第4話 悪友の悩み/まさかの下級生
1時間後、こっちはいろんなゲームをやって15勝0敗で内容としてもまずまずだった。
そんないい状態の時に限って通話をしなければいけない局面はやってくる。
「おい、中将。今暇か? 聞いたかよ明日から大学再開だってよ!
何でもセキュリティを強化したからだってさ! 俺、月曜授業3コマもあるからマジで最悪だぜ……」
突然、通話連絡が来たのは、付属中学・高校・大学とずっと一緒の吉岡正平である。今日忙しすぎたから全くと言っていいほどメールを確認していなかったが確かに大学からそんな通知が来ていることを今確認した(笑)。
ちなみに、“中将”という僕のニックネームは僕が中学の授業中に寝ている際、先生から当てられた場面で僕がそう答えたのがインパクトがありすぎてその時からの仲間は一様にそういう風に呼んでくる(笑)。
なんでそんな風に答えてしまったのかというと当時何故か源氏物語が話題になっておりそれを漫画版とはいえ読んでいてその中で中将というキャラが情に厚く魅力的な人物だったこともあり頭に残っていたからだろう……。
随分と残念な名づけられ方だが、まぁ、そこまで呼ばれて支障があるわけでは無いし音のゴロは悪くないのでそのまま放置してある(笑)。
「マジか……必要な情報だという通知が来ていたのに視界に入ってなかった。
明日は僕も2コマある。何でリモートで継続してくれないかなぁ。
今時現地でやっても仕方ないだろうに」
最近は反虻利勢力の活動が活発になってきており休校続出でリモート授業とレポート提出ばかりになったからな――それでも単位が怪しいんだけど(笑)。
「そうだよなぁ……だが、聞くところによるとバーチャル授業やリモートだと授業出席率がかなり低かったらしいぞ。
ランダムな時間で短時間内で問題の解答がなければ出席扱いにしないとかいうシステムにしたら95%が画面をつけているだけで“欠席”をしていることが判明したらしい(笑)。
テロリストがセキュリティを突破してそういうシステムまで破壊して欲しいぜ(笑)」
思わず、今ウチに電撃の弓でセキュリティをかいくぐれる娘がいるよと口を滑らせそうになったがグッと堪えた。限りなく機密に近い内容だから我慢しないと……。
「確かに授業なんてまともに出席する奴の方が少数派だわな(笑)。
しかし、大学の先生もやってくれるな……。
これで進級できなかったらシャレにならん……」
技術的にはバーチャルによる授業は約30年前から行われていたが、今はテロなどの 事態が起きなければまずバーチャルでの授業はしないようになっている。
何故かというと“内職”や“サボり”が多様化してまともに授業を受けていない人がかなり多いことが判明しているために実際の校舎を使おうという流れに回帰しつつあるのだ。
「そうだよなぁ、就職活動とかにも響きそうだし……」
「そういや、お前ら就職活動どうすんの? そろそろそれを見据えていかないとな」
ちなみに、今はいないが佐藤義賢(通称:カーター)と大体3人でツルンデいることが多かった。
「お前は高みの見物でいいよなぁ。副社長様だもんなぁ。今は部活やってないし……どうすっかな」
「それならバイトやサークルでの功績とかをアピールしたらどうなんだ?」
僕は確かに就職の心配は無いし、金はあるから外から見れば勝ち組かもしれんが、
実情は人の命を背負っている立場なんだって……。
これをいつもツルンデいる仲間にすら機密情報が多すぎて言えないのがまた悲しいよな。
「逆に言えばそう言うことって、みんなやってて差別化できないんだよな。
なんか差別化する方法ねぇかなって」
「なら、僕がどっか虻利関連企業に融通利かせて就職先見つけてもいいけど?」
「それってなんか一生お前に借りができそうで嫌なんだよなぁ。
会社が合わなかったりしても辞めにくそうだしさ。
カーターもそれについて同意してたよ」
「それなのに僕に相談するっていう神経がなんだかよく分からんけどね(笑)」
「うっせぇなぁ。でもそろそろ何かしなくちゃいけないなと思ってさ」
「フーム、とりあえず僕はいい案が浮かばないから玲姉にでも相談してみるか……」
とにかく僕はアイディアとか新しいものを生み出すのは苦手だ。
そういうことは他に適切な人材が数多く周りにいるからな……。
「玲子さんはすげぇよな。あれほど何でもできる人はそうそういないだろ……。
問題は彼氏がいない……いや、相手が気づいていないことか……」
「そう、何で彼氏いないんだろうねぇ。
それに、気づいていないってそんな相手がいるなんて知らなかった……」
「ほら何も分かってない……」
「え?」
「まぁ、とにかく玲子さんに相談してくれるなら何かいい案が出そうだから期待できるな。じゃ、またな!」
「うん、次はカーターも連れて来いよ」
「あぁ、アイツはお前に匹敵するぐらいグータラだからな……」
カーターは高校で野球部を引退してからナンパ以外で外に出ないような奴だからなぁ(笑)。僕はそんなにグータラではない……ただ単に世界大会以外で外にあまり出ないだけでね(笑)。あ、こういうのを50歩100歩とか言うんだよな……。
吉岡との通話が終わるとまどかのまん丸の瞳がソファー越しに僕を覗き込んでいた。
「あ、通話終わった? お兄ちゃん、知美ちゃんの家具を選んだよ」
「はいよ」
そうしてコスモニューロンの買い物かごの中身を見ると――。
「なんだ、僕が最初に選んだ奴とあんまり変わらないじゃないか。これじゃ時間の無駄だったな」
ちょっと角のところや引き出し部分がオシャレであることぐらいでほとんど性能差を感じさせない……。1時間半ぐらいかかっていたが時間の無駄感が凄く感じられる……。
「お兄ちゃんはダメだなぁ。そういうところがセンスがないんだよっ!」
「私は、まどかちゃんと選べて楽しかったんで問題ないです」
「あ、そうなの」
まぁ、2人が満足しているなら僕から言えることは何もない……。
女の子って総じてウィンドウショッピングみたいなのが好きだよな。
以前半日、玲姉とまどかに連れまわされた挙句何も買わなかったのにとても楽しそうにしてたのは驚いた。
まぁ、ゲームだってテクニカルなプレイを追求するときもあれば、皆でワイワイやるほうが楽しいときもあるし、男子のそういう感覚に近いんだろう。
「ところで島村さんって大学生なの? 僕より一つ下だとさっき車で後ろで話しているのを聞いたけど」
「一応そうですね。最近は休校かリモート授業なんですよ。帝君大学というところなんですが……」
「お兄ちゃんと一緒じゃん!」
「えっ……そうなんですか……」
いや、そんなに露骨に顔をしかめて嫌がらなくても……。
「へぇ、なら今から僕のことを“先輩“と呼ぶようにしたまえ。はっはっはっ!」
更に島村さんは嫌そうな顔をした。この視線は恐らくゴ〇ブリを見る目に違いない……。
「嫌です」
さっきから0コンマ1秒単位で断られすぎだろ……。
「そもそも私、あの大学で肩身が狭いんですよ。
弓道の推薦入学の上に特別奨学金枠だったので入学金も授業料も免除されて入学したんで……」
ちなみに、帝君大学は私学ではトップレベルの難易度を誇る。
だが、スポーツも盛んで、卒業生にはオリンピック選手も数多く輩出しており、色々な競技での推薦入学枠も多い学校だ。その枠を使えば一定の評定があれば通常の入学試験を受けることなく入学できるので、彼女はその制度を利用したのだろう。
「そもそも、スポーツ競技で入るだなんてその競技でトップの実力で一握りなんだし、それで入学試験が免除なのは当たり前だと思うけどね」
それも入学金・授業料無料となれば世界レベルの実力だろう。
まぁ、父上と僕が窮地に陥った程の実力なのだから文句なしというレベルだと思うけどね。
「大丈夫、大丈夫。お兄ちゃんなんて中学からの付属校での裏口入学の上に、大学も権力で単位を取って進級しているんだから」
まどかがまた余計なことを言ってくる。
「そんなに酷い人がいるなら、私はまだ堂々としていられますね」
島村さんはクスリと笑った。僕に対して怒り以外の感情を初めてみた。もっとも、失笑という感じに近いのだが……。
「ちょっ、中学や高校だって散々僕の金で献金しているんだし、
大学の単位は玲姉にもレポートを協力してもらっている! 正当なやり方だ!」
「いや、それはそれで更にマズい気がします……」
島村さんはドン引き状態になっている。
僕の株価はノンストップ安どころではなく価格すらついていないだろう……。
「それより、同じ大学なら丁度良いから伝えておくけど、明日からセキュリティを強化したから大学再開だってよ。
いやぁ、暢気なもんだね。電撃で弓を放ってくる人がいるっていうのに」
「明日から授業再開ですか……ちなみに、私はあなたさえ問題行動を起こさないなら当分の間、活動は控えますよ。
それに、あの弓だってかなり踏ん張らないと命中させられないですから当分の間はリハビリすると思います」
正直言って一部は骨が見えているぐらいだったのでかなり深刻な傷だろう……。
「あれは本当に申し訳なかった」
「いえ、私もあなたのお父さんを……」
「まぁまぁ、2人ともその都度その話をしてたら話が前に進まないよ……もう終わったことは仕方ないんじゃない?
これを機にこの話はここまでにしたほうがいいと思う!」
確かにまどかの言うとおりだった。特別拘留所から出る時も気まず過ぎたし。
「わかりました」「わかった」
島村さんと僕はほぼ同時で返事をする。島村さんはまた嫌そうな顔をする。
「あと、私は学業については弓道の関係で用事がない限り毎回出席しているんであまり心配はいらないです。
先ほども言いましたが勉強面では低いハードルで入学させていただいているのでできる限り出席しないと」
「ぼ、僕も学業面では問題ないかな。」
「いや、お兄ちゃんはさっき自分でお姉ちゃんにレポート手伝ってもらっているって言ってたじゃん……」
「うっ……それにしても島村さんは真面目だね。ほとんど毎回授業に出席するだなんて僕の周りにもいないよ」
「類は友を呼ぶと言いますから、あなたとあなたのお友達が不真面目なだけではないのですか?」
「うぐっ……」
それを言われたら本当に返す言葉がない……。
こういう発想の島村さんに対して『95%がリモートではまともに出席していないよ』などと言ってもあまり意味が無いだろう。
とにかく元々の価値観が違いそうなのだから。
「お兄ちゃんは流石にもうちょっと真面目に授業に出たほうが良いと思うけどなぁ~。お姉ちゃんに迷惑かけ過ぎだよ~」
「いや、お前も玲姉に勉強教えてもらってるんだから十分迷惑かけてるだろ……」
「あたしは、妹だからいいんだよ~」
「えっと、僕も一応弟的なポジションにはいると思うんですけど……」
「妹と“弟的ポジション”じゃ全然違うよ~」
まぁ、血の濃さ薄さで言ったら雲泥の差ではあるだろうけどな。
なんか、ムカつく言い方ではある……。
「あ、皆さん。盛り上がっているところ悪いですけど、夕ご飯できたんで、ダイニングに来てください」
割烹着を着ている烏丸が僕の真後ろに立っていた。かなり盛り上がっていたせいか全く気付かなかった……。




