第5話 水着ファッションショー
2055年(恒平9年)11月13日土曜日
昨日と一昨日悲惨過ぎた……一昨日は玲姉と建山さんからのマッサージと言うニックネームの破壊行為により僕の体はズタボロになったのだ……。
確かに当初はコリがほぐれていたのだが、最終的には2人がヒートアップして我を忘れたのだ。終盤は結局ただ単にサンドバックにされただけで、むしろ痣が増えた。
昨日は一方でそんなボロボロの中で大学に行き、またしても訓練の後のマッサージで半身不随になりかけた……。
今朝の夢は鮮明でなかったためによく覚えていないが、どうにも玲姉にボコボコにされたようなそんなイメージが張り付いている……。
あ、気が付けばもうリビングに行かないとヤバい時間だ。早く着替えないと……。
「や、やぁ昨日はみんなお疲れ」
一番疲れたのはどう見ても僕のような気がするが、便宜上そう言わざるを得ない気がした。
「結局昨日のは何なんだったんですか! “2人とも気持ち良くしてくれたよ“って! それじゃあんまりじゃないですか!」
すでにソファーでくつろいでいた建山さんが立ち上がって僕に迫ってくる。
その息は紅茶の匂いがした。僕は名前が分からないが何かのハーブだろう。
「いや、現実問題2人共マッサージ上手かったわけだしね……それ以上でも以下でもないというか……」
玲姉と建山さんは2日とも謎の競い合いを見せていたので後半は痛かったけどね。
最近この2人は優秀な能力の使い道を間違えているのではないかと思い始めた……。
「まぁ、輝君は“こういう子”だから建山さんも早く慣れることね」
「確かにそうだとは思いますけど……いざそうされるとちょっと……」
何を言っているのか分からないが、僕にとってあまりプラスの会話ではない気がした……。
「ところで輝君は今日は大学の授業無いのよね?」
「うん、土曜日にはいかないような日程になっているからね」
「それじゃぁ、私たちの水着を買いに行くのに付き合ってくれないかしら?」
「うわぁ~い! 水着だ水着~!」
「はぁ? 女の子達皆で行ってくれよ……」
まどかもはしゃぎまくってるし、なんか昨日からノリおかしくないかコイツら?
「“コイツら“とは失礼ねぇ~。輝君は”役得”なんだから良いでしょ?」
「いや、思考を読むのやめてくれって……。
大体さぁ、そう言うのは彼氏と一緒に行くものなんじゃないの?
僕なんかが行ってもさぁ」
こっちは色々と鎮めるのでマジで大変なんだって。察してくれよ……。
グシャッ! バリッ! と言う音共に壁がヒビが入った。玲姉がパンチを浴びせたのだ……。
場が凍り付いた。玲姉は“嫁き遅れ”やそれに類する用語に触れると一気に怒りのボルテージが振り切れる。僕はその系統に触れてしまったようだ……。
「察しなさい。良いわね? 行くの? 行かないの?」
玲姉の眼から異様な光が発せられている気がした……。
このままでは僕の体が壁のようにボロボロに砕かれるか家が倒壊するだろう。
夢の中の僕はボロ雑巾のように殴られていたような……。
「も、勿論行かせていただきます。皆様の水着を拝見てきてとても光栄であります」
口調も敬語にならざるを得なかった……。
「それでいいのよ。最初からそう言ってくれれば壁も壊れずにすんだわ」
烏丸が小さく“後で内装屋さんに連絡しなくちゃなぁ~”とか暢気そうに言っていた。
緊迫感が溢れたやり取りの後にそのノリで言える神経が凄いわ。
一方で島村さんはこの件について沈黙を貫いている。
あの表情は本当は行きたくないと言った感じがする。
玲姉が言うのに逆らうことが出来ないのだろう。
島村さんの水着姿は間違いなく刺激的過ぎるだろうから見たいような見たくないような……。
◇
BUDの水着コーナーに連れられた――と言っても今は11月なので倉庫に案内されたのだが。ここにも着替える更衣室は存在していたのでここでファッションショーのようなものをやることにした。
皆それなりに着替える時間が長いが僕はそんなことはお構いなしにゲームを猛然と進めている。
「輝君どうかしら?」
「うん、良いんじゃないかな」
「輝君……ゲームをしているでしょ? まともに見ないならコスモニューロンごと頭を破壊するわよ……」
すぐさま僕はコスモニューロンを切った。すると――
「す、凄いね……」
玲姉はなんと金のビキニで体のラインが明確に分かる。思ったよりも胸のボリュームあるよな……。
し、島村さんは胸の深い谷間がしっかりわかるような赤のビキニでそれだけで刺激が強すぎた……。
「お兄ちゃん。鼻血でてるよ……。どんだけ興奮してるんだよ……」
まどかはやはり青いフリフリが付いた子供っぽい可愛らしい水着だ。
なんかちょっとホッとする。
「やっぱりこの水着ちょっと生地が少なすぎるんじゃないですか?
着ているだけで恥ずかしいんですけど……」
島村さんは身をよじらせて玲姉の後ろに隠れる。僕には見られたくないだろうからな……。
「これ、実際に着ていくわけじゃないからね。輝君の反応を愉しむためにやっていることだから」
「な、何だそうだったのか……」
鼻血出しながらじゃ流石にバカンスを楽しめないだろうからな……。
島村さんも身をよじらせながらだし……。
「それよりどうして私だけスクール水着なんですか!? おかしくないですか!?」
建山さんはどうしてか僕も分からないがスクール水着である……。
言わないけど、建山さんのスラッとした感じの体つきには意外と似合っている感じはあるけどね……。
「ゴメンね~。ちょっといい感じのが無くて~」
「それならどうして、名前のところに“たてやま”って平仮名で書いてあるんですか!? 用意が良すぎでしょ!」
建山さんの額に血管が浮き出るほどの怒りの反論はもっともなことだった。
大体、建山さんの身長の女子用スクール水着がそんなに用意があるとは思えない。
まどかの体格のならいっぱいあるだろうけど――と言ったら絶対地雷だから言わないけどさ。
とにかく特注なのは間違いなかった。
「そんなに怒らなくても~。これを着ていくわけじゃないんだから~」
「虻輝さんの前でこんな水着あんまりです!」
「それなら着なければいいじゃない~? 着てるってことはそれなりに乗り気だったんじゃないの~?」
「いやいや、服と引き換えにこれ渡されたら着るしかないじゃないですか!」
秘密の花園でどういう状況で着替えが行われていたか分からないが、有無を言わさずやられたのだろう……想像するとまた鼻血が噴き出そうだからこれ以上しないでおこう……。
「ねぇ! お兄ちゃんあたしはどう!?」
「あぁ、良いんじゃないか」
「ちょっと! あたしだけ反応が適当過ぎだよっ!」
まどかだって他の3人と比べるから見劣りするだけで十分色っぽくなってきている。
でも、まだまだ認めたくない感じがあるんだよな。
いつまでも子供でいて欲しいというかなんというか……。
「ささ、今日はみんなのサイズに合う色んな種類の水着を用意したから皆来て来て~!」
玲姉が更衣室に戻っていった。僕はいつになったら解放されるのだろうか……。
◇
気が付けばお昼を挟んで3時間以上も過激な水着ショーを見せられていた。
今日は赤十字にでも来てもらって“鼻血献血“とかでもした方が良かったかもしれないレベルで血が出たわ……。
建山さんも最後の方は真面目な水着を貰えていてちょっと嬉しそうな笑顔を浮かべていた。
そして、いよいよ最後と言う事を玲姉が宣言したので聞いてみることにした。
「ところで結局のところどの水着を着ていくのさ」
玲姉はイタズラな笑みを浮かべる。
「それは、当日までのお楽しみにしてね~」
「え、ちょっ! そりゃ無いよ~。何のために僕が来たのか分からないじゃないか~」
どれも刺激的だったという言葉以外は感想は無いけどね……。
何とか“不快に思われるような興奮”を抑えることが出来たのは奇跡的と言う他ない。
我ながらよく堪えきった……。鼻血で出血量が凄そうだけど……。
「玲子さん。今度はふざけた水着を用意しないでくださいよ。ちょっとお遊びが過ぎたんじゃないですか?」
あの建山さんでもギスギスした雰囲気が少し薄まった気がした。
玲姉は流石誰でも使いこなすだけの力があるなと本当に感心した。
玲姉なりの交流会みたいな気持ちでこのファッションショーを開催したのかもしれないな――僕にはあまりにも刺激が強すぎたけど(笑)。




