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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第4章 反成果主義

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第85話 裏の綱引き

 玲姉に家まで拉致された後、建山さんと輝成が相次いで現れた。


「あ、2人ともお疲れ。烏丸、2人もココアを淹れてあげてよ」


 2人とも表情が非常に硬い。結果が思うようにいかなかったと考えているのだろう。


「分かりました」


 烏丸のココアは絶妙な甘さで美味しい。きっと2人もリラックスできるはずだ。


――だがしかし2人とも、烏丸が運んできても手を付けようとしないで俯いている……。


「虻輝様申し訳ありません……10億を守り抜くと豪語した割に敢え無く奪われてしまいました……」


「特攻局としても大失態です。問題のある人間を数多く逮捕することが出来たので私はプラスマイナスゼロというところでしたが……」


 責任者として2人は謝罪してきた。輝成なんて土下座をしそうな勢いだ。


 内藤親子を無事に奪還したという点では完全勝利だが、綱利のボスともいえる存在を全くつかむことが出来なかった上に、僕にとっては割とどうでもいいとはいえ10億円を失った。


 ただ、綱利としても“後ろ盾”があるとは言え特攻局に目を付けられ表向きには活動はやりにくくなる。僕たちは“痛み分け“と言ってもいい状況なわけだ。


 でも、この何とも言えない状況を周りの皆にそれを悟られるわけにはいかない。何事も無かったかむしろ“勝ったんだ”という雰囲気づくりをしなくてはいけない。


「まぁ、そういう日もあるよ。10億なんかより命だよ。

 内藤親子と皆が無事でいてくれて僕は何より嬉しいね」


「私は虻輝さんが無事だったのが一番嬉しいですけどね」


「20メートル以上の落下を体験されたとか……ゲーム感覚で飛び降られたのではないですか?」


「玲姉からもさっき散々言われたよ。無謀なことするなって。

 勝ち筋がそれしかないという状況が問題だとも言ってた……」


 次は建山さんが機転を利かせ、玲姉が受け止めてくれるとは限らない。ホント注意しないと……。


「折角だから今回の“内藤親子拉致事件”について振り返っていきましょう。

 私の調査したところによりますと、赤井氏は約2年前からEAIの最高顧問に就任し、

 徐々に組織の体質を変化させていきました」


 その辺りは島村さんから聞いたとおりだった。


「恐らくは2年前からずっと虻輝様と為継への復讐を考えていたのでしょう。

 全く2人共特段悪いことをしたように思えないのですが、被害妄想がある者にとっては悪意の有無は関係ないのでしょうね」


「最近、姿が見えないと思っていたら。コレだもんな。体は無事だが色々な危険なイベントラッシュで僕の潜在寿命は半分になっていそうだよ(笑)」


「本当にダメになりかけている方は、そんな冗談をおっしゃらないのでまだまだ大丈夫だと思いますよ」


 建山さんは僕をどこまでも鍛えようと考えている一派だったな……。

 今日も夕食後が怖すぎる……。


「そしてEAIは特攻局が目をつけていてもどうしても手を出せない存在でした。

 警察としても刑法犯を犯していないので事前に動くことが出来ませんし、

 そこで虻輝様とその関係者に白羽の矢が立ったという事でしたね

 赤井氏もそこを読んでの行動だったんでしょう」


 輝成が言うようなことを綱利が読んでいたとは思えないが、どうにかしてEAIを使って僕と為継を潰そうとしていたことは間違いない。

 全ては偶然に過ぎなかったが、僕が綱利と再び交わりを持ってしまったのだ。


「特攻局は赤井綱利という人物をマークしていたわけではありませんでしたけどね。

 ただEAIという動きが把握しにくい組織があるという事は我々にとって一番の脅威ですからね。虻輝さんに今回要請したという事です」


「偶然が重なったとはいえ、僕と綱利が交わったことでいよいよ綱利が動き出したわけだ。どういう手段を使ったか知らないが爆弾を設置し警察が被害を出している間に、内藤親子を拉致、そして僕を殺そうとしたという事だ……」


「依然としてどうやってロボットに爆弾を設置したのかは分かっていません。

 そして現在は赤井氏の行方が分かっていないのです。

 やはり権力を超越した存在が背後にいるのかと……」


 恐らくはモザイクをかけてくれている人の元にとんぼ返りしたのだろう……次の動向が気になるところだ。

 

「ちなみに内藤親子を拉致した倉庫は誰が所有だったの?」


「それが、“所有者はいない”のです」


「え? どういうこと?」


「正確に申し上げますと、元は政府所有の土地だったのですが何かしらの手違いで売却先が亡くなった方が所有者になっているんです。

 しかもその方は直系の相続人もおらず、相続人を探している段階で今のところ“所有者はいない”と言う状況です」


 建山さんの話を聞いて正直ゾッとした。


「それはやはり意図的にやられているという事か……?」


「あれだけの倉庫、そして最新鋭のロボット――やはり強力な後ろ盾があるとしか思えません」


「でも今のところそれに対する「訴え」や「追及」みたいなものも僕に飛んでこない。

 虻利家の名前が多少なりとも効いているってことなのかな?」


「“裏の綱引き“みたいなものがあるかもしれませんね」


「ただ、今日知ったことなんだけど、僕の弟の虻景が訓練中に負傷したのはどうやら綱利の可能性もあるみたいなんだよね。

 綱利本人が虻利家当主の座を狙っていたとか……」


 玲姉やまどかが虻利家を過小評価しているのもあって大したことないような気がしてたけどやっぱり僕は“とんでもない家“に生まれてしまったんだよなと実感する。


「今後は大丈夫ですよ。私もこの家に一緒に住みますから」


 島村さんの反発も全くどこ吹く風と言う感じで建山さんはこの家に居座るのが確定しているようだ……。心強い反面、新たな火種とも言えた……。


「ところで建山さんは“本当に”EAIについてだけ監視しようとしていたの?」


 どうにも裏の意図があるような気がしてならない。やっぱりEAIを“消そう”としていたのだろうか……。


「こうやって、虻輝さんに近づくためですよ~」


 そう言って建山さんはニコッと笑って僕の腕に抱きついてくる。何の花の匂いか分からないが、建山さんっぽい淡い感じの香りが漂ってきた。


「わわわわ……」


 こ、こうしてドキドキさせて誤魔化すんだから流石に上手いね……。

 建山さんこそこんな警戒心を緩める見た目で“裏の綱引き“をしている一人なんじゃないかと思っちゃうんだけど……。


「虻輝様も特攻局については機密も多そうですから詮索は控えた方がよろしいかと。

 我々警察も言えないことは多々あるのですが、できるだけ話せることは話そうと思いますがね。

 ただ、玲子さん達もいつ現れるか分かりませんから建山さんも離れた方が良いかと」


 輝成は建山さんが僕にくっついているのを見ても極めて冷静だった。


 そして、玲姉の名前を聞いただけで建山さんは顔色を変えて離れていった……。


「今後も機会があれば2人に頼る場面があると思う。

できる範囲で良いから協力してくれれば非常に助かる」


 2人が振り返った情報を総合しても正直、僕が考えていた以上の内容は無かった。

 この話はここまでにした方が良いだろう。

 考察したところで何か変わるわけでもなく、次の綱利の動きを警戒する他なかった。

 次の動きがあっても“大規模な動き”な気がする。その前兆を見逃さないことが大事だった。


「改めて10億円を守り切れなかったことは警察の失態です。虻輝様の命も危うく失われそうでした……。情けない限りでした……。

 必ずや次の機会では挽回します」


「まぁ、10億ぐらい世界大会1つ優勝したらすぐに上回るぐらい稼げるから。

 皆無事だったのが一番だから大勝じゃないか? 2人とも落ち込まないでよ。

 気晴らしにまたヴァーチャリストの時みたいに3人でゲームするかい?」


 輝成は責任感が強すぎる。いざという時に命を投げ出さないといいんだけどな――僕が言えたものでは無いが(笑)。


「良いですね! またチーム戦で3人で戦いたいです!」


 建山さんは手を合わせてウインクして賛同してくれた。僕の言いたいことを何となく察してくれたような気がする。


「また、私が足を引っ張らないと良いですけど……」


「あの事件を乗り越えた3人なんだからどんなゲームでも乗り越えられると思うんだけどねぇ……」


 2人共センスは抜きんでているが、本業があるので基本的には僕が何とかしなくてはいけないように思える。

 細かいところは僕がやるとして、2人には徹底した役割分担をした方が勝てそうな気がした。


「私のゲーム技術はもしかするとロボットの遠隔操作などで向上しているのかもしれません。今日のその技術で虻輝さんを救う手立てになりましたし」


「あーなるほど、確かに日々脳のデバイスで遠隔操作するのは影響大きそうだな」


「なるほど、私もロボット操作をして日々鍛錬する必要がありそうですね……」


「あ、ココアいただきます」


 一息ついた段階で建山さんがようやく湯気が消えかけたココアを飲んでくれた。


「あ、美味しいですね。私甘いのが好きでこれは癒される味わいです」


「へぇ、そうなの。僕もかなり好きでね。特にウチのは良い黒砂糖使っているから健康にも良いよ」


「ほぉ、これは確かに美味しいですな」


 輝成もようやく肩の力を抜いてくれたようだった。

 この2人とはゲームという他とは無い繋がりがある。これを活かさない手はなかった。


「それでね、今チーム戦で流行っているのはこのダンジョンゲームでね……」


 その後、3人でゲームの話に花を咲かせた。

 2人共プロプレイヤーでは無いものの、元々の地頭が良いために僕の話している“意味“がすぐに分かってくれるのは大きかった。


 玲姉やまどかは僕のゲームの話に全く興味を持ってくれないからな……。

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