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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第4章 反成果主義

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第84話 連続お見舞い

 僕と玲姉は短時間で終わるものの病院だから精密に分析ができる検診を受けたが、

 僕は何も問題は無かったし、玲姉はやはり打撲程度だった。


 一応僕も50キロぐらいあるのに20メートル以上下に落下してその程度で終わっちゃうだなんて本当にとんでもないよな……。


 玲姉は病室を聞くと案内図をパッと見ると勝手知ったるところのようにスタスタと歩いていく――僕は追いつくのに必死だった。


 大樹と大樹のお父さんは同じ病室だった。妙に白いパジャマが似合っていない印象を受けた。

 2人とも僕と玲姉が来るとパッと明るい笑顔を向けてくれた。


「虻輝~! 無事でよかった~! 死んじゃったかと思ったけど……」


 大樹はそう言って飛びついてきた。今日は僕の胸に飛びつく大会でも開催しているのだろうか? とはいえ僕は細く脆いのでその都度衝撃で体が悲鳴を上げるのだが……。


「あら、輝君。慕われているのね」


「主に舐められているような気がするがな……」


「そ、そちらのお姉さんは……」


「僕を20メートル以上下で受け止めてくれた玲姉だよ。正直人類辞めてると思うね」


 そう言うとポカリと玲姉は僕の頭を軽く叩いた。


「ちゃんと人類よ。内藤大樹君ね? 柊玲子です。よろしくね~」

 

「は、はい。よろしくお願いします」


 僕に対しては舐め腐った態度をとりまくっている大樹でも玲姉のこのオーラの前には従うんだな――というか島村さん相手にも敬語だったからやっぱり僕が情けなさすぎるんだろうか……?


 診察によると2人の容体はただの栄養失調みたいなもので数日入院すればすぐに快方に向かうとのことだった。


「いやホントに皆さんにはお世話になりっぱなしで。なんとお礼を申し上げてよいやら……。本当は私が身投げをすればよかったんですがイザというときに限って身がすくんでしまいまして……」


 大樹のお父さんが本当に恐縮してソワソワとしている。


「良いんです。僕たちは身近な人から助けていこうと思っていますから」


「この輝君がホントに頼りないし、昔は色々と悪行をしてくれちゃったけど、今は色々と頑張ってやってくれているわ。ゲームの技能も徐々に役立ってきているしね」


「ホントこの人がゲーム世界王者なのが信じられないですよ……」


「悪かったな強そうなオーラが無さ過ぎて。見てろよゲームのスキルを」


 僕はそう言ってコスモニューロンを公開モードにしてFVを3人に見せた。

 “生の喜び”を実感したお陰かは分からないが、カンが冴えわたり、ものの数分でたちまち3連勝していった。


「あぁ、もう分かったから。時間も無いし内藤さん達も困惑しているから。もう帰るわよ。

その調子でいつまでも続けられたらたまらないわ」


 玲姉は僕の神懸かり的なプレイを見てもいつもウンザリといった表情だ。

でもそりゃそうか。格闘ゲームなんかよりもずっとすごいスキルを自分で使いこなせるのだから……。


 玲姉をラスボスにしたゲームにした方が良いんじゃね? あ、でも玲姉が強すぎて誰もゲームクリアできないか……。


「下らないことばかり考えてないで帰るわよ。お二人ともお大事に~」


「大樹、元気になったらチームに来いよ。みんな待ってるからな!」


「うん!」


 玲姉は頭を下げ僕を引っ張りながら病室を後にした。

 

 別れ際の大樹の眼は潤んでいるような印象すら受けた。


「2人とも元気そうで良かった……」


「そうね。ついでと言っては難だけど、景君も同じ病院だからお見舞いしましょう?」


 そう言えば弟の虻景もこの病院に入院していたんだった。

 彼が無事だったなら僕が鍛えられるハメにはならなかったわけで、

今の状況を生んだ大事件だったと言える。


「そうだね。僕もなんだかんだでお見舞いに来れていなかったし今の容体を聞きたいね」


 理想を言うのであれば虻景が無事に復帰して僕は晴れてゲームを1日20時間ぐらいプレイする環境に舞い戻ることである。


 毎日寝るとご飯以外ゲームをするような楽園の日々を思い起こしていると気が付けば虻景の病室――いや、治療室にやってきた。


 未だに状況が良くないらしく様々なチューブに繋がれている。無菌状態の部屋のためにガラス越しにしか虻景を見ることが出来ない。


 妄想に耽っていたからその瞬間は気になっていなかったが、ここに来るまでの間もかなり厳重に管理されているようで2重以上のロック解除を経ていた。


 そして僕も気が付けば無菌状態を維持するために火星に降り立った宇宙飛行士のような格好をしている。それだけの状況なのだ。


「これは……2週間経ってもこの状況とは思ったよりも深刻だね。最新医療や玲姉の力でもどうにもならないの?」


 気が付けばお医者さんが僕たちの隣にいた。

というかずっといたのかもしれないけど、僕が虻景の方に目を奪われていただけなのかもしれない。


「主治医の美野島です。現状では虻景様の臓器に非常に大きなダメージがあり、

 完全に臓器を機械化しない限りは難しいのではないか? という話になっています。

 しかし、現状の臓器もある程度修復してくれなくては取り出しただけで出血多量死をしてしまうリスクがあります。

 そのために容易に治療もできないと言った状況です。

 元の状況に戻るまでには最低でも年単位でかかるかと……」


 見た目以上に悪いのか……。


「しかし気になるのはそれだけの大事故が普通の訓練で起きるのか?

 その訓練には爺もいたらしいじゃないか。爺は厳しいがそんなに無理をさせるタイプではないし危険なことを強いるタイプでは無いと思っていたんだけど……」


「それについては私から説明致しましょう」


 ビクッと僕の体が反応した! 爺が気配なく現れたので正直言ってかなり驚いた。


「な、なんだいたなら声をかけてよ正直驚いたよ……」


「失礼しました。私はこれでも責任を感じていまして、ほとんど毎日ここに来ております」


「そうだったんだ……」


「あれは本当に不覚でした……。これまであまりにも衝撃的な事実だったので虻輝様には伏せてきましたが、虻成様からの許可をいただいたので申し上げます。

 虻景様は何者かに襲われ重傷を負ったのです。

 訓練による怪我では無いのです……」


「え……? そうなの?」


「はい。今回の一件の前までは獄門会からの襲撃かと思われていましたが、

 赤井綱利が襲撃によるこの重症の可能性が出てきました」


「何の目的があってそこまでするんだよ……」


「どうやら、赤井綱利は虻利家の後継者を根絶やしにし、自らが虻利家の後継者になろうとしていたようなのです」


「マジか……僕や為継への私怨かと思っていたけど、そこまでして虻利家の当主に……」


 確かに虻利家当主になりたいみたいなことは言っていたが、

 そんなになりたいのなら譲ってあげるのに……と言いたくなったが僕の一存で決めることが出来ないのが悲しいところだし、虻利宗家以外に当主に基本的には継げないという意味が分からないしがらみと言える。


「正直なところ、私にもそんなことに拘るだなんて意味が分からないわ。

 でも、世の中にはいろいろな価値観があるの。

 特に虻利家当主の権力は絶大だわ。ご隠居様も寿命が無限大では無いしね」


「虻頼様は無限の命についても科学技術局に研究させているようですがな。

 表の研究には数兆円の予算ですが、裏予算を合わせれば国家予算に匹敵する100兆円が付いているとか……」


「それだけ研究にお金が使えるだけでも衝撃的だよ……」


 そもそもお金がそこまでかかる研究があるのか? と思うが想像を絶することが大王の頭の中で展開されているのだろう。だから無限大に“被検体”が必要なんだ……。


「ともかく、輝君。あなたの存在はあなたが思っている以上に重要なんだから。

 自覚をもって襟を正してこれから生活をしてもらいたいところね

 だからこそ、最後の瞬間まで身投げをしないことね」


 ふと一つ疑問を思った。


「仮にあそこで僕が“身投げ”をしなかったらどうするつもりだったの?」


「簡単な話よ。私があのゴンドラのロープを切って、建山さんのロボットが受け止める構図に変わっただけね。

 建山さんの駆けつける時間が持たないようなら何とか私がゴンドラが落ちないように引っ張るつもりだったけど。

 でも輝君の思考は飛び降りる気満々だったから受け止める方向でいたわ」


「あんな下まで思考が伝わっていたとは……」


「流石にちょっと頑張らないと読み切れなかったけどね。

 まぁ、日頃から輝君の思考は読み慣れているから楽ではあるけどね」


 日頃から思考が読み慣れているってもはや意味わかんねぇな……。


「話は戻りますが我々は密かにそれだけのリスクを取って日々生きているという事です。

 特に虻輝様のお立場は誰もが何をしてでも欲しいポジションですから」


「あぁ、そうなの……」


 僕はさっさとこの地位を手放して隠れてゲームをしたいよ……もっともゲームをしている時点でどこにいるかバレてしまうだろうけど(笑)。

 

「どうにもイマイチ納得されていないようですが、簡単に申し上げますと今の虻景様のように“寝たきり”になってしまうという事です」


 自分でも目を見開いたのが分かった。それだけは大変困る。死刑宣告を突き付けられるようなものだ。特に脳に損傷があればコスモニューロンをうまく動かせないかもしれない……。


「今後もゲームをなさりたいのであれば、自己防衛のためにも私の指導に従っていただきたいですな」


「結局はそこに落ち着いちゃうわけね……」


「いつも選択肢が“身投げ”しか残らなくなるような悲惨な状況を避ける必要があるという事よ。

 自己犠牲の精神は結構なことだけど、窮地に追い込まれた際に選択肢がそれしかないってゲームの上で仮定したとしても問題なことではないかしら?」


「確かに特攻戦術を多用するプレイヤーは正直言って弱いね。チーム戦でもメンバーが揃っているほうが良いから、安定して勝つことは不可能だろう。

 最初は驚くけど、所詮は初見殺し程度の存在だね」


 ヴァーチャリストを振り返ってもそうだったしな……。


「ゲームの話だけは口調も自信も違い過ぎるわよ……。

 とにかく、選択肢を増やすためにも帰ったら鍛え直しよ!」


「ちょぉっ! 引っ張らないでー!」


 死線を潜り抜けたばかりだってのに無傷だからって酷使しすぎるだろ……。

 でも、玲姉によってまたしても助けられた命なのは間違いないんだ。

 いつまでもこういった服従し続けざるを得ないんだろうなと思った。


 そして最後に治療室を後にするときにすっかり細くなってしまったチューブに繋がれた虻景の姿を見ながら思った。

 誰がこんな目に遭わせたか知らないが必ずお前の敵を取るからな――と。

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