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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第4章 反成果主義

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第79話 視界改竄

 為継や建山さんと輝成と話し合った結果、僕の護衛と周囲の監視、10億円の防衛のために総勢50人が動員されることを教えてくれた。


 どうやら昨日から僕のために動員をかけてくれていたらしい……。

 

 たかだか一個人のためにここまでやってくれることは大変ありがたくもあり頼もしくもある。

 

 玲姉と烏丸以外の僕の周りの人員も皆駆けつけてくれることになり、こんなに頼もしいことは無かった。


 ただ、誰が来ようとも捕まらない絶対的な自信を綱利からの連絡からは感じた。

 “警察だろうと特攻局だろうとこの私に勝てるはずがない”そこまで言い切るところが本当に不気味だった。


「虻輝様大丈夫ですか? 顔が青いですが……」


「あ、ああ……昨日は眠れなくてな」


 半分合っているが半分間違っていた。昨晩から今まで不安で不安で仕方ないのだ……。


「大丈夫ですよ。私たちが名誉にかけてもお守りしますから。必ず捕まえますよ」


 建山さんが気が付けば僕の手を握っていた。

 それを強引にまどかが振りほどく。


「もぉ! お兄ちゃん顔真っ赤にしないっ!」


「お前は関係ないだろ……。た、建山さん達は信奉連盟を捕まえに行かなくていいの?」


「仁科を中心とした部下に向かわせました。恐らく私がいなくても大丈夫でしょう」


「だからってお兄ちゃんとベタベタしていい理由にはならないんだけど!

 お姉ちゃんに勝ってからにしてよね!」


「仕方ないですね……」


 どうにも建山さんも玲姉とまどかラインにはそこまで強く出られないようだ。

 まどかの後ろに玲姉の影を感じざるを得ないのもあるだろう……。


 このような、しょうもない雑談をしているともう11時57分になっている。

 目の前とはいえ、そろそろ動かなくてはいけない。


「それじゃぁ、行ってくるよ」


 トイレに行くような気楽さのつもりでゴミ箱に向かって歩き出した。

サッと懐に入れていた10億円の小切手を今一度取り出す。


 この瞬間を50人以上が注目しているかと思うと、それだけでも心臓バクバクだよ……。

息を吸い込みながら、ゴミ箱の中に投函した。

 うわぁ、ゴミ箱に10億円入れるとか勿体ないなぁと思ったけど綱利がすぐに回収するんだよな?

 

 この小切手特殊だから期限内に履行しないと権利も預金残高も消滅しちゃうんだよね。つまり、ごみで焼却しちゃうと10億がこの地上から消え去ることになる。


 そんなことを思いながら元の場所に戻る。皆安堵したような様子で僕を迎え入れてくれた。


「……特に我々以外の者が近づく気配がありませんね」


 輝成が怪訝な顔で頭をひねる。


「ですが、虻輝さんが12時に投函しろという話であって、相手が12時に取りに来るとは言ってませんからね。我慢比べでしょうか?」


 建山さんが真剣な表情でゴミ箱を見据えていた。

あの何の変哲もないゴミ箱もこれほどの美人に見つめ続けられたことは無いだろうな……。


「ゴミになって回収されたりしないの?」


「その点はご安心ください。我々が見張っている間は回収車は来ないようになっています。

 道路は封鎖していませんが、この近辺の全ての人物・車、船や飛行機まで把握しているのですぐに追跡できるようになっているので問題ありません」


 ゴミになっちゃう! とか、無意味に僕は緊張していたという事か……。

 でもよく考えてみれば、このメンバーが動いているんだからそれぐらいの配慮をしていて当たり前か……。


「そうなんだ。ちょっと安心したな――あ、安心したところで暇なんでゲームをしていいかな? これでも僕プロゲーマーなんで」


「え、ええ……どうぞ。流石ですなこの状況でもゲームができるとは」


 輝成もさすがに引いているようだった……。


「まぁ、10億ぐらい最悪ゲームの大会で1つで結果出せば取り戻せるからねぇ……。

 少しでもゲームの感覚を研ぎ澄ましておくことの方が重要なんだよ」


「流石の感覚ですな……。それが世界王者の精神力という事ですか……。

ここで、虻輝様が何をされていようと私たちが目を離すことはありませんのでご安心ください」


 ちなみに話しながら圧倒的に有利な展開で1勝していた(笑)。

 そして7勝目を挙げた時だった。


 青いセーターを着た男がゴミ箱に向かっていく。

 僕が投函した“燃えるゴミ“に手をかけた時だった。


「確保しろ!」


 バッと警察が動きゴミ箱に近づいた男を3人の警察官が確保する。

 しかし、綱利とは似ても似つかないほど太った男が捕まっただけだった。


 こんなんじゃあっさりと捕まっても仕方ないな……。


「ち、違うんだ俺は命令されて!」


「誰に命令されたんだ!」


「し、知らない! ただこのゴミ箱に12時半に近づくだけで金が貰えるって……」


「ふざけるな! そのゴミ箱に手を付けたという事は、そこに小切手があることを分かっているんだろうが!?」


「本当に知らないんだ! 小切手があるだなんて今聞いた!」


 無意味な生産性の無い問答が続いていく。

 

 埒が明かないようなので、警察が任意同行をしていくようだった。


「どう見ても綱利ではないようだな……」


「綱利本人が来るとは限りませんからな。また、綱利以外の者に対しても特殊な保護をすることは可能でしょうし」


「確かに、綱利だけとは限らないもんな……恐ろしい」


 そんなことを言っている間になぜか知らないが島村さんが弓を撃ちながら、走り出す!


「ちょ! まどか! 島村さん! 一体どうしたの!?」


「ゴミ箱に手をかけた人間がいたんです!」


「はぁ!?」


 たった今捕まえたばかりだろ? 頭がおかしくなっちゃったんじゃないの?

 と言いたくなったが――。


「虻輝様大変です。どうやら、私たちのコスモニューロンを介しては視覚出来ないようなシステム障害を起こさせたようです。警察に扮した格好で近づき一気に小切手を奪っていったようです。

 恐らくはまどかと島村知美はコスモニューロンが入っていない、言わば“裸眼状態”だったので識別できたのでしょう」


「え! ま、マジか!?」


 為継からの緊急連絡を受けながら急いでまどかと島村さんを追おうとしたがもうすでに小さくなっている。思ったよりも速いんだな……。

 仕方ないので飛行自動車に乗ることにした。


「景親運転頼む!」


 疑って悪いことをしてしまった……。2人の眼か頭がおかしくなったとすら思っちゃったんだから本当に酷いな僕は……。


「景親、為継からの連絡はお前が受けろ。僕はどこに止めたらいいか指示する」


「はっ」


 正直なところ相手がコスモニューロンのシステムに影響を与えているために見えないために“裸眼”になるしかない。

 どちらかが、回線を切るしかなかった。


 まどかと島村さんの後ろ姿がようやく大きくなる。警察官に扮したと思われる男を追っていた。


 すぐに僕たちの降りると警察官の車もすぐに追いついてくる。


「チッ! もう追いついてきたか!」


「さぁ、小切手を返してもらおうか!」


「馬鹿どもめ! これでもくらえ!」


 男は硝煙弾のようなものを投げた。


「な、なんだこれは!」


 頭に直接響いてくるようなドリル音は頭を破壊しそうなものだった……!

 たちまち周りの皆も警察官たちも倒れていく。何かしらの人体に影響を与える妨害電波か?

 

「よくやってくれました」


 ドリル音の中、綱利の声が聞こえてきた。なんとロボットに乗っていた。小切手をさっとケースに入れて懐に入れていた。


「ろ、ロボットなんてどうすればいいのぉ!?」


 この中で唯一動けるまどかと島村さんも対処不能といった感じだった……。


「2人ともどいてください!」


 建山さんがどこからともなく現れて飛び蹴りした。綱利ロボは交わそうとするが、つま先に直撃し、一部破損して穴が開いた。


 それと同時に僕たちの頭脳へ轟音も消え去った。どうやら綱利のロボから発していた異音だったようだ。


「な、なんだこの女……」


「私は特攻局関東統括部長の建山です。誘拐容疑と強盗の現行犯で逮捕します」


「こ、コイツが建山……この最新装甲に穴をあけるとは人類とは思えない……」


 大丈夫だ綱利。僕も全く同感だから……。

 玲姉と互角に渡り合った建山さんも人類と同じ分類をしてはいけないだろう……。

 “未確認生命体”と言ってもいいのかもしれない。遺伝子レベルで違いがあるだろう。


 しかし、“未確認生命体”によって逃げおおせようとしていた綱利の動きが止まったのは間違いない。


「綱利覚悟しろ! もう逃げられないぞ!」


「バカめ! 私がこの程度で計画が崩れると思うか!」


 そう叫ぶと背中からロケットのようなものが出てきて一気に飛び立った。

 勿論小切手を持ってきた仲間は置き去りである。

 瞬く間のうちに残された男は警察によって逮捕された。


「お、おい! 俺も連れて行ってくれるんじゃなかったのかよ!」


 彼は虚しくも完全に綱利に利用されただけだった。目的のためには手段を選ばない。非情とも言えるやり方が綱利らしいと言えばそうだった。


「虻輝さん大丈夫です。私がロボットに蹴りを入れた時についでに発信機をつけておきました。すぐに追いましょう」


「おぉ、流石建山さん」


 本当に抜け目がない。これが特攻局で史上最速で出世する人間か……。

 今は味方だからこんなにも頼もしいが、敵に回った時が本当に怖いと言えた。


 僕自身があまりにも戦闘能力がしょぼいからそう思える人間がかなり多いと言えるんだろうけどね。

玲姉、為継や建山さん――周りが素晴らしいだけに僕の情けなさが際立った……。

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