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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第4章 反成果主義

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第82話 死亡回避人

 バンッ!!! という音がしてコンクリートが舞い上がったのは分かったのだが、それに相応しい衝撃は僕の体にかかってこない。

 それどころか、どうにも柔らかく温かい感触があった。


「本当にバカね……」


 よく聞き慣れた声がすぐ上から聞こえた。


「え……? 死んでない? というか玲姉!?」


 何と玲姉が腕と足をうまく使って僕を受け止めていたのだ。

 とんでもないことに、地面が少し抉れたぐらいで、僕への衝撃はほぼ皆無と言ってよかった……。

流石に玲姉の腕が少し震えていたので僕は慌てて玲姉の腕から降りた。


「本っっっ当に輝君は自分の命を大事にしないのね。

ここまでくると呆れ果てるわね……もうちょっと周りのみんなを信じた方が良いんじゃないの?

 昨晩話題にしていた通りゲーム感覚で人生を身投げされても困るんだけど……」


 玲姉はストレッチするかのように腕を伸ばし始めた。


「さ、流石に今回ばかりは僕が飛び降りる以外に打開策が無いのかなって思ってね……。

 でもどうして待ち構えたかのようにこんなところにいるのさ?」


「建山さんから烏丸君経由で連絡があって、ここで待機していたら輝君が降ってくるって聞いたのよ。絶対に無理するに違いないって。

 地下通路経由で建山さんの協力もあってここに何とかやってくることが出来たわ。

 ちょっと時間が足りなくて最後は壁を破壊しながら来たのだけども……」


 恐る恐る玲姉の後ろを見ると確かに壁がボロボロに崩れている……。

 建山さんが上にいる以上、このお方を呼ぶしかなかったという事か。

 

 と思っていたら緊急連絡が入った。これは多分……。


「虻輝、悪運ばかりは強いな……正直驚いたよ。私も今ある全てを尽くしてお前を消そうとしたのだが……」


 やはり綱利だった。心底悔しそうで何だか“勝った”ような気がする。もっとも玲姉が実際のところは何とかしたのだけれども……。


「綱利……出頭しろ! 今ならまだ自分から名乗り出れば罪が軽くて済む。

 難なら僕が仲介に入って軽くしてもらうように特攻局に対して進言するからさ……」


 偽善なのかもしれないし、甘すぎるかもしれないが幼い頃を共にした綱利が重い量刑になるのは正直心が痛む。何とかして執行猶予が付くぐらいにはなってくれないだろうか……。


「それならお前も出頭することだな。お前がデータを改竄し科学技術局に被検体を渡したことは知っている。多数の公的文章の改竄は殺人犯に匹敵する罪を負うことになるだろう。

 出頭できないだろう?」


「くっ……」


 何も言い返すことが出来なかった……。確かに僕の咎はあまりにも重過ぎる。

 人生で一度も綱利に討論で勝ったことが無い。元の知能が違い過ぎると言える……。


「お互いまだまだやることがあるということだよ。その役割を果たしきるまで私はあらゆる手を尽くす。お前もそうするべきだという事だ」


「あら、綱利君と話しているようね? 私から一言言わせてもらうわ。

 輝君はもう昔の輝君とは違う。人は変わろうと思えば変わることが出来る……。

綱利君もそこのところを理解して欲しいところね」


 僕の思考を読んで口を挟むことは普段は辞めて欲しいと思うが、こういう時は非常に頼りになるし楽だ。


「お前、本当に有能な女を誑し込むのが得意だよな……。

 私に殺されるまでせいぜい生きていることだな。

 次は玲子さんの妨害があっても必ず消してみせる」


 そう言って綱利からの連絡は途絶えた。玲姉に反論することは不毛だと思ったのだろう。


 僕の知る限り玲姉より明確に立場が上の人物というのはご隠居ぐらいしかいないのではないか? と思える。父上や大王すら“相互依存関係”といえるので立場が上とは言い難い。どんな人が相手でも“乗りこなしている”そんな印象すら受けた。


 ただ、ようやく緊迫感から解放されたのかドッと疲れが出た。


 しかし休む暇なく間髪入れずに今度は為継がすかさず連絡が来た。


「いやぁ、元気してるよ。玲姉が本当にまたやってくれたって感じしかないけど……」


「超人柊玲子には本当に驚きですが、虻輝様がご無事で何よりです。綱利の連絡も聞いていましたが本当に厄介なやつですな。結局逆探知もできませんでしたし……」


「ホント因縁の相手ってのは中々切っても切っても切り離せない感じだよな(笑)。

 今後も何か起こるたびに綱利を疑うしかない状況だな」


「ええ。真っ先に疑うべきでしょうな。しかし、柊玲子の腕は大丈夫なのですか?」


「玲姉の腕? なんかストレッチしているけど特に問題なさそうだけど?」


「20メートル落下した虻輝様を受け止めたのですから、重力加速度も相まって尋常ではない圧力がかかっています。普通であれば無事ではないと思うのですが……」


 確かに……急に玲姉の腕がどうなってしまっているのか気になった。

 玲姉だってストレッチをしているという事は何かしら気になるところがあるという事だろうし……。


「玲姉ちょっと腕を見せてみてよ」


「え……いいわよ。そんな、大丈夫なんだから」


 玲姉の腕を無理やりにでもめくると何とサツマイモのような紫色に変色していた。


「た、為継! やっぱり大変なことになってるんだけど! 紫色だよ腕が!」


「落ち着いてください。私の見たところそれぐらいでしたら打撲に近い状況ですから冷やされるとよいかと」


「玲姉、何か水道みたいなところなかった? 冷やさないと!」


 コスモニューロンで簡単に診たら骨には異常は無さそうだったが、玲姉の美しい肌に何か跡が残ったら僕に責任が降りかかってくる。

 そう言うと玲姉は嫌々ながらもどこかに歩いていく。すると水道があってそこで冷やし始めた。11月だから何もしなくても冷たいだろう。


 どうやらこのあたりの地形をここに来る間に把握しているような感じがした。


「全く心配性なんだから……まぁ、輝君が向こう見ずだと批判しておきながら私が自分のことを気にしないのは矛盾にもほどがあるからね」


「そ、そうだよ。自己犠牲を積極的に行うのはお互い素晴らしいことだけど、あまりにも顧みなさすぎるのは問題だね。

 だって、この理念を伝える側がいなくなっちゃうんだからね」


 小さく“では失礼します”と、為継が連絡を切った。なんだかこっちが勝手に世界に入っている感じはあった。


「ふふ、そうね。私たち長いこと暮らしていて似ちゃったのかもしれないわね」


 玲姉はクスリと笑った。本当に美しくて吸い込まれそうになる。

 あまりにも恥ずかしくなったので目を逸らした。


「玲姉に似ているだなんて光栄すぎるね。その理念が実現すれば本当に世界がいい方向に持っていけるから……」


「強さや逞しさも私に似て欲しいわね……」


「それは難しいかと……。大体、才能が違い過ぎるでしょ……どうやって姿消すんだよ」


「簡単よ。細胞を活性化させて景色と一体化するようにすればいいだけなんだから」


 どれだけ細胞を活発化させればいいんだ……。というか活性化した程度で姿消せるのか?


「いや、無理だろ……」


 人類1回辞めないと不可能だろう。玲姉は既に人類を半分辞めちゃっているのかもしれない。それならちょっとは意味が分かる。

 そして人類であることに玲姉が固執したくなる理由も同時に何となくではあるが理解できる気がした。


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