第74話 駆け引き
私とまどかちゃんと建山さんはEAIと決別した後に、近くにある虻利信奉連盟の施設に向かいました。
何やら不穏な雑居ビルでヘンな虫が生息していそうな感じがしてとても嫌です……。
現行犯でこの連盟の人間が逮捕されたことにより、他の人間の逮捕をする正当な理由が出来たようです。
「とりあえず、ここで待っておいてください。
中から人が出てきたらすかさず写真を撮ってください。この写真で収めた人物はIDなどのデータがすぐに分かるようになっています」
そう言って私たちに何の変哲もなさそうなカメラを渡しました。
どうやらコスモニューロンで自動的に録画できない私たちのための措置のようです。
「建山さんは1人で大丈夫なの?」
「大丈夫ですよまどかちゃん。私は強いので」
私と違ってまどかちゃんに対しては優しいんですね……。声色から何まで違いすぎます……。
「そ、そういえばお姉ちゃんと同じぐらい強いんだったね……」
建山さんは不気味な雰囲気はありますけど、細身の体はどちらかというとホワイトカラーの仕事をしていそうで、そこまで強そうには見えないんですよね……。
「何か大きな問題があったらこのボタンを押して私に連絡をください。
基本的には私が処理しきってしまうと思いますけど」
そう言ってまどかちゃんに赤いスイッチを渡すとさっと身を翻して足音も無くビルの中に溶け込んでいきました。
本当に得体のしれない感じが体の内側からゾワゾワさせてくるので嫌ですね……。
「まどかちゃん。建山さんについてどう思います?」
せっかくだから建山さんについてまどかちゃんと情報共有をしようと思いました。
「うーん、何考えてんのかよくわかんない感じだよね。
何を目的にしているのかも謎だし……」
「私は“あの人”に近づいて仲良くなろうとしているんじゃないかと思ったんですけど……」
「確かにお兄ちゃんに対する目線はただならぬものを感じるね……。
でもこれまで色々とお兄ちゃんに近づく女の人を見てきたけど、
なんだかそういった人たちとは違う感じはするんだよね。
もっと、別の何かがあるような……」
まどかちゃんは“あの人”で伝わってくれて助かります。
「憶測をしても仕方ないですけどね。ただ、よくわからに以上は警戒しておく必要がありますよね」
「お姉ちゃんがどうしてあの人を快く家に招き入れたのか謎過ぎるよ……」
「玲子さんのお考えは本当によく分からないのですが、
どうせ何か理由をつけて家に入ってきそうだったので、見た目上は仲良くしようと歩み寄ったのかなと思いましたね」
「駆け引き上手いもんねお姉ちゃん……。
建山さんは思考が読み取らせない対策をしているらしいけど、
それにしたって半ば手玉に取っている感じがあるんだから流石だよね」
「玲子さんは特攻局が相手でも随分強気ですよね。
やっぱり科学技術局への研究協力をしているからでしょうか?」
その実験は壮絶だった時もあったと聞いたのでそれも決して楽ではなかったようですけどね……。
「それもあると思うね。今の日本じゃ特攻局に匹敵する機関だからね……。
でもお姉ちゃんの意思が強いのが一番凄いと思うよ。
何が後ろ盾であろうとなかろうと強気で主張するかどうかはまた別問題だからね……」
「恐らくはバランス感覚がとても優れているんだと思います。
相手を見極めてどの範囲なら大丈夫なのか瞬時に判断されているのかと」
「確かに、訓練で戦っている相手が伊勢なのか村山さんなのか建山さんかで大きく変化させているよね……。手加減し過ぎたら負けちゃうだろうに」
「“世界の諸悪”の対になる中和するための存在として玲子さんがいらっしゃるのではないかと思ってしまいますね」
「力を持っているからと言って良い方に使ってくれるとは限らないからね……。
建山さんはどちらかというと自分の力を自分のために使って良そうな雰囲気があるよね……」
「それは何だか分かります。世の中を良くしようとしているわけじゃなく、
任務だからやっている感じが滲み出ていますからね。
何か私たちにはわからない“駆け引き”をしているのかもしれませんけど……」
そんな話をしていると銃声らしき音が『バババババッ!』と鳴り響きました。
私たちはビクリと身をすくめ、身構えたのですが、しばらくすると建山さんがスタスタと現れました。
建山さん自身は怪我をしていないようなのに、拳や足は血で染まっています。
恐らくは倒した相手方の血なのでしょう……。
ついさっきまで建山さんのことをあまりよくいっていなかったので、
その姿は尚更怖く見えます……。
「た、建山さん。いかがでしたか? 外には誰も出てこなかったのですが……」
「5人ほど潜んでいたから倒しておいたところです。
数時間は動けないように伸しておきましたが。
もうすぐ私の仲間が回収に来るはずです」
建山さんは表情を変えずにサラリと怖いことを言うとすぐさま2人ほどがこちらに走ってきました。
「部長……勝手に突入されては困りますよ。今や日本に欠かせない存在なんですから……」
「かといってあなたたちは私より強いんですか?
足手まといになるぐらいなら控えてもらった方が私は気楽です」
「た、確かにそうなのですが……お立場というものがありますから……」
部下らしき2人の男性は完全に委縮してしまいました。
先ほどの私たちの会話を裏付けるようなそんな建山さんの言葉にも思えます……。
「そんなことよりもサッサとビルの中で転がっている5人を連行してください。
2階に3人、4階と5階に1人ずつ倒れてますから。
後、証拠になりそうな資料も差し押さえてください。
人員が足りないようなら応援を呼んでください。
私は次のことについて考えておきますから」
「は、はい!」
テキパキと建山さんが支持すると、
特攻局の2人は旋風のようにビルの中に入っていきました。
私たちは協力者という事は伝わっていたのでしょうか? 特に言及されませんでしたね……。
「そ、それでこの施設はどうだったんでしょうか?」
「大したことは無い施設でしたね。ただの出先機関でした。
また明日から1つ1つ潰していきます。今日はもう夕方になるので、家に帰りませんか?」
「あの……家ってあたしたちの家じゃないよね?」
「え? そうですけど……」
「いつの間に建山さんの家になったんだよ……」
「昨日からです。虻輝さんに部屋を貸してもらうことの許可を得ましたので」
「お兄ちゃんは脅されたんだろうなぁ……」
「そんなことは無いですよ。快く受け入れてくださいました」
まどかちゃんはかなり素直に意見を述べていますが、
どこ吹く風という感じで建山さんは涼しげな表情で返答しています。
それどころか自分についた血をハンカチで拭き取り始め、何事もなかったような感じになっています。
この建山さんと同じ屋根の下で暮らすだなんて監視されているようで気分が悪いです……。




