第80話 謎の倉庫
飛行自動車で一気に綱利がいると思われる倉庫に到達した。
車などは無く閑散としており、全体としては薄汚れた築30年ぐらいの雰囲気があるが、非常に広そうな敷地を持っている。
これだけの倉庫を持つ権限があるのだからやはり綱利の“後ろの勢力”というのは相当な力を持っているのだろう……。
よくよく警戒しながら車から出ると綱利のロボも現れる。
「よく来たな虻輝! 10億は確かに受け取った! 内藤親子に会わせてやるよ」
残念なことに10億は助からなかったようだ……。
まぁ、失ってそんなに悲しいお金でもないからいいか。
生活に困っていたり普通の稼ぎの人達が聞いたらとんでもない発言なんだろうけど、事実なんだから仕方ない。
「さぁ、お金を払ったんだからちゃんと内藤親子を返してもらおうか!」
「この私に勝てたらな!」
そう言って綱利のロボットが青いブレードを出しながらビュンッと僕の目の前まで一気に迫ってくる。
「私に任せてください!」
建山さんがサッと現れて僕の腕をつかみ安全地帯まで一気に引っ張った。
見た目的には僕が建山さんを守らなくてはいけなさそうな気がしなくはないが現実は全く逆だ……。
「特攻局で最速出世だか何だか知らないが、その身に教えてやるよ。
さっきは、油断したが今度は不覚は取らん!」
綱利が搭乗しているロボットは建山さんに向かってブレードを向けてくる!
建山さんはサッとジャンプしながら身を翻して回転蹴りでロボットの腕を攻撃した。
強烈な蹴りの前にブレードは吹き飛び装甲が凹んでいる……。
このロボットアルミでできているわけじゃないよな? こんなに簡単にダメージを受けているだなんて……。
「な、舐めた真似を! これでもくらえ!」
手がガトリングのようなものに変形し一気に建山さんめがけて雨のような射撃していく!
「甘いですね!」
建山さんは驚くべきことにそんな銃弾を交わしながらバッと綱利のロボットの懐に飛び込む!
確かにこれで綱利側としては自分を射撃しなくてはいけなくなるために一気に窮屈な動きになった。
「小癪な女だ! これでどうだ!」
綱利ロボは体全体が一気に針山みたいになる! 建山さんを串刺しにしようとしているようだった。
「ハリネズミの方が硬いぐらいじゃないですか? とうっ!」
建山さんがバシバシ殴るたびに針山の針がバラバラになって吹き飛んで行く……。
「な、なんて女だ! このままではこちらがやられる!」
綱利が一気にエンジンをふかして建山さんを振り払おうとする。
建山さんも流石にしがみつくのは不利と見てパッと降りた。
「流石建山さん……やったね!」
ヤバすぎるパフォーマンスの前に驚愕せざるを得ないけどね……。
いとも簡単に綱利の攻撃を迎撃していくので、ロボットの方が欠陥品なのではないか? と思ってしまうほどだ……。
「しかし、逃がしてしまったのは不覚でした。捕まえるか仕留めきれなければ意味がありませんから。
10億円を何とか取り戻しましょう」
「ま、まぁそこまで気にするような金額でもないからさ。
でも場所の特定はできなくなっちゃったの?」
「私が取り付けた発信機も今の戦いで破壊されてしまったようですし、ちょっと追えない状況になってしまいました……。
ロボットが走行に特化したら時速200キロを超えますからね。流石に私も空気圧で耐えられません」
建山さんはコキコキと腕や足をストレッチしながら不満そうな顔をしている。
ただ、あれだけ綱利のロボットが変形を繰り返していたんだから仕方ないと言える。
「いや、そもそも最新鋭のロボットと戦えている時点でヤバすぎるから……。
むしろ圧倒していたぐらいなんだから……」
「これぐらいできなくちゃお話になりませんよ。私は玲子さんに勝とうと思っているんですからね。
それより、内藤親子はこの倉庫の中でしょうか? 行ってみましょう」
「為継の情報でもそうなっているね」
僕の驚きをよそにマイペースに建山さんは倉庫の中に入っていったので僕も急いで付いていった。
靴音が妙に辺りに鳴り響いてとても不気味だ。どこに敵が潜んでいるとも限らない。
「熱源探知で見ますと、どうやらこっちの方ですね。トラップなども見たところあまり無さそうです」
僕の不安を感じ取ったのか建山さんは何気なくそう答えた。
「そんな機能もあるとは……」
建山さんはスタスタと迷いも淀みもない動きで歩いていく。柳のように細いのにこんなにも頼りがいがあるんだからね……。
僕一人だとおっかなびっくりで前に踏み出せないに違いないが建山さん早歩きに必死についていくことでそれを逃れることが出来ている。
「特攻局に所属している者はあらゆるツールを搭載しています。
これは私から10メートルの範囲の熱源の位置を完全に把握しています。
コスモニューロンを搭載している方に関してはそのIDなどの個人情報も自在に分かるようになっています。
このツールのように一般には公開されていないモノも多いですね
ただ、使いこなすための講座などもありますけど、意外とマスターできていない人が多くて困っちゃいますね」
「そうなんだ……。でもコスモニューロンのアプリでも脳のデバイスで操作するのも難しいのが多いよね。
面白いゲームでも操作が難しすぎては流行ることなく終わることもあるしね」
見た目こそそんなに強くなさそうだが、
どこで鍛えたのか分からない持ち前の戦闘能力の高さに加え、最新ツールも自在に操っているんだ。出世しても当然だなと思った。
この建山さんにちょっと余裕をもって勝ってしまった玲姉は改めて凄すぎる……。
僕が見たことも無い技をいくつも隠し持っているに違いない……。
しかしそんな建山さんが歩みを止めた。突然止まったんで思わずぶつかりそうになる。
うなじからいい匂いがしてちょっとドキドキした……。
「おかしいですね……。熱源を見た限りではこの近くのはずなのですが人気がしませんね……。ポイントをもうちょっと絞った方が良いのかな……」
僕の無駄なドキドキをよそに建山さんはあたりを見回している。
深呼吸をして辺りを見回してみると、確かに広い場所に出たが、すぐ先は行き止まりになっており、ポッカりと大きな穴が開いている。
誰かが隠れていそうな場所は無かった。
その穴は20メートルぐらい下までありそうで落ちた瞬間一巻の終わりだ。柵なども無く、夜なら気が付かないうちに足を踏み外していそうな感じがした。
本当にここは屋内なのか? と思うだけの危険さを感じた。
何か大きな爆破実験でもかつて行われていたのかもしれない。
「虻輝聞こえるか? どうやら人質を探しているようだが、面白いことをしようじゃないか?」
そんな、途方に暮れていると綱利の声が突然聞こえてきた。
「綱利どこにいる!? いい加減にしろ! お前の負けだぞ! 建山さんに勝てるはずがない!」
半ば焦りに近いものを感じながら綱利に向かって強い音声を送った。




