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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第4章 反成果主義

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第66話 無味乾燥なマシュマロ

 まどかと島村さんを監視するための双眼鏡を片手に先ほどからゲームとのマルチタスクをしている。


 なぜコスモニューロンではなく双眼鏡を使っているのか?


 というのも、コスモニューロンにおいても「視力拡張」という機能がかつてあった。

 だが、“悪用“されてしまい、女性の下着や裸体まで見えるよう機能を独自に追加されてしまった。

 その機能を制限しても新しい“変態機能”が増えていったので「視覚拡張」の機能そのものが無くなったのだ。


 このようにゲームのデバイスが物理的に回帰したように不正や犯罪を防ぐために最近ではあらゆるものがアナログ回帰されつつある。それだけ技術の自動的な改良がおこなわれてしまうために対策が難しいと言える。

 何とも皮肉な話だった。


 ただこの双眼鏡も為継が“手を加えて”壁程度ならばすり抜けて見ることは可能なのでかなり“グレーゾーン”の存在な気がするが……。


 だが、今のところ何の問題もなさそうだ。

 半分の神経しか注げていないが、今日は強敵と当たるケースが少ないこともあってかゲームも順調に勝ち続けている。


 まどかと島村さんは先ほどからお酒を偉い人達にそそぐことをずっと続けていた。

 まどかは笑顔がぎこちないことが少し気になるが役割を果たしていそうだった。


 このまま今日こそ何も起きなければいい……。


「虻輝様ちょっとよろしいですか?」


そんなことを考えているうちに為継の連絡を受けた。ちょうど97連勝目を達成したところだった。


「あ、為継どうした?」


 為継の方から連絡してくるとは珍しい。他の奴ならあと3連勝分待ってもらうところだが、いつも僕の方からばかり連絡をしてきている何かあるのかもしれない。


 手元にあった袋からマシュマロを頬張る。中に入っているチョコが口の中に広がり、甘みがさらに増す。

 糖質は体に悪いと言われてはいるが僕の体と脳の癒しにはとても有効だ。甘いものがこの地上から消滅するまでやめられないね(笑)。

 

「少し厄介なことが分かったので虻輝様にお伝えしようと思いました」


「ふぅん、どれぐらい厄介なの?」


「それがですな……」


 いつもサクサクッとアドバイスをくれる為継が珍しく言いよどんだ。

 嫌な予感がした。腕を見ると鳥肌が立っている。


「まぁ、大抵の事じゃ驚かないからさ。最近とんでもない事ばかりに遭遇しているからね(笑)」


 本当なら先は聞きたくなかったが敢えて明るく聞き出そうとした。

 どうせ、後で聞いても内容は変わらない。むしろ時間が経過することで状況が悪化することだってあり得る。


「では申し上げます。私が虻輝様たちにお勧めした巡回ロボットに着けた装置なのですが――実は爆弾でした」


「は?」

 

 あまりにも唐突な話だったのでマシュマロが入った袋を落としかけた。ハッと気づいて何とかマシュマロが地面に零れるのは阻止したものの脳が為継の言った言葉を処理できなかった。


「私が局長から渡された際には問題なかったのですが、虻輝様の手に渡る際にすり替えられてしまったそうです。

 虻輝様たちが取り付けられた装置はモザイク機能を除去する力どころではなかったのです」


 体が震え始めたことが分かった。なんという恐ろしいことをしてしまったのだ……。


「つまり、僕たちはテロリストか何かになったってわけ?」


「テロリストかどうかは分かりませんがロボットに爆弾を設置して野に放ったということです」


「それをテロリストというのではなかろうか。どうしてこんなことに……」


「恐らくは綱利本人かその一味が気が付かないうちに入れ替えたのでしょうな。

 気が付かないうちに裏をかかれたのです。

 とにかく一刻も早く早急に回収していかなくてはいけないのですが、

 衛星管理システムを見ていると厄介なことに予定の巡回路を周っていないようなのです。

 恐らくは進路すらも改竄してしまったみたいです」


 銃を突き付けられた時の綱利の不気味な笑みが蘇った。

これが綱利が僕をあの場面で殺さなかった理由か。敢えて景親に“防がせた”のだ。

 僕を殺人者にすることで自責の念を再燃させ精神的自滅を図ろうとしているのだろう。


「まどかと島村さんを見張っている場合ではないということか……」


「一応私の方であの2人に異常がないかどうか衛星管理システムで見ておきます。

とにかく今は、アナログ的な作業が必要なのです」


「分かった。為継は僕の近くにある巡回ロボットを教えてくれ。

あと、ロボットの止め方もな」


「ええ、勿論です。まずは景親と合流しましょう。既に機器は用意して渡してあります」


 連絡が終わった後、僕は綱利の策略とはいえとんでもないことをしてしまったと思った……。とにかく、一般人に被害が出ないようにしなくては……。


 まさかの事態過ぎて実感すら湧かなかった。これがゲームの世界だったならどんなに気楽だろうか……。

 マシュマロを頬張ってゲームをしながら呑気にまどかと島村さんを監視をしていた瞬間がたちまち懐かしいと思えるほどだ。

 

 今マシュマロを一つ口の中に入れたが、全く甘く感じなかった……。



「大王。どうした?」


 急いで景親と合流しようと移動していると今度は大王から連絡があった。


「これは虻輝様……今回のことは私のミスです。申し訳ありません」


「いったい何が起きたんだ?」


 為継から大体の情報は聞いたが大王の口からも聞きたかった。


「どうやら、何者かによって装置を入れ替えられたということです。

 それは“コードを使ってモザイクをかけられた人物”である可能性が非常に高そうです」


「僕はこの一件は綱利が起こしたことだと思っている。

 大王は綱利について何か知っていることは無いか? 

 昨日僕は綱利に“挑戦状”を叩きつけられたわけなんだが……」


「……私の立場上確かなことは言えません。

 ただ、コードを使って彼の今の地位や立場などの情報を隠していたということは分かりました」


 大王の言い方はまどろっこしいが、綱利がコードの人物であることは間違いない。


「そんな言い方をしなくてはいけないほど、隠したいのか……」


「正確に言うのであれば技術的な問題は私にはありません。

 造作もなく隠した側の身元までたどり着けるでしょう。

 ただ、そうなった場合に私の身がどうなるかがわからないということです」

 

「いや、無理はさせられないよ。ここまで協力してくれているだけで本当に感謝したいんだから」


 それだけセンシティブな問題だということなのだろう。

 大王も完全な味方とは言えないのかもしれないが、少なくとも悪意は感じられない。

 だが、彼らの人類最高峰の「権益」を侵害しあうことは“戦争”に発展してしまうのだろう。

 僕のことぐらいで危険な導火線に火をつけたくはなかった。


「ところで今回のことで僕たちは“テロリスト”と認定されるのだろうか?

 今のままだと“爆弾をこの世界に解き放った奴“になってしまっているわけだが」


 一番気聞きたいことだった。


「それについてはお気になさらずに。大体この私が用意した製品が入れ替わったのですから、私にも責任が及びます。

 例え、この一件で死傷者が出たとしても全力で科学技術局が揉み消させていただきます」


「そ、それは頼りになるなぁ……」


 頼りにはなるけど揉み消すってところがね……。


「とはいえ、“実験体候補“の数が減ることは私にとっても良い事ではありません。

 揉み消すにしても多少の手間はかかりますからな。

 なるべく死者が少ない方法について考えさせていただきます」


「た、頼むよ……」


 理由があまりにも酷過ぎるが方向性が一緒であることは喜んで良い事だろう。良い事だよね?


「私は色々やることがあるので直接お手伝いできませんが、小早川を自由に使ってやってください。

 すでに対策の製品を小早川経由で北条に渡してあります」


「いやぁ、ありがとう。

それにしても、為継が優秀なのは毎日痛感しているよ(笑)。

 僕がほとんど独占しているんじゃないの?」


「いえ、彼は十分研究もしてくれてますよ。

 非常に効率的に色々仕事をこなしているのでしょうな。

 では研究があるので失礼します」


「お疲れ。色々ありがとう」


 マジかよ……。相当こき使っているような気がしたんだけどあれでも為継は余裕があるとか……。

 もしかしたら仕事か僕への対応のどちらかが「システム」でやっているのかもしれないな。

 自動で行うプログラミングをするにしても為継は抜きんでてるからな。

 気が付けば僕は為継の構築したAIと会話をしているだけなのかもしれない……。


 また、大王が為継を自由に僕が使わせているのは何か裏があるのではないか? と思わなくもないが――しかし、僕個人では今の状況をどうすることもできないので裏があろうとなかろうとこのやり方で行くしかなかった。

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