術という事も実現するのだ。

 

 体力ゲージの減少はゲームでどれぐらい受けたのかと言うのを大体受けるはずの衝撃などで設定しているために、現実では死んでいてもゲームではゲージ3割ぐらいしか削れていないとか、現実とは異なるかもしれないが、その点も理解していてくれているのだろう。


 大会では、どういうキャラクターがどんな技をどういう効果範囲・威力があるか把握しているために圧倒的なパフォーマンスを発揮している感じがあるのだが、爺に関してはどの程度か未知数な点がある。

 しかし、爺もゲームのキャラクターについて熟知をしていない。この点に関しては五分五分と言えた。


 ただ、それでも不自由なリアルの体と違って思うがままに動かすことが出来るために圧倒的にこちらの方がやりやすいのは間違いない。


「僕はこのダッシュウルフでいこう」


 僕はオオカミのような姿に変形した。FVでは技術が問われる玄人向けではあるが僕の中では一番使い慣れている。


「ふむ、俊敏そうですな……。では、行きますぞ!」


 ダッシュウルフはどちらかと言うと近接戦向きのコンボでダメージを出すタイプだ。

 爺の剣は手の長さも考えると2メートルちょっとというところ。

 上手い事、隙をついてから飛び込んでおかなくてはいけない。


「虻利流奥義! 周風剣!」


 しばらく攻撃をかわしながら様子を窺うが、

 流石は達人の領域を超えている爺は流石に隙が見当たらない。

 ここは思い切って攻め込むほか無さそうだった。


「これでどうだ!」


 低い姿勢で滑り込むように走ったら思ったよりも近づくことが出来たので一気に連鎖攻撃を加えることにした。


 最初は爺の刀に向けて攻撃をした。敢えて直接体を狙わなかったのは連続攻撃のダメージが増える終盤で直接攻撃を狙うからだ。


「ヌッ!」


 ――しかし、爺はそれを察知したのか刀で攻撃を弾きながら後ろに下がる。

 ゲームをやらないであろう爺は、ダッシュウルフの性能を完全には知らないにも関わらず恐らくは“カン”だけで下がることを選択したのだ。流石に百戦錬磨は違う……。


「なるほど……虻輝様に一ついいことを教えて差し上げましょう」


「え、何?」


「“決意をした”という時に目つきが急にそれまでより鋭くなります。

 それでは“今から大技を出します”と言っているようなものです。

 なるべく表情を変えずにやられた方がよろしいかと思います」

 

「……そうか」


 なるほど、顔に出ていたという事か……。

 

「だが、生憎これは癖みたいなもんでそうそう治せるものじゃない。

 それならずっと決意を示すだけだ!」


 僕はそう言うと低い姿勢のまま再び爺の胸元に飛び込もうとした。


「なるほど、それは面白いですな。だが気持ちだけでは私には勝てませんぞ!

 虻利流奥義! 烈風剣!」


 爺が大振りで攻撃を仕掛けてくる。ここで引けば一方的にやられてしまう気がした――ならば、ここで賭けに出てみるしかない!


 体も吹き飛び、一瞬データとしても消し飛ぶがすぐに戻る。ただしその代わりに、体力ゲージは半分以上吹き飛んだ。リアル世界ならば耐えられる激痛では無いだろう。

 しかし、ここは僕の支配していると言ってもいいフィールド! 


「これで終わりだ! いっけぇぇぇぇぇ!」


「な、なんとっ!」


 爺は大技を繰り出したばかりだったためにがら空きだった! 一気に5連続攻撃を決め体力ゲージを削った。


「くっ! あと少しだった!」


 しかし、瀕死ギリギリのところで爺は僕の攻撃から逃れた。

お互いの体力ゲージは1割も無い。次の1発で決まると言えた。


「流石にゲームの中とは言え、リアルではまだまだな虻輝様に簡単に負けるわけにはまいりませんぞ」


 リアルでは足元にも及ばないどころか同じ土俵に立つこともできないが、VRでは互角以上であるという事を見せてくれる!


 右に左に次々と旋回して勢いをつけながら爺に向かって猛然と向かっていく!


「爺これで終わりだ!」


「面白い! 虻利流奥義! 周風剣!」


 その技の軌道は分かった。地を這うようにして滑り込みながら爺の足元に向かって攻撃する。


「ぬぅ!」


 爺も体勢を立て直しながら僕に向かって斬り付けてくるが、すんでのところで僕の攻撃が先に到達した。爺も大分驚いた顔を最後はしていた。


「ピー! 勝者虻利虻輝eスポーツ5冠王!」


 ゲームの機械音が流れた。本当に勝てるとは……。


「ハァ……ハァ……ギリギリだった……」


 恐らくはリアルなら爺を倒せているかは怪しく僕の体は3回ぐらい真っ二つになっているだろう。全てはゲーム上の特性を活かしただけに過ぎなかった。


「流石虻輝様。ゲームでは本当にお強いのですな。いつもとは見違えるほどでしたぞ」


 30秒ほどかけて息が上がっていたのをようやく立て直した。


「ふ、ふぅ……いやぁ、ホント反射一つの差で紙一重だった。

正直序盤は勝てるイメージが全く沸かなかったね」


 その場に倒れこんだ。勝てたのは奇跡的だったと言ってよかった。


「ただ、現実世界では腕を飛ばしながら攻撃をすることはなさらないように。

 容易には元には戻りませんからな……」


「ま、まぁそこはVR空間のゲームならではのプレイングという事で……。

 というか爺はまだまだ本気を出して無いだろ?

 なんか思ったよりもアッサリと接近出来たような気がしたんだが?」


「ほぅ……虻輝様のキャラクターが接近戦向きな雰囲気がしたので折角ですから呼び込んでから、と思ったのです」


「だよね……それなら実質負けみたいなもんだな」


 リアル世界では間違いなくその手前で僕は死んでいただろうしな……。ゲームでなければあり得ないような動きをことごとくしていたと言えた。


「いえ、それも込みで勝てると思いましたのでやはり虻輝様が上回られたという事です」


 うーん、なんだか釈然としないけど勝ちは勝ちで良いんだよね?


 いやぁ、今日の訓練は短いながらも充実したなぁ――と思っていたら建山さんがニコニコとしながら僕の隣にやってきた。とても嫌な予感がする……。

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