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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第5章 南の島で

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第2話 「居候達」の発言力

 夕食の後、皆の前で先ほどの大王とのやり取りについて話すことにした。

 僕が突如として旅立てば怒りの声を上げるに違いない――そもそも玲姉に思考を読まれている以上、隠し事は全く意味が無いわけだが(笑)。


「えー! お兄ちゃんだけバカンスするのぉ! ズル過ぎぃ!」


 話し終えると、まどかが頬っぺたをパンパンに膨らませながら僕に指をピシッと指してくる。


「いや、話聞いてたのかよ。確かに太平洋には行くけど、謎の現象の原因究明調査だから遊びに行くわけじゃないんだぞ……」


「でも大学サボる気なんだ! あたしだって学校サボりたいよー!」


「お前の事情なんて知らんがな……。黙って勉強してろ」


「えー! お姉ちゃぁん~!」


 まどかは玲姉の下に走り抱きつく。玲姉は膝に乗ったまどかの頭をよしよしと撫でる。その様子はまるで主人とペットの犬だ。


「そうね。折角だから私たちみんなで旅行に行きましょう? まどかちゃんの高校については私が何とかするわ」


「やったー!」


 まどかが手放しで喜んでいる。

 は? どうなってんのコレ? 全てが逆転したのが分かった……。


「私も最近家族旅行も行ってなかったから嬉しいわ。知美ちゃんも折角だからどう?」


「大学もレポートを出せば大丈夫だというご回答を大学側から得られたのでちょっと安心しています。

 最近ちょっと気が休まらなかったんで、良いですね」


 玲姉のシンパである島村さんも妙に笑顔だ。きっと僕が愕然としている表情を見るのが痛快なのだろう……。

 何故か僕が持ってきた話なのに完全に置いていかれている……。

ヤバすぎるだろこの家族会議……。


 だがよく考えてみれば玲姉が悪ふざけを助長すればこうなることは当たり前だ。

 ここは、この“三者連合”の外の人員に協力を求めるしかない!


「建山さんも言ってやってよ。ちゃんと大王から要請された調査なんだ」


 建山さんはまどかを挟んで一つ先の椅子にこれまでは黙って座って紅茶を飲んでいた。


「そうですよ。皆さん冷静に考えてみてください」


 スッと建山さんが立ち上がる。その背筋がピンと伸びた姿は僕を助け出してくれるに違いない。

 ふぅ、僕の狙い通りだ。これで安心して僕も紅茶を飲め――。


「やっぱり、南国に行くなら水着について考えないと! この際だから皆さん新調しましょう!」


「ブフッ! ゴホッゴホッ!」


 もっと乗り気だった! 僕は思わず紅茶を噴出した! 鼻の中にも詰まったらしく、呼吸が苦しい……。

 烏丸がサッと音も無く台布巾を持ってきて拭き始める。


「うわぁ……お兄ちゃん汚っ! でも水着かぁ……そういえばあたしの学校プール無いから持ってないんだよね」


 バカンスと言う話だとあんなに目を輝かせていたのに、泳ぐとなると顔を大きく曇らせた。

 まどかは泳げないわけでは無いのだが、胸がペタンコなのもあってそもそも水着に着替えること自体が嫌いだ。

 これを言っちゃうとまた喧嘩になりそうだから絶対に言わないけど……。


「私もそんなに泳ぐの好きじゃないですね……」


 島村さんが泳ぐのが嫌いなの? あのボリュームと形を拝めないのは男からしたら“国家の損失“に近いだろう……。

 でも、胸が大きいのも本人にとっては酷く負担なんだろうな……。


 肩が凝るらしいし、男から“そういう眼”で見られることは不快感しかないだろう。

 

「2人共大丈夫よ。この私を誰だと思っているの? 今や世界にも店舗を構えるBUDの社長なんだから。私のセンスに任せれば似合う水着が切れるのは間違いないわ」


「そ、そうですか……。それならいいんですけど」


「おい、勝手に話が進んでるんだよ! 烏丸や景親も何か言ってやってくれよ!」


 この2人は女の子たちが実に楽しそうにしゃべっている時は妙に気配を消滅させて静かになるんだ。

 男だけの時は存在感溢れる発言を連発している癖に……。


「いやぁ、僕たちが何か言えることは無いですよ。皆さんの意思に任せますよ」


「そうですぜ。俺たちが口を挟めることじゃねぇ」


 誰が権力を持っているのかよく分かっているんだろうな……。僕なんて血筋だけの弱者だからな……。

 しかしマジで使えねぇ……。僕が何とか局面を打開するしかないのか……。


「皆、僕の話、聞いてたか? それとも、いきなり言語障害になった? 

それとも僕がしゃべっていると思ったことと別のことを口から発してる?」


「相変わらず面白いこと言うわねぇ。

 そもそも思うんだけど、大体輝君1人だけで何ができるって言うのよ。

 衛星管理システムで分からないようなことを調査するって冷静に考えてみたらかなり危険なことじゃないの? 一体どんな工作や組織が関わっているか分からないんだからね?」


 僕はただ単にうろついて機械を使ってデータを収集すればいいと思っていたが――確かに思ったよりも危険なことなのかもしれない。

 

 ただ単にゲームをする時間が無くなるとかその程度の懸念しかなかった(笑)。


「確かに言われてみればどんなことが起きるか全く考えていなかった……。

 僕一人で対処できるものでは無いのかもしれない」


「ようやくわかってくれたみたいね」


「でもさ、それと水着を持っていくとかは全く関係なくないか?

 ホント、遊びに行くわけじゃないんだからさ」


「よく考えてみなさいよ。常に肩肘張っていたら疲れるだけじゃない?

 高いパフォーマンスを発揮するためには休憩も時には必要なのよ。

 輝君だってゲーム1種類だけをやり続けるわけじゃないでしょう?

 総合的に見たなら遊びも必要なのよ」


 こういう時だけは経営者らしいこと言ってくれる……。

 しかし反論する言葉は思いつかなかった。


「はぁ~。分かったよ。ただこの提案者である大王が拒否したらその時点でアウトだからな」


 この人たちは本当に勝手である……。

 しかし、大王に“付添人”がいてもいいか? と聞くと二つ返事でOKしてくれた。どうやら周りの人間も込みでの僕の評価らしい……。


 更にちゃんと役割を果たしてくれれば往復の間は自由に楽しんでもらって構わないそうだ。

 

 成果や結果こそ全てという虻利家らしい発言とも言える。


 大王の話を伝えると歓声が上がった。僕は頭を抱えるしかなかった。


「やったね! 水着もお姉ちゃんが選んでくれるなら楽しみ~!」


「虻輝さん見ていてください。私の水着姿をご覧入れましょう」


 もうまどかすらもノリノリだった。一体どうなっているんだ……。


「大体輝君はかなりお得な立場にいるのよ?

 私が言うのもなんだけどこんなに可愛い女の子達の水着を見られるんだからね?」


「は、はぁ……」


 実際に“付き合っている彼女”か何かならそれはかなり役得なんだろうが、実際は僕を吊るし上げて遊んでいるだけの人たちが集っているだけだからな……。


 ただ単に刺激が強すぎるだけとも言える……。


 そしてとんでもないことに気づいてしまった。

 烏丸や景親は僕が給料を出しているからちゃんとした使用人だが、ここにいる僕より発言力のある4人の女の子たちは全員「居候」なのだ……。


 表面上の虻利家当主である父上すらも黙認で、玲姉には逆らうことが出来ない。

 居候の方が圧倒的に発言力がある家も珍しいだろう……。


 だが、虻利家の本来の住人が発言力を取り戻す日は半永久的に来ないだろう……。

 支配している側が美しいだけにそんなに不満が出ることは無いのだが……。

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