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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第4章 反成果主義

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第77話 トランポリン

「楽しそうなお話のところ申し訳ないのですが、今日の特訓を始めませんか?」


 建山さんが笑顔でそう提案してきた。“訓練監視者“が1人増えたような気がしてなんだか嫌だ……。

 今日は勿論楽しい会話だけで終わらせようとしていたのは言うまでもない……。

 

「今日は昨日と違って重力を無くして限りなく現実世界に近い状態でやってみましょう。

 昨日の跳躍力では虻輝様ですらあれほど高く飛べてしまいますから」


「えー、結構楽しかったんだけどなぁ……」


 何でもないVR空間同様、自在に体を動かせるという状態はやっぱり僕には合っていたのだが……。


「建山さん。くれぐれも輝君に対してちょっかいを出さないように」


「お姉ちゃん。この建山さん本当に隙が無いぐらいすぐに何かしてこようとするんだよ……」


 まどかがすかさずそう言うと玲姉の眼がすっと細くなる。


「い、いえ。そんなつもりは……」


 建山さんの顔は対照的に青くなっていった。何たる抑止力……。


 そのすきに僕は抜け足差し足で訓練場から抜け出そうとしたが――。


「虻輝様。油断も隙もありませんな……」


 爺に捕まり敢え無く逃亡は無駄に終わった……。そして、強制的に寝かされた。

 仕方ないからダイブするか……。


「今日は私が部屋を作りましたので、月面場をイメージした場所にしてみました。

 いかがですか?」


 VR空間へのダイブに成功したなと思うと、建山さんがニコニコしながら語りかけてくる。建山さんは宇宙飛行士のスーツのような格好に変わっており、雰囲気がとても出ている。

 気が付けば僕や爺も建山さんとお揃いのウェアーになっていた。


「そうだね……ちょっとは良い感じが出てるね」


 僕としてはやる内容がゲームではない以上、なんとも言えない気分でいるわけだが……。


「今日はこれを使ってみましょう」


 そう言って爺がポンと魔法のように出したのはトランポリンだった。


「おぉ、トランポリンなら何とか飛べそうだ」


「甘く見てはいけませんぞ。トランポリンとてきちんと前上に飛ぶことはそれなりの対韓と筋力が無くてはなりませんからな」


「あ、そうなの……」


 ただ飛べばいいわけじゃないのね……。


「特にこのトランポリンは反発力が強い上に通常のものよりバランスがとりにくくなっています。

 これをリアルでやると場合によってはトランポリンの外まで飛んで行ってしまいます。体幹を鍛えていないとこのトランポリンを乗りこなすことはできませんぞ」


「へぇー、思ったよりも大変そうだなぁ……」


「他人事っぽいご発言ですけど、虻輝さんがやるんですよ?」


 と言われて建山さんに強制的に腕を引っ張られてトランポリンの上まで連れてこられる。

 力の差がありすぎて抵抗する余地も無かった……。


「まずは私が飛んでみますね」


 建山さんは真上にピョンピョンと5回ぐらい2メートルぐらい飛んで見せた。

 いとも容易くやっているように見えてしまう……。


「ではやってみてください」

 

 さっきの爺の話を聞いていたらとても怖いんだが……。


 恐る恐るちょっとバウンドさせてみたが――。


「うわっ! ぐぶっ!」


 斜めに飛び上がりあっという間にバランスを崩して外に転がり落ちた。

 リアル世界だったら頭を強打していたに違いない……。

 鼻がグニャッと一時的にちょっと変形した程度だった。


 これは1回飛んだだけで僕の想定と違うことが分かった。

 今までにないトランポリンだ……。


 それを平然と飛ぶことが出来ている建山さんはやはりただ者では無い……。


「やはりリアル世界でやらなくて正解でしたな。

 虻輝様は特に怪我とかされるとやる気を急激に失われるお方ですから」


「確かに嫌になるね……。ここだとほとんど痛い思いをせずに済むのは素晴らしいな」


 その分逃げることも難しいけどね……。


「膝から上を踏ん張らなくては乗りこなすことはかないませんぞ

 かと言って10センチとかしか飛ばないとかはナシですぞ。

 1メートルは最低でも飛んでいただかないと」


「あ、そう……」


 その場で跳ねるようにして5センチぐらいで終わろうとしていたのを見抜かれた(笑)。


「とりあえず、5回連続で真上に1メートル飛んでいただくまで元の世界には戻さないように建山さんもご協力をお願いしますぞ」


「分かりました。それぐらいはやってもらわないと困りますね。

 達成できなければ永遠にこの世界に幽閉しますよ。

 私には時間限度があるので、何かのシステムを使って監視することにはなると思いますが」


 そこまでするのかよ……こうなれば、気合でやるしかない。

 こんなところで餓死をするのは流石に嫌だ……。

 どんなまぐれでもいいから5回連続を成し遂げないと……まずは1回達成が大事だ。


――15分後、何とかバランスをとって1回飛ぶことが出来た。


「凄いです! さっきまであんなに悲惨だったのに!」


 もはや赤ちゃんが立った! ぐらいなノリになっているのは気のせいだろうか……。

 もっともこの2人から見たら赤ん坊レベルなんだろうけど……。


「や、やった!」


 更に45分後、ついに5回飛ぶことが出来た! 正直まぐれに近かったが……。


「ふむ……あまりの低いレベルに毎日涙が出そうになりますが、

 確実に進歩していることは間違いないでしょう。次にリアル世界でこれをやってみましょう。建山さん現実世界を戻してください」


 涙が出そうになるなよ……というか爺、泣いてるし。


「分かりました。部屋を解散しますので意識を戻す準備をしてください」


 現実世界に戻ると、VR空間にあったトランポリンが目の前にあったので思わず目が回った……。

 しかし、ちゃんと周りにはクッションが敷き詰められており、よほど明後日の方向に飛んでいかない限り大丈夫なようになっている。


「お、虻輝様戻ってこられましたな。見てください! 俺と輝成が敷き詰めておきましたぜ!」


「あぁ、ありがとう」


 正直、まだ続くのかと思うと憂鬱になるがね……。


「では、やってみてください」


 現実だとちょっと感覚が違って戸惑いはあったが、最初は足並みが乱れるものの2,3分で真上に飛べるようになる。

 VR空間でトランポリンを飛んだ時のような明後日の方向に飛ぶことは無かった。

 

 更に20分後、汗まみれになりながらもついに真上に5回飛ぶことが出来た!


「おぉ! やったぞ!」


「おめでとうございます。これで進歩されましたね」


 建山さんが笑顔で小さく拍手している。

 相変わらず赤ちゃんがヨチヨチ歩きするレベルだが、進歩したことは事実だった。


「へぇ~ゲームがリアルっぽい感覚でできるようになっているって話本当なんだねぇ~。

 小学生のあたし並みの体力のお兄ちゃんがこんなにできるだなんて……」


「あら、凄いじゃない。そのトランポリン結構難しいわよね。私は三回転半宙返りがやっとできるぐらいよ」


 なんだよそれ……と思ったら玲姉がトランポリンに乗ってビュンと飛び上がると体操選手のような回転をして乱れることなく着地した。ヤバすぎる……。

 拍手が巻き起こった。どんなオリンピックの審査員でも10点満点だろう……。


 そして玲姉の周りに人が集まる。結局今日もこの人が全てを持って行った……。


 しかし、玲姉やまどかから褒められ、島村さんから辛辣なコメントが飛んでこないのを見るとそれなりによくやったと言ってよかった。


 しかしボロボロだ。今日は本当に死んだように眠れることだろう……。

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