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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第4章 反成果主義

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第49話 心を操作しない決意

 うさぎ跳びでボロボロになって大の字になってしばらく倒れていた。

 太もものあたりをマッサージして、やっとの思いで立ち上がる。

 すると、島村さんが丁寧に弓道具を一つ一つしまって帰り支度をしているのが目に入った。


「ねぇ、島村さん。一つ聞いて欲しいことがあるんだけど」


 声をかけてから後悔した。自分から“ハチの巣”のように穴だらけになりに行くようなものだ。


「……私は特に話したいことはありませんね。話せることがあるのなら弓道ぐらいでしょうかねせいぜい」


 島村さんはこちらの方を向いてすらくれない。ほとんど対話拒否状態だ。

弓道なんて僕とあまりにもかけ離れていて興味が無いから提示していると言える。

こんな状況でも伝えたいことが僕にはあるのだ。


「僕も玲姉のようになりたいんだ。そして、ゆくゆくはこの世界を変えたい。それだけは信じて欲しい

 今日のことだって誤解なんだ。ちょっと知り合いの子とじゃれあっていただけで……」


 もう完全に言い訳にしか聞こえないだろうが、何か言わずにはいられなかった。


「……それは明日以降、今日起きた疑惑が晴れてから決めることにします」


「明日の10時にまどかと一緒に昨日の場所に来て欲しい。

 そこで大樹本人を交えて話すから」


「ええ、分かりました。

私はあなたのことを1ミリたりとも信用していませんが、玲子さんの面子を潰すわけにはいかないので仕方ないので行きますよ」


 島村さんの声は無機質で冷たく、乾ききっていた。この場にいたたまれなくなるほどだった。


「それだけで構わない。事実を見てもらえばきっと分かるだろうから」


「それでは明日。あなたの醜態をまた見れることを楽しみにしています」


 またしても“有罪”が確定しているとでも言わんかのような残酷な発言だったが、先に立ち去ってくれたのでホッとした。

 島村さんとしてもこんな“不快な人間”からは1秒でも早く離れたかったのだろう。


 精神的ダメージで体がバラバラになりそうだが、自分から逃げたくはなかった。何とか耐えきったと言ってよかった。



 島村さんがいなくなった後、しばらく心身の疲労のあまりに動けなかったが、景親が素振りをしまくっているのが視界に入った。

 流石に体幹がブレていなく感心するが、見ているばかりもいられなかった。


「景親、性が出るな。

ところで、明日の朝早い時間帯に大樹のところに行ってまどかと島村さんに会わせるためここに連れてきて欲しい。頼めるか?」


「はっ。お任せを!」


 かつて携帯電話やスマートフォンとやらが流行ったそうだが、コスモニューロンが無い相手だと手紙ぐらいしかやり取りができない。

 このような昨今、手紙で間に合わせられない状況ではもはや原始的に直接向かわせるほかないのだ。


 それだけ不便にして、コスモニューロンをやらされる否が応でも管理体制に移行させる非常に姑息な手段だ。

 むしろ子供以外で1割も使っていない人がいるだけ抵抗している人は思ったよりも多いと言えるだろう。


「島村さん達も毎朝結構早いからな。大樹にはたたき起こしちゃうのは悪いとは思うけどな」


「大樹の奴がややこしいことをしちまうのがいけねぇんですよ。虻輝様は何にも悪くねぇのに……」


「ゲームの世界やアバターとかでは僕も神のように自在に局面を操れる自信があるが、現実世界の人間を動かすのは難しいよね……。

 特に僕は昔、“データを改竄して大王のところに送り込んでいた“という前科があるから特に誤解を与えやすいんだ」


 特に心の推移に関しては可視化することができないからな……もしかしたら脳波を電磁波などで測定はできるかもしれない。

だが、それはこれまでの蓄積にはなるかもしれないけど状況次第では全く同じことをしてもダメなこともあるからな……。


「しかし、俺は虻輝様が悪いとは思えません。

どっちかって言うと色々と善意でやってることが多いじゃないですか? 

大樹の件だってわざわざ就職先まで斡旋してやろうとしているじゃないですか!」


「いつも味方になってくれてありがたいけど、僕が色々と未熟だから問題が相次いで発生しているんじゃないかと思うんだよね。

 世界を恐怖支配している『虻利家の家系』というだけでもう疑惑が持ち上がってもおかしくないんだ。

 細心の注意を払って言動をしていかなくてはいけない」


 僕も必ずしもそうしたいわけではない。ただ、僕の唯一の居場所と言えるこの家から追放されるぐらいならばやむを得ないのである。

 

 しかも、虻利本社で崇められるようにしている状況は「虻利の家系」を見られているだけであり、僕自身の人格や実力を見られているわけではない。虚像を称賛されているだけなのだ。


 玲姉やまどかに嫌われることはすなわち僕の「居場所」が壊滅することになる。


「ひえぇ~。そんなに平身低頭でおられるとは……でも、それだけの覚悟があるのでしたら必ず色々な問題が起きても解決されるでしょうな」


「いやぁ、そんな高尚な考えでやってるわけじゃないよ。

 これ以上犯した罪を増やさないようにしているのと、その罪滅ぼしとして自分の近場から改善しようとしているだけだね」


「いやぁ、その心意気が素晴らしいんですよ。昔がどうであれ、今やろうとしていることが良けりゃいいじゃないですか。

俺なら虻利家の洗脳システムを使って全員いうこと聞かせますよ」


「それは流石にヤバすぎるだろ……。洗脳で言うこと聞かせても全然嬉しくないよ」


 そんなことで居場所を作ったとしても“虚無“でしかない。ロボットや人形と暮らしても僕の心は満たされない。


「はっはっはっ! 冗談ですよ! 俺だって虻輝様の素晴らしさが分かったんですから、あの2人だと分かってくれそうな気もしますけどね」


「島村さんは特に賢そうではあるけど、その分頑固そうだからな……」


「まぁ、なるようにしかならんすっよ」


 そう言われたらそうだな。コイツは他人事だから気楽そうで何よりではあるが……。


「呼び出す名目はそうだな……明日朝には再びチームメンバーで会ってその結果を伝えるということで頼む」


「よっしゃ! 俺も明日4時に起きて出発しますぜ!」


 なんか知らないが景親は自分の中で何かが解決したらしく、木刀を振り回して鼻歌を歌いながら立ち去って行った。

 彼の知らぬ間に僕の鼻を木刀が掠めて冷や汗まみれになった……。

立ち去るだけで僕の生命の危機になるのはどういうことなのか……。


「まずはチームメンバーに会って結果を聞くことだな」


 今日の雰囲気からして大丈夫だと思いたいが、最悪は不合格を伝えなくてはいけない。

 でも、反対意見が出た場合に封殺するわけにもいかないだろう。

 そんなことを悶々と考えながら気が付けば眠りについた。

色々考えながらもゲームだけは勝てるんだから我ながら大したものだなと思った(笑)。

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