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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第4章 反成果主義

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第69話 変装捜査

 虻輝たちが爆弾を解除している時間に少し戻すと、知美とまどかは日本宗教連合のメンバーが来る前から加藤と一緒に来て歓迎の準備をしていた。


「初めてのところはちょっと緊張しますね……」


「日本だと“宗教”って付くだけでなんか“危ない組織”って感じがしちゃうよね……

 勧誘とかされそうじゃない?」


 まどかちゃんも今回はちょっと緊張しているようでした。

私は玲子さんについて“信奉”していると言ってもいいですけどね……。


「2人共、そんなに肩肘を張る必要は無いよ。

 かつてのお金を搾取するような勧誘をすれば一気に破滅するからね。

 虻利家がそう言う制度にしたから

 代わりに宗教全般が一気に衰退してしまったけどね」


「宗教が無ければ心の拠り所や死生観については難しくならないんですか?」


 と言いつつ復讐を“中途半端”な状況になってしまい、かといって何をしたいかもわからないんで、私も何を目的に生きているのかもはやよくわからなくなってますけど……。

 玲子さんについては目指していますけどあまりにも遠い存在に思えますし……。


「それはあるかもしれないね。

 ただ、純粋な心を持つ方から搾取を続けていたのも事実だから塩梅が難しいところではあるよね。

 それに死後の世界も天国なのか極楽浄土なのか地獄のようなところなのか、どのようなことになっているか誰も確信が持てないわけだ。

 そうなると、ある程度は“詐欺まがい”なことになってしまっても仕方ないと思うんだよね」


「なるほど……。でも、宗教には倫理的要素もあると思うんです。

 宗教が衰退している中での倫理の補完はやっぱり“スコア”で管理しているということなんでしょうか」


「残念だけどそうなるね。コスモニューロンが無い人に対してもマイナンバーはついているからスコアはそれぞれ所持している。

 更に告発制度などでお互い監視し合うことや、

 スコア最下層に落ちた人々の姿を見せることで倫理的違反をしにくくなっているんだ」


「私たちは知らない間に本当に凄い世界で暮らしているんですね……」


「皆、慣れちゃったから、そんなに違和感を感じることなく生きているのかもしれない。

 だから、社会からちょっと外れた人が疑問を持っているということなんだ。

 そう言った人も淘汰されて数が減りつつあるみたいだけど……。

 まだこういうまともな価値観の人間が一定数いるうちに変えていくしかないんだよ」


「そうですね……。でも問題意識が無い方々には伝わりにくいのが課題ですよね。

 地道にやっていくしかないですよね」


 そんな会話をしているうちに私たちが接待をする宴会場の準備は進んでいきます。

 加藤さんは私にストーカーのようにしてついていたので全体管理社会についての話をしていたのでした。


 中華式の丸型の回転テーブルが何個も並んでおり、招待された方たちのネームプレートを並べ、料理を運ぶ手伝いをすることでした。

 特に料理を運ぶ手伝いはこぼしたり、足を引っ張らないようにすることに注意を払わなくてはいけなくて大変でした。


 やがて、仏教の高僧の方やキリスト教の司祭の方、イスラム教の位の高い方も続々と入ってこられました。

 私たちは笑顔――のつもりの表情で挨拶をしていきました。


 そして、私たちのメインの仕事である日本宗教連合の方々に対してお酒を注ぐ作業に入りました。


 まどかちゃんは硬い表情で一人一人注いでいます。

 何とか最低限の役割を果たせているようです……。


 実を言うとさっきまで“お注ぎする練習”をしていたんですよね。

 まどかちゃんはやったことが無かったようで、力加減に苦戦していました。

 “笑顔”の練習もしていたんですけど注ぐのに必死みたいです……。


 私は薄ら笑いを浮かべながらちゃんと注げている……はずです。


 私たちが必死に注いでいると、やがて加藤さんの挨拶が始まりました。


「日本宗教連合の皆さん本日はお集まりいただきありがとうございます。

 ご歓談のところ申し訳ありませんが、本日の集まりの意図について改めてEAIの幹事を務めている 私、加藤からお伝えさせて頂きます。

 私たちEAIと日本宗教連合はこれまでも度々行動を共にしてきましたが、

 昨今虻利家からの圧力が強まり活動がお互いに制限されてきているのが実情であります。

 

 私どもはコスモニューロンの導入の規制を、日本宗教連合は宗教の自由の保障をそれぞれ訴えてきているわけであります。

 

 しかしながら結果が出ていないのが残念な実情となっています。

 むしろ、日々目標から遠ざかっているのが現実であり、今後は個別に活動していくのすら難しくなっていくのではないかと考えております」


 何回も聞かせられて、つい先日は動画撮影でも言ったような内容なので私は流すように聞きながらお酒を次々と注いでいきます。


「政府に対する陳情という意味では同様であり、今後は相互にこうして連携を強め、

 利害が一致するところに関しては今後も協力を強めていきたいのでこうしてお集まりいただきました。

 特に強調していきたい点としましては価値観の強制からの脱却であります!

 コスモニューロンを入れたくない人は入れなくていい社会、

 宗教を信仰したい方は宗教を信仰してもいい社会を構築していくべきであり、

 強制することはあってはなりません」


 まどかちゃんを見てみると少し慣れてきたのかいつもの笑顔がちょっと戻ってきました。

 1回ちょっとこぼして謝っていましたけど、逆にそこから肩の力が抜けたような印象です。


「政府は表面上は自由を謳っていますが、制度的にかなり不利であることも多く、“事実上の強制”というのが蔓延っている次第であります。

 現状を受け容れたままでは、更なる締め付けが増していき、さらに活動がしにくくなってしまいます。

 今後は相互に連携を深め、より大きく太い束となって社会と戦っていきたいと思っています。

 皆さん頑張っていきましょう!」


 加藤さんがようやく話し終わる頃には注ぎ終わってひと段落して休んでいたので拍手に参加しました。

 拍手が鳴りやむタイミングでパーン! っと爆発が起きました。

 一瞬何かの演出なのかな? と誰もが思ったのですが、ただの煙ではなく2回目の爆音の時には机や椅子が吹き飛びました!


「な、何が起きている!」


 皆さんがパニックになっている中、宴会場の入り口から覆面の男たちが何人も侵入してきます。


「手を挙げろ! 俺たちは虻利信奉連盟の者だ! お前たちは虻利家の敵だ!

 もはやこの地球上から必要ないのだ!」


 この「虻利信奉連盟」という組織はちょっと異常で、特攻局という取締エリート組織に入れなかったことを僻み、勝手に自分たちが正義だと思い込んでいる人たちです。

 そもそも虻利家そのものが異常な一族だと思いますけどね……。


 私も玲子さんに信奉していると言いましたけど、信ずべき相手が違うだけで全くその質が違うと思うんですよね……。


 ただ、虻利家もこの組織の扱いについてちょっと困っているようで

 賞賛してくれているのをプラスに思いつつも、貶める活動については禁止しているようです。


「信奉連盟だな? 私は特攻局関東統括本部長の建山朱美と言うものだ。

 爆発物取締罰則違反の現行犯で逮捕する!」


「え!? た、建山さん!?」


 バッとゴムマスクを棄てると、昨日玲子さんと模擬戦をしていた建山さんが出てきました……。

 どこかから護衛をしているという話でしたがまさかこの中に紛れていたとは思いませんでした……。


「相手は女一人だ! 怯むな!」


 男共が飛び掛かりますが、建山さんは初撃は交わしたものの、

 その後は取っては投げ取っては投げと効率のいい動きを繰り返し、頭を強打させて気絶させていきます。

 10人いたのに一瞬で9人を倒しました……。


「チ、チクショウ! クラエ!」


 10人目の男が銃口を建山さんに向け何発か放ちますが、バク転して交わしながら蹴りを入れて華麗に着地しました。男は言葉なく倒れました。


 玲子さんは1撃で倒しているイメージがありますが、

 建山さんはスピードと動きの効率の良さを重視しているように見えます。


 どちらも雲の上の動きをしているので参考にすらならないんですけど……。


「す、凄い……」


 明らかにあの人に近づくのが目的の下心丸見えで虻利家にやってきたときはちょっと呆れましたけど、

 玲子さんと五分に戦えるだけの力があるんですから実力は本物ですよね……。


「建山さんありがとうございます。

 ま、まさか特攻局の方が入れ替わっているとは思いませんでした……」


「立てますか?」


 建山さんが手を伸ばしてきました。

 そこではじめて腰を抜かして私がしりもちをついているのに気が付きました……。


 ちょっと戸惑いましたが折角の好意を無碍にすることはできないと思いその手を取りましたが――。


「イタタタ!」


 建山さんが思いっきり力を入れて引っ張ってきたので手が凄く痛いです……。


「あら済みません。つい力を入れ過ぎてしまいました」


 ニヤリと不気味に笑う建山さん。これはわざと力を入れ過ぎたに違いありません。

 やっぱり建山さんは苦手です。

 右手が腫れているみたいに真っ赤に……建山さんは柔らかい手なのにこんなに力が出せるだなんて羨ましいです。私なんて手がゴツゴツしてるのにこんなに脆いんですから……。


「建山さんやっぱり凄いね~。でも、あたしたちとの溝は埋める気は無いのかな~?」


 まどかちゃんが呑気そうな口調ながらも私が言いたいことを思いっきり言ってくれました。


「私はあくまでも特攻局の一員です。馴れ合いをするつもりはありません。

 特にお二人は玲子さんのお仲間じゃないですか。

 私は玲子さんを宿命のライバルだと思っているんで、

 そのお仲間とも仲良くなんてできません」


 冷たくピシッと言い放ちました。分かってはいましたけど決定的な壁がありました。

 ただまどかちゃんはちょっとショックだったのかシュンとしてしまいました。


 この人が本当に何をしたいのかよく分かりません。

 “あの人”に近づいて肉体関係になることがやはり目的なのでしょうか? 

 でも、単純にそれだけが目的とも思えない得体の知れなさがあるんですよね……。


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