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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第4章 反成果主義

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第62話 VRでの訓練

 目を開けると――あれ、場所が変わっていない? 地下競技場の景色のままだった。


「ちゃんと僕、爺のサーバーにログインできてる? 全く同じ場所のような気がするんだが? 失敗しちゃった?」


「ええ、大丈夫です。今回は虻利邸地下訓練場と見た目を全く同じ場所にしました」


 確かに玲姉や景親の姿が無いから成功したのだろう。


「紛らわしいですね……次の機会があれば私が部屋を作りますよ?」


「折角だから宇宙とか砂漠とか普通じゃない場所が良いなぁ~。

 そういう場所の方がゲームの中だって実感できるしさぁ」


「虻輝さんはそういう場所好きそうですからね」


「……分かりました検討してみます。では今日は私の技をVRの動きでいいので実践してみてください」


 とは言え爺は今やってくれるわけでは無さそうだった……。

こういうことは部屋のホストしか行うことができないので今日のところはこのままいくようだ……。


「ゲームでも再現できれば更なる優勝に繋がるかもしれませんよ?」


「確かにそうだな……」


 建山さんは僕のモチベーションが下がりかけたのを見てすぐさま言ってきた。

 ヴァーチャリストの時から良いタイミングで声をかけてきてくれていた。


「ではいきますぞ! 最高レベルの技から行きます! 虻利流奥義! 天風神剣!」


 爺は地面が抜けるのではないかというぐらい蹴り上げて飛び上がり一気に振り下ろす、

 それも真下に振り下ろしたのではなく、斜め前に攻撃が貫いていき、競技場の床が抉れていった……。

 リアルではこれはとてもではないが、家が倒壊してしまうためにできないような大技だった……。


「ひぃ……VR空間とはいえ再現できるかな……」


 そもそもこの動きをできたところで、ゲーム上で威力が出なければ意味が無いのでどの程度今後に活きるのかは分からない。

 現実の身体能力が反映されているゲームは少ないからだ。大体はゲームで初期から設定された武器に依存している

が、レギュレーションが変わるかもしれないし、この状況下で逃げられる余地もなかった。


「そうですね……ジャンプをするときの踏み出した足が重要だと思います。

 虻輝さんは利き足も聞き手と同じ左ですから村山さんとは逆だと考えられたほうが良いかと思いますね。

 まずはジャンプをされるだけでもいいと思いますよ」


「な、なるほど……」


 僕は刀を置いて、なるべく高くジャンプする。正直ここまで高く飛びあがっても普段はほとんど意味が無い。ステージのギミックでそうなっている際にはそもそも自分のジャンプ力もバネが入っている感じで仕様として上がっているからそんなに飛び方について考えたことも無い……。


 しかし、何回かやっていくうちにだんだんとコツがつかめるようになってきた。

 次第に木刀を持って飛ぶようになり、斜め上には飛んで刀を抜くまではできるようになった。

だが、強く振り下ろすことはできない。


「上手いじゃないですか~。やっぱり世界王者は格が違いますね」


 建山さんが笑顔で褒めてくれた。爺と比べると“お笑いレベル”のしょぼさではあるのだが、やっぱりこれほどの美人が褒めてくれるだけでとても嬉しい。


「本来は踏み出す際に“気の力”を思い切って足にかけるのですが――今回はそれについては考えないようにしましょう」


 気勢を削ぐようなことを爺が言ってくれる……。


「では、私もやってみますね。私も虻輝さんと同じく左利きなので村山さんほど上手くなくても分かりやすいかもしれませんね」


 建山さんは笑顔を引っ込め真剣な表情になる。

シユウッと真上に綺麗に飛び上がると爺のように技名を唱えることなく、刀を振り下ろす。蜂のように鋭くビュンと言う動きだった。


 地面は鋭く切り裂かれ、爺が破壊したところよりは浅いものの閃光のような速さで駆け抜けていった。

 参考になるかならないかどちらかと言われると――結局あまりならない(笑)。


「建山さんも素晴らしい素質の持ち主ですな……。

 虻頼様にも匹敵するほどの実力でしょう。

一目見ただけでこの動きができるとは、まるですでに虻利流をマスターしているかのような完璧な動きです。

その動きをリアル社会でもできるのでしたら私が免許皆伝を授けても良いでしょう」

 

「あら、それはとても嬉しいですね」


 そんなに上手いのかよ……ただ、そう言われても信じられるだけの圧倒的な動きではあった。

爺とはちょっと“上手い“分類が違っていて技の破壊力の爺とスピードの建山さんと言う感じがした。


「あの……具体的な刀の使い方はどうすれば?」


 改めて驚愕すると共に、建山さんにおずおずと聞いてみた。


「そうですね……普通の刀の振り方よりも円を描くような感じでしょうか?」


 そう言って建山さんはジャンプしないで刀を振った。

 僕はそれを真似して振ったが……。


「あらぁ……」


 また例によってすっぽ抜けて刀が飛んで行った……。握力が弱すぎた……。


「村山さん。ちょっと刀の重力をゼロにしてくれませんか?」


「分かりました」


 爺も建山さん相手には強く言えないのか――そう思っていたら刀が途端に箸のように軽くなった。


「あ、軽くなった」


「それならもう1回やってみてください。まずは形を完全にしてそれからリアル世界でやってみることが大事ですので」


「確かにどう感覚の動きを目標の動きにしていいのか分からないと絶望的な気分になるからな」


「ではもう一度私がやってみますから。続いてください」


 建山さんがサッと華麗にジャンプして確かに円を描くようにして振り下ろす。

 すると、グシャッっという音共に先ほどの爺がやったところより範囲は狭いが深く地面が抉れていった……。


「ぼ、僕もやってみるよ」

 

 何とか動作だけは見よう見まねでやることがついにできた。地面にヒビが入る。

 

 2人と比べると悲しくなるほどしょぼい結果だが、レギュレーションで武器が依存ではない状況だと僕のやったこととは思えなかった。

 

「おぉ……信じられないこの僕がこんな技を打てるようになるだなんて……。

 VRの世界はやっぱり凄いな……」


「いえいえ、才能があるんですよ」


 建山さんが密着してくる。息の甘さもリアルなのではないかと思い込んでしまった。

 美人の建山さんに手を握られながらそう言われるととても照れる。


「へへへ、そうかな?」


たとえそれがお世辞だと分かっていてもね……。

 

「あの……あまりやり過ぎると玲子殿にこのことを伝えますぞ」


 爺がそう言うとパッと建山さんが僕から離れる。

 景親もそうだが玲姉と戦った人たちは玲姉の名前を出すだけで動きが変わるんだから恐ろしすぎだろ……。


「ど、どうでしたか? 今回のことは何か参考になりましたか?」


 建山さんは取り繕ったような感じで言った。


「VR空間で動くのは慣れているから、結構早く対応できるけど……。

リアルでどれぐらい高く飛べるのかがまず問題だけどね(笑)。

やっぱり質量があるとね……」


「そこは純粋に筋肉をつけてくださらないと困りますな」


「や、やっぱり……」


「それか私や玲子さんみたいに、体中の“気”を自在に操ることが必要ですね。

 ただそれでも姿勢が悪いとダメですけど」


 玲姉も建山さんも体つきだけを見たらモデル体型で、とても強そうには見えないからな……。

 オーラがある分、只者ではないことはすぐにわかるけど……。


「ゲームやってると自然に姿勢が悪くなるからな……。

 “背筋強制君”普段から入れるか……」


「矯正じゃなくて“強制”ってところがなんか怖い感じがする製品ですけどね……。

 でも自然になる感じは確かにあると思います。

 虻輝さんに相応しい体幹の鍛え方があります」


「へぇ、どんな鍛え方があるんですか」


「英雄ポーズってご存じですか? こうやって足を引いて重心を真ん中にする感じです」


 挿絵(By みてみん)


 確かにその動きは背筋が伸びそうだった。


「なるほど、なんだか勝利してトロフィーでも掲げているような感じだ」


「そうなんです。ゲーム世界大会での英雄である虻輝さんに相応しくはありませんか?」


「確かにそうかもしれない」


 世界大会の英雄とまで言われて気分が悪くなるはずもない。


「煽てるのがうまいですな……。まるで虻輝様のことを知り尽くしているような……」


「フフフ……たまたまですよ」


「そ、そうですか」


 爺が言うほど僕のことを知り尽くしているとは思えないが、確かに建山さんを見ていると不思議な気分にはなってくる。

 最近会ったばっかりなのに、ずっと昔からの知り合いみたいなそんな感じが……。

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