第54話 共通のライバル
ロボット管理センターに向かいながら為継に連絡をすることにした。
まどかと島村さんと話して分かったことを報告するためだ。
「為継。今いいか?」
「ええ、問題ありません」
「まどかと島村さんの話だから100%信頼は置けないが、
最高顧問と呼ばれていたモザイクの人物が分かったかもしれない。
実は、綱利――赤井綱利かもしれないんだ」
「なんと……」
為継もさすがに絶句していた。為継の驚いた表情はレアだ。
かつての同僚・ライバルで行方不明になっていたのだ。もしかすると、僕よりも親近感があったのかもしれない。
「綱利はかなり優秀な後輩でした。しかし、その可能性が――よく思い起こせば無いとも言えないですな」
後半の方は味気ないほどに冷静な声に戻っていた。
「何か心当たりがあるのか?」
「ええ。そもそも、綱利が科学技術局を辞めた原因を作ったのは私と言っても過言では無いからです」
「えっ!? そうだったの?」
「正確には“間接的な原因”ですがね。
私と綱利は大王局長に申し付けられて“とある技術”について研究競争していたのです。
この研究については公表できないのですが、結果として起きたことは私が研究に成功して出世し、綱利は敗北のショックのあまり科学技術局の職を辞したということです。
彼もその研究に人生をかけていましたからね」
「な、なるほど……」
恐らくその技術は、支配者層にとって都合がいいが人類全体にとって有益ではないタイプのものだろう……。
つまり、『外に言えないような危険な技術』の開発競争に綱利は敗れたのだ。
「綱利が実行犯ということなら結構厄介ですな。
彼は虻輝様もご存じの通り非常に頭が切れ、緻密な作戦を立ててきます
特にどういう形で攻めてくるのか分からないのが非常に不気味です。
基本的に守る側はあらゆる可能性を考えなくてはいけませんから」
「為継、お前の方が優秀だとは思うがな」
「お褒めに預かり光栄です」
「だが、一筋縄でいかないのは間違いない。
不思議なもんでこの間のモザイクをかけられたコートの男が“綱利かもしれない”と思うと、急にそうだったような気がする(笑)」
「それは認知の歪みというものです。そこのところは冷静に判断したほうが良いでしょう。
綱利の可能性が上がっただけでまだ確定ではありませんから。
先入観を常に捨てて冷静に判断したほうが得策です」
「確かに」
為継は常に冷静だった。最初に一瞬驚いただけだったのだから頭の回転が尋常では無いスピードで動いているのだろう。
「ちなみに私の方から“EAI最高顧問”ということについて調べてみたのですが誰なのかデータを入手することはできませんでした。
そもそもコスモニューロンを導入していない人たちのデータを収集することは困難なので致し方ないです」
特攻局でも実態が分からないから潜入捜査させているぐらいなんだから結構EAIはうまく立ち回っていると言える。
「とりあえず、僕たちが現実的にできることとしては引き続き監視カメラで見ていくしかないんだよな?」
「そうですな……。私は日本宗教連合に“探り”を別方面から試みているのですが、どうにもいい感触を得られません。
モザイクをかけられたコートの男が動いてくれないことには話が始まらないということです。
若しくは潜入している2人が何か成果を出してくれるかどうかですな」
「あの2人は思った以上に組織の深くまで入り込んでいる。
もしかしたら期待以上の成果を出せるかもしれないな」
「理想としては綱利とその後ろにいる人物を出し抜くことです。
綱利だけを捕まえても我々の共通の脅威は解消されますが、対処療法にしかなりません」
「確かに……」
「ですが今できることが少ないことも事実です。気長に待つしかないでしょうな」
「なるほど。まぁ、こちらとしては少し気楽になった。悠々自適にゲームをしながら“警報”を待つとしよう」
「……流石に最低限の緊迫感はお持ちください。VRの世界にダイブされるようなタイプですとすぐに対応できませんから」
「ああ、分かってる。流石にそこまではしないよ――多分(笑)」
つい忘れちゃって没頭しちゃうことを否定できないからな……。
「けたたましく警報音が鳴る上に景親もいるので虻輝様がいかに没頭していようと大丈夫だと思いますが、どうにも不安ですな」
「信用して? 流石に不真面目にやらないから……」
「冗談ですよ。
では、また何かありましたらご連絡ください。すぐに対応しますから」
「分かった。またよろしく」
相変わらずいつもと声色が変らないので冗談かどうか分かりにくい……。
だが為継がここまで優秀で、いつでも応答してくれて、対応も適切でなければ綱利のことも覚えていただろうが――流石に比べる対象が悪すぎた。不憫な奴だなと思った。
14時ごろになって思い出したように急いで玲姉の弁当を食べたものだった。
玲姉の弁当を残して家に帰った日にはもう10時間ぐらい意識が飛んだからな……。
弁当を食べるか食べないかで生命を賭けなくちゃいけないだなんてどうかしてるだろ……。
そうこうしているうちに気が付けば夕方になっていた。
「虻輝様。今日も野郎は現れませんでしたなぁ。こっちの身にもなって欲しいですぜ」
僕はどちらかと言うと暇を持て余して木刀を振り回している景親の方が問題だが……。
ゲームをしながら交わす曲芸をやらなくてはいけない……。
「まぁ、僕としちゃこうして時間を潰す手段がいくらでもあるから平和で良いがな。
こういう日がむしろ毎日のように続いて欲しいぐらいだ。
仕事をしていると見せかけて遊んでいられるんだからな。
しかも誰にも咎められることが無いんだからこれほどの環境はない」
今日は景親からの身の危険を感じながらも、4つのゲームにまたがって130連勝ぐらいしたんだからスキップしながら家に帰りたい気分だった。
もちろん帰りは飛行自動車に乗った方が早いんだけども(笑)。
「俺としちゃ、何か起きてくれたほうがやりがいがあるんですがね」
水面下じゃ何か起きているかもしれないがな……僕たちが分かるのは表で起きている出来事だけだ。
「まぁ、実際に警報が出たとしても正直駆け付けた時には見失っている可能性もあるんだからもう正直僕達にはやることが無いんじゃないかとすら思えるね」
そう言いながら身支度を完了させ、ドアを開けた瞬間だった。
「これはどうも、お久しぶりです」
カチャリという音と共に銃が付きつけられた。




