第67話 マッチポンプ
大王との会話をしながら、AIで計算された「全員が待ち時間が少なくなる最適な場所」に徒歩で10分ほどかけて向かうと、
直ちに景親と輝成が飛行自動車でやってきた。
このツールは本当に便利である。このアプリのシステム障害が出たときは逆に交通インフラが大パニックになったほどに全世界が依存している。
車に乗り込むと輝成と景親も非常に暗い顔をしている。
「しかし、とんでもないことになったな……。
まさか僕たちが頑張って早起きしてやったことは爆弾の設置だったとは」
「本当にしてやられました。私も良い事をしているつもりだったのですが……」
輝成は正義漢の塊のような男だから特に悔しそうに唇をかんでいた。
僕の乏しいボキャブラリーから何とか励ましてやりたかった。
「まぁ、誰も分からなかったんだし仕方ないよ。
それだけ上手く綱利にしてやられたということだ。
ただ大王に連絡したら被害が出ても僕たちが犯罪者にならないように便宜を図ってくれるみたいだ」
「そうですか……大王局長がそうおっしゃるのでしたら安心ですね」
とは言え、テロリスト同然の行為をした事実が僕たちから無くなるわけではない。
2人はとても真面目な奴だし、実際にそれを聞いても嬉しく無さそうだった。
僕のように手が汚れ切った人間では無いんだから気の毒だった。
「それより、これからどうするかが大事だよ。
過去は変えることが出来ないんだからそこに沈む必要はない。
過去を糧に今と未来を見ていかないと」
自分を鼓舞する意味でも敢えて力強く言った。そうでもしないととてもやっていけない。
とにかく、誤爆などが起きて犠牲者が出ないことを祈るばかりだった。
「こんなに素晴らしい虻輝様を陥れようだなんて赤井とかいう奴はキチガイじゃねぇですかい?」
「いやぁ、僕も知らず知らずのうちにナチュラルに人を不快にさせていると思うんでね。
僕を理解してくれる人の方がむしろ“変わっている”か包容力があるんだと思うよ」
玲姉からなんて“最初に会った日からヘンな子”とまで言われる始末だからな……。
「いや、俺は虻輝様こそ世界を救えると思いますぜ。
今すぐに結果はでなくても周辺からでも確実に変わっていますから」
「そ、そう……あまり期待をかけられても正直困るけどね」
景親はなぜかこの点になると全く譲る気配がない。
毎回言われるたびにこそばゆくなってしまう。
ただ実際のところ僕には何の力もなく、解決してくれるとしたら玲姉だろう……。
玲姉だってご隠居に勝てるとは限らないし、仮に勝っても五体満足でいられるとは思えない。それだけ圧倒的で異常な強さなのだ。
「楽しい会話の最中に申し訳ないのですが、
目的地に着く前に虻輝様にロボットの止め方を説明しておきましょう。
為継から預かったのはこれです」
そう言って輝成が僕に渡したのは何か棒状のものだった。重さも500グラムぐらいだ。
遠目で見たら運動会のリレーで使うバトンのように見えるだろう。
それぐらい、何の変哲もないものに見えた。
「これは?」
「為継の話によるとコスモニューロン以外の電磁波を発している機器を停止することができるようです。
ロボットなどが異常行動を起こした際に緊急停止するためにあるそうですね」
「ほぉ……大王はなぜかロボットに自爆スイッチを付けているけどこういうお手軽なものもあるんだ」
「あれは大王局長の趣味らしいと為継も言っていました……」
趣味で周りに脅威を与えるってどうなのかと思うけど、天才的発想だからな……。
もしかすると自身の研究を他者に渡さないとかそういう精神なのかもしれない……。
「この棒をどうしたらいいの?」
「どうやら、ロボットの頭に当てると機能停止するようです。
我々は機能停止するだけで良いようで、すぐさま運営会社側が回収に行くようです
我々警察の爆弾処理班も同行し、地下での爆破処理を行う模様です
私も思わぬところで本部と連携することになりました」
確かによく見るとボタンがあった。それを押すと「クウィン! クウィン!」と言った音が出てきた。音は大きくないが不快な感じがしたのですぐに切った。
「なるほど、確かにロボットもこの不快指数が高まる音で止められそうだな。
まぁ、僕たちが爆弾を設置して野に解き放ち、僕たちが止めに行く“マッチポンプ状態”なわけなんだがね」
「まぁ、これを無事に回収しても“英雄“として宣伝するわけでは無いので……。
酷い方々は“英雄”として自己宣伝するようですから」
知っている。それは虻利家のことだ。
ご隠居は政治家を使って経済を貶めた後、虻利家の私財を使って経済を立て直して日本国内での信頼を勝ち取った。
そして、戦争にも勝ち、あっという間に日本のトップどころか世界の覇者として君臨したのだ。
「ロボットの位置関係につきましては管理センターより現在位置を教えてくれるアプリを特別に貸して下さりました。
基本的には汎用ロボットは警備も兼ねているので外部には公表されないのですがね。
特に我々が爆弾を設置してしまったロボットについては青色になっています。
機能が停止したロボットは黄色になるそうです」
輝成はそう言って僕にアプリを送ってくれた。なるほど、赤色のロボットのマーカーと青色のロボットのマーカーと2種類ついている。
「あ、そろそろ着きますぜ。この近辺に取りつけちまったロボットが5台いるようだ」
「よし、行こう」
僕たちは棒をもって飛行自動車から飛び降りた。
いきなり僕の目の間にターゲットのロボットがいた。
棒のスイッチを入れて「クウィン! クウィン!」と不快な音がまた鳴り出す。
ロボットはピピピピ! と警報音が鳴って少し暴れたか? と思うとそのロボットは急に完全に動かなくなる。その「カメラの眼」は“どうしてこんなことをするの?” と語りかけているような気すらした。
「す、済まない……」
僕は思わず手を合わせていた。
「何ロボットに謝ってんすか。虻輝様ホント変わってますなぁ」
景親、お前にだけは言われたくないんだが……。
「いや、何となくさっきまで元気に動いているのを止めるのは気が引けるし、
それに、語りかけているような気がして……」
「ロボットが語りかけてくるだなんて、そんなわけあるわけないじゃないですか。
とっとと、片づけていきましょうぜ」
「そうだな」
しかし、何かしら罪悪感みたいなものがあったのは間違いなかった。
このロボット達だって僕たちが爆弾を設置しなければ急停止して爆発処理されることは無かったわけだ。
例え無機物だとしても、そこのところはやりきれなかった。
場所は明らかだったし、抵抗も無かったので敢え無くこの周辺の5体はすぐに機能停止になった。
そして次の目標地点に向かう。
「あのまま放置しちゃって大丈夫なのか?」
「ええ、私の同僚が回収に行くでしょう。基本的にこの周辺の一般人にも通たちがされており、機能が停止したロボットに対しては近づかないです。
データによりますと次は近いです。ここに4体いるようです。行きましょう」
このような感じで、約1時間で30体機能停止をすることに成功した。
その間に、警察が巡回地域を先回りして住民に対して避難警報を出して避難させていた。
これでもう民間人の犠牲者は出ないだろう。




