第3話 家内の格付け完了
家に着くと、まどかと烏丸が迎えに出てくれた。
「おかえり! あっ! あなたが島村さんですね!」
「はい、島村知美って言います。あの……玲子さんに言われて今日からここで暮らすことになりました。よろしくお願いします」
「うわー! 大歓迎だよっ! 綺麗なお姉ちゃんが2人に増えたみたいでっ!」
「そ、そんな玲子さんにも言われましたけど綺麗だなんてことはありません……」
お、おい……どういうことだ……。
あの僕に対して当たり散らしていたまどかまでこんな風に友好的なんだが……もしかして僕があまりにも人望がないからか?
というより、本当は明るい子なのかもしれないけど、僕に対する嫌悪があまりにも強すぎるだけなのかもしれないな……。
「か、烏丸。父上がいない今、男2人仲良くやっていこうな?」
3人集まれば派閥ができるという話だが、既に少数派閥というのが確定した。
いや、よく考えてみれば元から玲姉&まどか姉妹と僕単独という図式で弱小勢力だった……。
「え、あ、はい」
烏丸は直前に何かボソボソ呟いていて僕に対しては実に味気ない返事だった。
てっきり、『嫌だなぁ、僕が虻輝様と仲良くするわけないじゃないですかぁ』とか言われるかと思った……。
ふとその時、烏丸がどこかをぼんやりと見つめていることに気づく。その視線の先を追ってみると……。
「お、烏丸ぁ。お前、島村さんのこと見て、もしかして一目惚れしちゃった?」
ぼさっとしていた表情からいつものニヤニヤしている表情に変わる。
「え、いやそんなんじゃないですよぉ。あと、虻輝様とは既に仲いいじゃないですかぁ」
僕が予想したよりかは遥かに思ったより嬉しいことを言ってくれた。
「そんなんじゃ本来は困るんだがな。
僕のほうが年上の上に一応は主従関係のはずだろ?」
「え~、お金をいただいているのは虻成様からですし、虻輝様とは直接契約してませんからねぇ。年上だからってマウント取らないで欲しいですねぇ」
「じゃぁ、金払えば主従関係になるわけ? 一応僕はだなぁ、年収手取りで30億ぐらいはあるからお前ぐらいは簡単に雇え――」
「あ、お断りします。まぁ、いいじゃないですかぁ。虻輝様とはちょっと気軽なポジションって感じがいいんですよぉ」
「なんじゃそりゃ。まぁ別にいいけどな」
もう気が付けばすっかり元通りの調子だった。
そのあとは島村さんの方を見ていないし、さっきボーっとしていたのは単に寝起きか、
それとも得意のガーデニングについて考えていたせいだったのかな?
「立ち話もなんだし。続きはご飯を食べながらにしましょう? 美甘さんもご一緒にいかがかしら?」
ガールズトーク勢も話がひと段落ついたみたいだった。
「そ、そんな私なんかが恐縮です……」
ちなみに美甘は運転の送り迎えはしてくれるが僕の家で雇われているわけじゃないからあまり一緒にご飯を食べる機会は少ない。
「いいのよ、一人ぐらい増えるのなんてわけないわ。烏丸君、手伝ってくれる?」
「勿論です。特に包丁で捌くことは任せてください」
烏丸はガーデニングマニアではあるが家事全般も得意であっという間にこなしてしまう。気が付けば僕の部屋も片付けられていることが多い。
しかし、必要な物まで捨てられてた時は流石に厄介だった……。それ以来、何を捨ててはいけないか徹底的に教え込んでいる。
「それじゃ、輝君とまどかちゃんは知美ちゃんの引越しの手伝いをしてちょうだい」
「わかった!」
まどかは元気よく答えたが、僕は島村さんの顔を恐る恐る見た……。案の定、島村さんの僕に向ける目は険しい。
「玲姉、具体的には何をすればいいんだ? 島村さんってほとんど物を持っていないんだけど?」
さっき小耳に挟んだ限りだと、あまり無駄な物を持たないタイプのようだ。
ま、まあ僕らへの復讐に向けて不必要な物があっても仕方なかったんだろうね……。
「そうね。ベッドや棚などの家具とかを注文してもらえないかしら。私やまどかちゃんじゃできないことだし」
ちなみに客間では家具は揃っているが、定住用の部屋となると簡易ベッドぐらいしか備え付けていなかったりする。
居住者の好みに合わせてカスタマイズするためのようだ。
「なるほど分かった」
「そ、そんな家具まで……普通のお部屋で構わないです。私、手持ちのお金を全然持っていないんです……」
「気にすることないのよ。全部輝君が払ってくれるから。何せ手取りで年収50億なんですってね?」
「そうそう! お兄ちゃんが全部悪いんだから気にしなくていいんだよ!」
玲姉とまどかの連携はいつもながら絶妙で僕を追い込むあらゆる手段を知っている。
昨日までは2人とも優しかった気がするのに、難局を乗り切ったからって、さっきからあまりにも扱いが酷い件について……。
「それじゃ、私は夕食を作ってくるから。できたら呼ぶわね~」
玲姉は優雅な動きで厨房に向かった。僕は島村さんと家具なんて選びたくはないが、反論の機会はない。
「あ、私にも手伝わせてください。」
美甘も玲姉のあとに続いた。
僕とまどかと島村さんはリビングで家具選びをする運びとなった。
「ところで、この家は見た目は近世の日本のお城、
内装は和洋混合のイメージがありますけど、至る所が修復されているような気がしますがどうしてなんでしょうか?」
島村さんがソファーに腰かけながら言った。いきなりそこに気が付いてしまったか……。
「あぁ、玲姉が粉砕したのを修復したんだよ」
昨日の朝、玲姉が破壊しかけた壁は見事に修復されているが、多少跡にはなっている。そういったところがこの家のいたるところにあるのだ。
「勘違いしないで欲しいのは、お姉ちゃんを怒らせているのはほとんどがお兄ちゃんの責任なんだからっ!」
玲姉のシンパ筆頭であるまどかが、弁護するようにそう付け加えた。
「オイオイ、お前も一役買ってるだろうがぁ!」
僕がまどかに飛びつこうとすると何かゾッとする視線を感じた。
「ヒィ!」
視線を感じた先を見ると玲姉が半身だけ覗かしていた。
「知美ちゃんの家具を選びましょうね?」
「はい……」
僕とまどかは争いを直ちに止めた。この家と僕の寿命がまた縮むからな……。
「じゃあ、この白い系の家具でいいな?」
僕はとにかく島村さんと関わり合いたくない。
この苦行を一瞬で終わらせたくて、サクサクと買い物かごに家具を移動させていった時にまどかが僕の視界に強引に入ってきた。
「ちょっと! そんな味気ないのじゃ可哀想じゃない!」
まどかが僕が入れた家具をドンドン買い物かごから削除していく……。
コスモニューロンの凄いところはこうして“公開モード“に設定しておくと15インチぐらいの画面で周りの人が見ることが出来るようになり、タッチすることによって誰でも操作できるようになる。大体所有者から3メートル以内ぐらいだと自在に操ることができる。
「いや、これは収納力バッチリで何でも入るぞ。これが一番効率がいいんだ」
「やっぱり女の子なんだからもうちょっとデザインにも拘らなくちゃ!」
そう言ってまどかは僕を跳ねのけて島村さんを中央に座らせた。
「これとかどうかな?」
乙女チックなピンク主体の家具でまどかがいかにも好きそうなデザインだった。
「うーん、ちょっと色が派手すぎかもしれません……こっちはどうでしょうか?」
「えー、それじゃさっきのお兄ちゃんのと大差ないよぉ~」
2人は楽しく選んでいるようだ。コスモニューロンは“公開モード”だと他のアプリ操作ができないか制限される。せいぜい重要な連絡の通知が来たのが分かるぐらいだ。
仕方ないから僕はリアルデバイスを取り出す。たまに片方が暇な時に2元プレイをする場合や世界大会本番のためにリアルのデバイスもやっておく必要があるからだ。
「じゃぁ、決めたら呼んでくれ。こっちはこっちで楽しむから」
どうせ僕の意見なんて微塵も取り入れられないことだろうし、島村さんも僕と会話なんてしたくないだろうから、こっちはこっちの好きにさせてもらおう。




