第71話 拍子抜けの解決
僕たちはまどかと島村さんがいるビルのエレベーターホールの前で足踏みしている。
エレベーターを待つがやけに遅い。と言うか動いていないのか!? 6階から動いていないんだが……!
「虻輝様。そんなポンコツ待っていられませんぜ! 階段で行きましょう!」
「そ、そうだな」
懇親会が行われている8階まで行かなくてはいけないだなんて……と思ったがそんなことを言っていられる場合ではない。
完全に息が上がっている……太腿があっという間にパンパンになってようやく8階までたどり着いた。
――と思ったときにいきなり連絡が入った。
「虻輝さん。建山です。何とか最小限に防げました。島村さんもまどかさんも無事です」
景親には突入はダメだとサインを送った。
「え……? 煙が上がったと思ったら、まさかの解決!?
さっきまで何度も連絡したのに返信が無いと思ったら一体どこにいらっしゃったんですか?」
「実を言いますと日本宗教連合の一人に成りすまして潜伏していました。
変装は結構得意ですので全くバレませんでした。
ご報告が遅れたことは、勝手にコスモニューロンを使えない状況だったので大変失礼いたしました」
「そ、そうだったんですか……連絡が無いからもう僕の約束のことなんて忘れちゃったのかと思っていましたよ」
「そんな、忘れませんよ。潜伏する際に、外部との連絡をさせないためにコスモニューロンを切らないといけないようだったのです。そのために連絡が遅れて申し訳ありません」
「この事件も綱利がやはり主犯だったんですか?」
「いえ、虻利信奉連盟でした。私の予想では赤井の手駒の一つだったと思っていますけどね。
ただ小賢しいことに銃やら爆弾やらを持っていましたね」
あぁ、あの頭の半ばおかしい連中か……。虻利家も適当に野放しにしているが、正直言って“気持ち悪い”と言わざるを得ない信者と言える。
綱利も虻利家の本家では無いとはいえ一員だからあの集団を扱いやすかったんだろうな。
「でも、まどかと島村さんを助けてくれてありがとう。
2人とも銃を突き付けられたら危ないところだったからね」
「……任務ですから」
不本意ですけど、と後に続きそうだった。
どうしてそんなに島村さんのことが気に入らないのかは不明だけど……。
でもそんなにも嫌悪しているのに助けてくれたのは本当に良かった。
「僕たち今、8階の宴会場前まで来たんだけど、入らない方が良いのかな?」
「ええ、虻輝様たちが来られては刺激が強すぎるでしょう」
「分かった」
僕は景親にも簡単に指示し飛行自動車に戻ることにした。……また階段で(泣)。
「ところで大変な話があるんだけど内藤親子が恐らくは綱利に拉致されたみたいなんだ。
あ、建山さんには説明していなかったけど内藤親子は今回の潜伏捜査に大きく関わった大事な知り合いなんだよ。
息子の大樹に至っては僕が仕事を紹介してあげようとしているぐらいなんだから」
「え……それは大事ですね。どのような方たちかデータを送っていただけますか?」
僕は大樹の映像、大樹のお父さんの写真を建山さんに送った。
「なるほどこういう方たちですか……分かりました」
「正直なところひょんとしたことから僕の捜査で大樹と、まどかと島村さんがお父さんと知り合ったんだ。
何か縁のある親子だから救ってあげたいんだよ。
ただ、為継が衛星管理システムで調べてみても全く捜索が出来ないらしいんだ。
地下など電波や赤外線が届きにくい場所に隔離されている可能性があるみたいなんだよね。
これも綱利がやった可能性が高いんだ」
「それは思ったよりも大変な状況かもしれません。分かりました。何とかしてみましょう。
こっちはちなみに島村さんとまどかさんについては正体は明かしておきました。
私の正体は明白なので、ついでに話しておきました」
「それじゃぁ、2人の潜伏作戦は終わりってこと?」
「ええ、虻利信奉連盟本部を潰す活動にご協力してもらうかもしれませんけど」
虻利信奉連盟はそんなに規模は大きくない。極端な思想のために注目されがちではあるが、せいぜい100人ぐらいだったはずだ。
そんなしょうもない組織でしかもある意味虻利家にとって使える組織をわざわざ特攻局最高幹部の建山さんが直接摘発する理由があるのだろうか……?
「綱利については逮捕する方向なの?」
「今のところ内藤親子の拉致監禁容疑で捜査を進めています。
他の容疑に関しても重要参考人としてピックアップしているにすぎませんから」
「そこは警察と犯意は被らないの?」
「赤井さんはランクが高い方ですので、普通の捜査線上には載りません。
マスコミの報道にも流れることは無いですね。
そもそも私たちの存在そのものが皆さんに認知はされていますが、公的には公表されていませんからね」
美人だし、人間味がある人だから脳が麻痺していしまいがちだが、本当にとんでもない人と関わっているんだと思わされた発言だった……。
「そうなると場合によっては逮捕されないこともあるんですか?」
「……そもそも私たちは公的には存在していない機関です。
私たちは逮捕という形をとっていませんので。
審判を行い科学技術局にお送りするだけですからね」
そして大王の実験台になるのだから怖すぎる……。そしてそういった組織だと平然と国民から認知されているのも根が深いなと思えた……。
「な、なるほど……そうなると、綱利は仮に罪が決まった場合としても分からないと?」
「赤井さんは虻利家内部では地位があるとはいえ、
そこまで世間的には有名ではないですしね。闇から闇に処理されてもおかしくは無いと思います」
「じゃぁ、僕が仮にやらかして特攻局捕まった場合はどうなるわけ?」
「……虻輝さんは流石に有名な方ですからね。
恐らくはマスコミが報道することになりますが、捕まった本来の理由とは違った形となると思います」
まるで天気のことを話しているかのようにサラリと恐ろしいことを言ってくれる……。
「そ、そうなんだ……」
「でも安心してください。もしも危ないことになりそうなら教えてあげますから。
事前に対策できると思いますよ。
大抵のことはお目こぼしがあると思いますけど流石に虻利家を完全否定したり“委員会”について触れたら危険でしょうね」
「綱利がその委員会に関わっている可能性を疑っているけどどうなのさ?」
「……可能性はあるでしょうね。ですからもしも危なくなったのなら引き返してくださいね。虻輝さんを失ったなら皆さん悲しみますからね」
それが最大の警告と受け取った。警告があるだけまだ一般の人よりマシなのかもしれないが……。
「アドバイスありがとうございます。ヘタに動かないようにします。
まぁ、僕が動いたところで何ができるわけでもないんですけどね(笑)」
「いえ、虻輝さんなら何かを変えることが出来るかもしれませんよ。
それが何かは分かりませんけど」
意味深すぎる言葉を最後に建山さんと連絡を終えた。
相変わらず何か掴みどころがない人だなと思った。




