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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第4章 反成果主義

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第63話 建山さんとの取引

「あっ!」


「おまえ!」


 目を覚ますとまどかが目の前にいた。そしてマジックを持っている。

 ……何をされたのかすぐに分かった。

 コスモニューロンの自撮り機能を使うと「バ~カ!」と途中で止まったために何と書いてあるのかよくわからない文字があった。


「まどかなぁ……。人が寝ているときに……」


 幸い濡れタオルで拭いたらすぐに落ちるタイプだったが、タチの悪いイタズラである。


「だってぇ……ニヤニヤしていて気持ち悪かったからつい……。

 そういうときって大抵、女の子とゲームの中でイチャイチャしているかノボセてる時だし……」


「爺と建山さんと一緒なんだからそんなことあるわけないだろ?

 事務的なことしかやってないよ……」


 建山さんに手を握られて上せた瞬間があったからあまり強いことが言えない……。


「ホントォ~? 建山さんも相当美人だからなぁ……」


「大体、お前がそんなことを気にする意味が分からないよ。

 僕が誰と仲良くしようと自由じゃないか」


「モオッ! 人の気も知らないでッ!」

 

 そう言ってまたクッションが飛んできた。また早すぎて交わせず、カーペットに倒れこんだ。


 いや、もしかするとまどかは僕のことを――いやいや、それだけは無い。玲姉みたいにただ単にからかっているだけに違いないんだ。

 兄離れしたくないとかそういう感じなんだろう。


「本当に仲が良い兄妹関係なんですね」


 起き上がると建山さんがニコニコした表情で見下ろしてきていた。


 何かにつけて縁がある建山さんに綱利のことを説明して、思い切って協力を頼んでみようと思った。


 やっぱり特攻局の人間だし、玲姉やまどかほどに全幅の信頼を置けるわけでは無いが、ヴァーチャリストでは命が懸かっていた場面で背中を預け合った間柄だ。

 他人としては為継ぐらい信頼しても良いと僕としては思えた。


「さっきは訓練に同行してくれてありがとう」


「いえいえ、私も楽しかったので問題ないです」


 断られる可能性はあるが、言うだけならタダだ。


「あのさ、建山さん。今日分かったことなんだけど実を言うと元科学技術局の綱利が動いているみたいなんだよね。

 綱利には“モザイク防御”がされているみたいで、どうやら“委員会クラス”もしくは大王に近い人物がその上で指揮しているみたいなんだ」


 一体全体どのように危険なのか、なるべく具体的に説明した。


「ご報告ありがとうございます。……思ったよりも事態は大変な方向に向かっている可能性があるのですね」


「建山さんは正直どう思う?」


「――私は数字を上げるためにあらゆることをやってきました。

 しかし、今回のことは正直に申し上げますと私でもちょっとどうかと思いますね。

 一見良い事をしようと見せかけて内部に潜伏し、他の組織ごと一網打尽にしようだなんて……。

 私でもそんなことはやったことがありません」


 正直その言葉を丸呑みしていいかどうかは分からなかった。建山さんと知り合ってからまだ日も浅い。むしろ何か“裏”がある気がしなくもない……。


「ちなみに建山さんは言える範囲でいいけどどういうことで数字を挙げていったの?」


「私は、誘き出す戦法が結構多かったですね。今回のように“アタリ”を付けた場所に潜入捜査をしていきましたね。

 今でこそ裏社会で私の存在を知らない人はいませんが、当時はそんなに名前も顔も割れていませんでしたので結構有効だったんです。

 それで有力者を現行犯逮捕していって功績を上げて言った感じでしたね」


「確かに、パッと見じゃ凄い実力者には見えないもんな……最初は僕も秘書の方かと勘違いしたぐらいだし――あ、ゴメンかなり失礼なことを言っちゃった」


「良いんです。ヘタに警戒されるよりかはスルッと入っていけるほうがより多くの人と仲良くなれます」


「あ、僕も結構コミュニケーション能力が怪しい割には仲良くなれるんだよ。

 “偉そうに見えない”ってよく言われるんだけど(笑)」


 しかし、建山さんがまともな感性でちょっと安心した。まぁ、僕が騙されている可能性はあるけど――それでも、なんとなく信じていい気がした。


「それが虻輝さんの良さだと思いますし、器の大きさだと思います。

 それにしても、私も内部潜伏を多用しますが――似たようなやり方で本質は全く違うんですから笑えませんね」


「それでこれまでの話を前提に提案したいんだけど……建山さん本人が僕たちと一緒に行動して欲しいんだ」


「え……?」


 流石に建山さんも目を丸くして驚いている。


「凄く忙しいから僕たちに頼んでいるっていうのも分かる。ただ、本当に危ない相手かもしれないんだ。

 実際に僕は綱利に直接殺されかけたんだ」


「えっ! お怪我はありませんでしたか?」


「大丈夫。景親が間一髪で助けてくれたから。

 でももしかしたら、大王やその周辺。それ以上の“委員会”のメンバーが出てくるかもしれないんだ。

 僕達の中で圧倒的に強い玲姉が仕事で忙しい以上、

 それと同じぐらいの実力の建山さんが付いていてくれたら凄く頼りになるんだけど……」


 建山さんは顎に手を当てて何かを考えている。

 やがてニコリと笑顔になる。


「私が虻輝さんと一緒に行動します」


「え!? 本当?」


「ただ、一つだけ条件を提示させてください。

 私は特攻局の人間です。目の前で『特攻局規則』に反した人間に関しては“私の裁量”で逮捕させていただきます。

 それをご理解いただけなければ直接ご協力することはできません」


 つまり、自分の本意ではないが結果的にEAIの人を全員を逮捕してしまう可能性があるということだ……。


「また、私はもうすでにかなりの範囲で顔が割れています。

 何か起きた際に優先的に駆けつけるように善処しますが、

 常に護衛するとかそういうことはできないのでそれだけはご理解ください」


「確かに、建山さんが現れて全ての作戦が撤回されたら元も子もない気がするからな……。

 せっかくだったら綱利を倒して、現行犯で捕まえてやりたい。

 そして大元のボスが誰なのかを突き止めるんだ」


「確かに、赤井さんとその上の人物を捕まえることができなければ何も解決しませんね。

 同じことがまた起きることでしょう。

 私としても無理やり犯罪者を創り上げるのは本意ではありませんからね

 そういう人物こそ社会の害悪ではないのかと思ってしまいます」


 なお、無実の人間を犯罪者としていたのは僕だったので建山さんの今まさに目の前に“社会の害悪”がいる模様……。


「建山さん。少し、いいかしら?」


 玲姉が唐突に話に参加してきた。気が付けば真後ろにいる。

 相変わらず気配を消すプロだ。本業は実は暗殺なのかもしれない……。


「玲子さん。どうされました?」


「くれぐれも輝君に”余計なこと“をしないように。

仮に何かしたいのであれば、『この私』に勝ってからにしなさい。いいわね?」


 玲姉の圧がヤバすぎるだろ……。こんなにも犬猿の仲の雰囲気があるのに玲姉が建山さんを快くウチに入れたのも謎過ぎた……。


「わ、分かりました。次の対決の日を愉しみにしています。

 次挑戦状を叩きつける日までの間に私もあらゆる手段を使って技術の研鑽に努めますので……」


 僕のような素人から見ると、玲姉と建山さんはかなり僅差のように思えたのだが、建山さん自身はそうは思っていないらしく彼女の性格からは考えられないほど謙虚な発言である。

 しかしながらなんとなくピリピリとした緊迫感は相変わらず抜けきれなかった。


「ま、まぁみんなで仲良くやっていこうよ。

 何かの縁でこうして集まったわけなんだし。ね?」


「世の中には“絶対に仲良くなれない人”っていうのが存在するのよ」


 尚更ウチに入れたのが謎過ぎる……。

 もしかすると、「どのみち家入りそうだから敢えて入れた」とかそういう感じなのか?


「では、今日はこれで失礼します。お見送りは要りませんので。明日からまたよろしくお願いしますね」


 建山さんもそう言って頭を下げると颯爽と玄関に向かって行った。

 

「ホント……どうしてこんなメンバーがこの家に集まったのか私にも分からないわよ」


 玲姉は頭が痛いといった形で額を抑えた。


「ま、まぁなるようになるしかないよこれは……」


 僕も玲姉と同じ気持ちだが、正直どうすることもできなかった。

 どれも成り行きで回避できないまま今に至っている気がしてならない……


「輝君は建山さんに鼻を伸ばし過ぎよ……私たちにももっと目を向けて欲しいわ」


 玲姉がプリプリと突然怒り出した。


「いや、そもそも姉と弟なわけだし。玲姉が最近忙しいのがいけないんでしょ……。

 僕だって特攻局の幹部である建山さんに全幅の信頼を置いているわけじゃない。

 やっぱりここぞというところで信頼できるのは玲姉だと思ってるよ」

 

 玲姉は少し僕から目を逸らした。そしてなぜか顔が赤い。


「そうね……最近仕事で色々と立て込んでいるから仕方ないのよ。

 年末商戦に向けて会議や準備があるの」


 どうにもそれ以外にも何かあるような気がしなくもない雰囲気があるがその言葉の真偽は僕には不明だった。


「大丈夫だよ。信頼してくれ。最終的には玲姉とまどかが一番大事だから――」


 すると玲姉は謎の動きを開始した、僕の腕の中にスルリと入り込むと自分から抱きしめられに行く――柔らかい感触といい匂いが僕の脳細胞を停止させに行く……。


「ダメよ輝君! こんなところで……続きは2人きりになってからよ。ね?」


 更に玲姉は突然、ちょっとわざとらしく声を少し大きめに色っぽい声を出した。


「は?」


 死滅しかけていた細胞が再び動き出す。

 周りを見渡すと気が付けば他の全員の眼が僕たち2人に降り注いでいる……。


「お兄ちゃんとお姉ちゃんはやっぱりそういう関係だったんだ……」


「……ある程度分かってはいましたけどね」


 まどかと島村さんが視線を下げながらそんなことをつぶやいている。


「ちょぉっ! そんなんじゃないんだって!」


 玲姉は“してやったり“という感じでクスクスと笑っている。よっぽど建山さんと仲良く――していたつもりは無いのだが、話していたのを根に持っているのだろう。


 本来ならば無用な誤解を解くためにその後20分ほどあたふたと奔走しなくてはいけなかった……。


 それにしても、建山さんが陰ながらだとしても協力してくれるのはいずれにしてもかなり心強かった。

 もしかしたら特攻局がEAIを潰しにかかっていないのではないかという前向きな情報ととらえていいからだ。

 それと同時に、特攻局をも間接的に利用しようとしている赤井とその後ろに存在しているフィクサーともいえる人物がどれだけ強大なのか? ということに気づいた。


 “委員会“の姿がチラついた。正直どんな奴らなのかもわからないのだが、ご隠居のように裏から世界を操ろうとしていることだけは間違いなかった。


 部屋に戻った時に妙に冷たい風が吹き抜けたような気がした。

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