第65話 嫌悪する同士
為継との話し合いが終わると即座に建山さんにも連絡した。
「為継とも話し合ったんだけど、島村さんとまどかを一緒に観察することになった。
どこに行くのかは追って話そうと思うけど」
居なくなってしまったかのような沈黙が訪れる。顔のアイコンも停止しており、アクセスが切れてしまったのか接続障害になったのかとも思った。
中々そんな異常状態にはならないが、僕の周りに最近異常なことが起こりすぎているからな……。
「す、すみません。まさかの提案だったので。ちょっと驚いてしまいました」
1分以上停止していたがようやく動きがあった。どうやら接続障害ではなく本当に建山さんが凍り付いていたようだった。
「え? そんな驚くような提案だった?」
「私、ちょっと島村さんのことが苦手なんですよね。
虻輝さんも避けられているようですし、嫌な感じしませんか?」
「うーん、僕が島村さんから避けられているのは虻利家が島村さんの一家を壊しちゃったことが原因なんだよね。仇敵の息子ってことでね」
建山さんと玲姉がちょっと“溝”があるような気がしてならなかったが、島村さんともダメなのか……。
「それでも、虻輝さんと親は全くの別じゃないですか? あまりにも心が狭すぎるように思います」
「まぁ、割り切れないところもあるんだと思うよ。
ついこの間まで復讐のために人生を捧げていたのに、
急に仲よくしろっていう方が無理があると思うんだよね」
「虻輝さんはお優しいのですね……でも基本的には虻輝さんがメインで監視してくださいよ。
私はいざというときには飛んでいけるように準備はしておきますけど、基本的には別の任務があるので」
どうやら島村さんを基本的に“視界にも入れたくない”といったような感じすらした。
「それだけで十分だよ。なんたって玲姉と互角に戦えるだけの実力があるんだからね」
「ただ、私が飛んでいけない範囲の時は仁科や部下を送りますのでそこのところはよろしくお願いします。
私も暇な身ではありませんので」
「特攻局の中でも関東でトップなんだから無理をしなくていいよ」
特攻局の誰かが僕の傍にいれば綱利も容易に手は出せないだろう。
「ええ、虻輝さんは必ずお守りします。
あとの2人もできる限りのことはしますので。
ヴァーチャリストでもかなりお世話になりましたからね」
僕は単にゲームが得意で、たまたま建山さんが一緒にいただけで奇跡的に何もなく生還できただけの本当に幸運が続いただけのことだったが(笑)。
どんな形にせよ恩は売っておくものである。
「それじゃ、2人は毎日8時には活動するみたいだから。よろしくね」
「ええ、任せてください」
悪い人では無さそうな気がするけど……狙いが想像を超えているだけかもしれないから気を引き締めないとはいけないけど。
しかし、玲姉が忙しいので臨時とはいえ助っ人として期待できそうではあった。
「島村さんおはよう。潜入組の2人は今日からどうするつもり?」
「おはようございます。そうですね……私は日本宗教連合との連携について阻止することはできませんが、なるべく両者とも壊滅を防げるように全力を尽くそういこうと思います」
相変わらず目を合わせてもらえない悲しさはあったが、無視されていないだけ大進歩だった。島村さんの美しい睫を観察できるチャンスだと思って前向きにとらえよう……。
「為継と話し合ったんだけど、今日から島村さんの様子を見守ることになったんだ」
建山さんに続いて今度は島村さんとの交信が途絶えたと言えるように感情が表情から失われた……。
「あ、別にストーカーをしたいというわけじゃなくて身の危険が迫っているんじゃないかなと思ってね。
ただ、僕だけじゃ戦力にはならないだろうから建山さんも一緒にいるから安心してもらって構わないよ」
安心させるために言ったつもりだったが、島村さんはむしろ表情を歪めた。
「建山さんもですか……私あの人ちょっと苦手なんですよね。
今回の一件の総指揮官ということで一緒に動かなくてはいけないということも分かってはいるんですけど……」
建山さんにしても島村さんのことをあんまりよく思っていないみたいだったし、お互い相性が悪いのかな……。
2人共、良い人だと思うから仲良くして欲しいんだけどなぁ。
ただ、嫌だと言われているのを無理強いするのもよくないと思うからねぇ……。
特に何もなくても先天的にソリが合わない人っているからね。
「ま、まぁ何もなければ僕たちの出番はないわけだし基本的にはいつも通りやってもらって構わないよ」
「そうですか……」
そもそもあなたに見られていると思うだけで嫌なんですけど……と続いて出てきそうなところを我慢しているといった雰囲気だった。
それが分かっただけにいたたまれなかった。
「それで今日は具体的にどこかに行く予定はあるの?」
「それが……実を言いますと今日は日本宗教連合との話し合いの場に立ち会うことになってるんです。
特に何か発言することは無いと思うんですけど。お酌をするぐらいはしますね……」
「あ……そうなんだ。それは大変だね」
表情に出ていないか心配になったが僕は言葉とは裏腹に動揺していた。
そんなところに行かないでくれよと……。それこそ綱利のテリトリーの範囲内かもしれないんだから。
ただ、島村さんは僕の懸念について共有できるとは思えなかったし、今の状態を維持させるためにも余計な諍い(いさかい)を起こしたくはなかった。
今度関係が悪化したらもう二度と口をきいてくれないような気がしたから……。
「まどかちゃん。準備ができたらすぐに行きましょう。
どうやらこの人にストーカーされるようですけど」
島村さんは僕を指さした。
「し、島村さん! “もしも”のために待機しているんだよ! 僕だけじゃなくて建山さんもいるし!」
相変わらず酷い言われようだったが、いつもより島村さんが笑顔で言っているだけちょっと打ち解けている気もした。
「え~! お兄ちゃんがぁ? むしろ足を引っ張らないで欲しいなぁ~
建山さんだってお兄ちゃんみたいに暇じゃないんだから必ずいてくれるわけじゃないんでしょ~?」
「……最悪は逃げまくった上に、遠くから見ているだけにするよ。邪魔にならないようにね」
女の子が3人いる状況なのに男の僕が目も当てられないほどの最弱戦力なのは紛れもない事実なので、そう言うしかなかった……。
いや、僕の周りの女子が驚異的に強すぎるんだ……景親ですら全く相手にならないんだから。
「色々と仕方ないですね……ではまどかちゃん行きましょうか」
「うん!」
2人は手を繋いで仲良く用意をしながら出かけていく……。
島村さんはもはや“三姉妹”の一人になっていると言ってよかった。
こうして最後の方は僕の存在は完全に無視された……。
何でもいいからとにかくこの2人が無事に切り抜けてくれることを祈るばかりだった。
島村さんにも冷たく扱われてはいるが、既に“他の他人”とは全く違う親近感があった。




