第72話 身代金要求
何か建山さんの話を聞いていて腑に落ちないところがありつつも爆弾解除の作業に戻ることにした。
流石に自分でやらかした問題は自分で解決していかないとね……。
輝成の警察班とは別の範囲で行くことにした。
ところが、緊急信号で見たことのない連絡先からコスモニューロンに通知が来た。
少し怖さがあったが思い切ってとってみることにした。
「やぁ、虻輝。元気そうだな」
「そ、その声は綱利! 今回は複合的な作戦も無駄に終わったんだ!
もういい加減にこんなことをやめろ!」
突然連絡があって驚いたが映像に映っているのは間違いなく綱利だ。
場所を特定しようとしているがどうにも特殊なアクセス方式をとっているためか、
探知機能が一切使えない……。
「ハハハハ! 何を寝惚けたことを。多くある手札から一枚使っただけに過ぎない。
むしろ私は楽しみが増えて仕方がないよ。
強気なお前の顔が歪んでいく姿が……」
「僕には玲姉だけでなく特攻局もついているんだ。
今回分かっただろ? 建山さんはとんでもなく強力な味方だ。
玲姉にだって匹敵するほど強いぞ」
こんなことを言っても聞く奴では無いことは嫌というほど知っているが言わずにはいられなかった。
「お前は昔からやけに強い女を誑し(たらし)込んで味方につけることが得意だったよな。
お前のお母さんといい、玲子さんといいなんか知らないがゾッコンだからな。
もしかして子供の頃から“夜の接待”でもうまかったのか?」
「そ、そんな誑し込むとか“夜の接待”だなんて……特に何もしてないよ」
僕の周りにいる女の子はみんな魅力的であることは間違いないけど、
僕のことが好きとかそういうことでは絶対にないと思う……。
きっとただ単に相手をしていて楽しいからとかイジリ甲斐があるとかその程度の理由に違いない……。
玲姉なんて畏れ多すぎてロクに触ったことすらないよ……。
ちなみに僕の母上も尋常ではないほどの身体能力だったらしい。そんな印象は無かったけど……。
「まぁいい。仲間がいることは一見いいように見えるが、それだけ防衛しなくてはいけない相手が多いということだ。
確かに手強い相手も多いが、全員が全員強いというわけでもない。
せいぜい一人でも多く守れるよう努力するんだな」
「それってどういうことだ?」
「忘れているわけではあるまい? 内藤親子というカードをこっちは握っているんだ。
開放して欲しくば身代金10億円現金で支払ってもらおう」
「な、何! 現金で10億だと!?」
「お前なら簡単に払える金額だろ。ちゃんと数えるから1万でもケチるなよ?
受け渡し方法については明日連絡する。それまでにちゃんと揃えておけよ?」
綱利はそういうと連絡を切った。
「お、おい! 待て!」
むなしく僕の声が響く。全く無意味だが声に出していた。
何か分析をして捕まえられるヒントが無いかと思って為継にコメント共に今の会話情報を送った。それと同時に10億円揃える方法についても聞いてみた。
それにしても疲れた……。
でも一つ思ったんだが何か強大な力がバックについているにもかかわらず玲姉は「さん付け」で脅威なんだな……。
別の意味で恐ろしさを感じるよ……。
「虻輝様。大変でしたな……」
運転をしていた景親が声をかけてきた。
「現金10億なんてどうしたらいいんだ……口座の金額は全く問題ないんだが、
信用経済で成り立っているから銀行が万札を持っているわけじゃないんだよ。
100万円すら手続きで引き出すのが大変なんだ。10億なんて途方もない数字どうやって現物で手に入れればいいんだ……」
綱利だってお金に困っているわけではないだろう。
逆に彼の得意とする研究のためのお金にしては10億では全く足りないだろう。
つまり僕に対する嫌がらせにしか見えなかった。
こうして僕が頭を抱えているのを心の底から楽しみにしているんだ。
そうは言っても内藤親子の命が危ないことには変わりなく、何とかするしかない……。
ということを考えていたら為継から連絡があった。
「虻輝様、私です。綱利との連絡を解析しましたが、やはりうまいこと“守られている”感じが見受けられますな。
逆探知もセキュリティを解除すれば技術的にはできなくはないと思うのですが……」
「リスクがあるのなら無理にとは言わないよ。
それより10億円現金でどうやって揃えればいいんだ?
大体奴が金がそんなに必要だと思えないから嫌がらせとしか思えないんだが?」
「私もそう思います。綱利とて現金10億円を輸送しようとしたら手間ですし、
捕まるリスクが上がります。もとより受け取る気すらないのでしょう。
ここは、10億円を受け取らせ人質解放させることを要求する方向で行きましょう」
「そんな技術あったっけ?」
「世界的な大富豪御用達のシステムである“暗号通貨送金システム“を活用しましょう。
これは世間的には知られていませんが、一度暗号通貨に換えてからタックスヘイブン地に送金することで租税を回避しています。
今回はさらにそこから匿名口座支払いの小切手を10億円分発行して貰います」
「おぉ、小切手ならさすがに軽いな。
でも、軽すぎてどっかに落としちゃいそうで逆に怖いんだけど(笑)
肝心な時でドジ踏んじゃいそうで(笑)」
「そこは注意していただく他ないですな。
虻利家の方々もこの方法を使って税金などを回避されています。
まったく活用されていないのは虻輝様ぐらいかと……」
「あ、そうなの。口座のお金なんて全く興味ないから知らなかった(笑)。
よく考えてみればご隠居とかどうやって錬金術しているのか知らなかったけどそういうからくりがあったのか……」
「虻頼様に関しては、世界中の通貨発行権を握っておられますからな。
各国が国債を発行すると同時に一部のお金が還流されますので、
自然にお金が増えていかれます。
ちょっと他の方とは次元が違いますな……」
「そりゃやってる世界からして違うな(笑)。
それで肝心なこととしてその方式で綱利は納得するのか?」
「綱利側とすればリスクがゼロで10億受け取れるわけです。
そもそも欲しいとは思えない中、貰えるのですから要求には応えています。
私が虻輝様の代理で手続きを行っておきますのでご心配いりません」
ちなみに、僕の法的手続きに関して為継に全面委任しているから代理的行為もポンポンできる。口座も全て運用を握られている。
為継が悪人なら僕は気が付けが多重債務者になってある日破産していることもあるわけだが、僕が手続きをしても全くやり方がわからないわけで(笑)。
「どのみち1日で10億を万札で揃えるなんて不可能だからしかたないよな……。
ちょっと日数があるなら日銀に頼んで超法規的措置で発行してもらおうと思ったんだけど……」
「そういう発想がすぐに浮かばれるだけ、虻輝様も“虻利家の一員”だと思われますけどな……」
「えぇ~嫌だなぁその評価……。でもこの作戦何とかなると思うしかないよね」
僕も気が付かないうちに“染まっていた”のか……。
「そうですな。なるようにしかならないと思います。
ただ、綱利が動けば動くほどボロが出る可能性も上がるのでここは耐えて“時”が来た時に一気に攻勢に出る方がよいでしょう。ここは耐えるべきかと」
「分かっている。お互いに綱利との関係は清算していかないといけないから長期戦覚悟だよ」
身内との関係が一番清算するのが難しいからな……。
「ええ。お互いにこれを機に“過去の清算”を完了させましょう。
せっかくですから虻輝様の今年の収入もなるべく税金がかからないようにしておきましょう。お金はあるに越したことはありません。
虻輝様ご自身は使われなくとも、このように身代金を要求されることがありますしな」
「あ、ああ。よろしく……」
僕の資産は完全に為継に管理されていく――一抹の不安はあるのだが、結局現状でも財産を使いこなせていないんだから任せておいていいか(笑)。




