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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第4章 反成果主義

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第46話 お姉ちゃん兼母親

 その後路地で10分ほど経ち尽くした後、ロボットの管理センターに戻った。

 景親が言うには今日のところは“モザイクの人物”が現れなかったようだ。


「虻輝様。そんなに落ち込むこと無いですぜ、あんなチビと胸デカ女には虻輝様の素晴らしさが分からんのですよ」


 先程の大樹とのことをまどかと島村さんに誤解されたことを話すと景親は2人を凄まじい貶し方で事も無げに言った。


 だが、僕はあのゴミを見るような目つきにはもう耐えられない。折角、データを改竄していた時代から比べて信頼を多少回復したと思ったのに……。

 全てが水の泡になったような気分になったのだ。


「その表現であの2人に言うなよ? 命が無くなるからな? 

お前が無事でも僕に過剰な火の粉が飛んでくる可能性があるし……」


 確かに非常に端的に特徴は捉えてはいるのだが、どちらも2人にとってあまりいい事だとは思ってい無さそうである。

 そして、景親の失言は僕の監督不行き届きと言われ僕がなぜか制裁されかねない。

とんだとばっちりが飛んでくるのである。


「はぁ、分かりました。しっかし、虻輝様は我慢強くて感心しますよ。

 あんな奴ら特攻局に差し出しちまえばいいんですよ」


「いや、流石にまどかは家族だし、島村さんも玲姉が住むことを認めている以上追い出すとは出来ないよ。並の特攻局の人間ぐらいでも玲姉に返り討ちに合いそうだし」


「確かに柊玲子の下にあの2人がいると思うだけで自由にさせるしかありませんな………」


 景親はスッと顔が青くなる。玲姉の名前を聞いただけで先程の威勢のいい声とは打って変わって小さく消え入りそうな声だった。

直にその実力の恐ろしさの一部に触れたのだからそれが思い起こされたのだろう。

 大男である景親すらも震え上がらせるほどの存在なのだ……。


 その後は18時までこの監視センターに居続けた。

 目標を発見したという警報は鳴ることはなかった。

ゲームをその間やり続けたが、何か魂の抜けたプレイで何とか勝ったという感じの試合が続いた。

 あの2人の冷たい眼差しや言葉が心に突き刺さったままだったからだ。



 帰ってきたときは烏丸がいつも以上にニヤニヤして迎えてくれただけだった。

 今日は玲姉がメインで作ってくれているようだった。こういう時に玲姉が笑って迎えてくれていたらまだよかったんだが……。


 島村さんは僕の目の前。まどか僕の隣とはいつもの席順ではあるのだが、それぞれ僕からいつもより半身離れた状態でご飯を食べていた。心の壁はそれ以上に隔絶されている感じがした……。


 そして目の前の時折目線が合う島村さんの視線が相変わらず強烈だ。


「――こっち見ないでください。ご飯が美味しくなくなります」


 言葉まで強烈だ。正面に座っているのに、どこを見たらいいのか分からない。


 もう大王も検討したほうが良いだろうな。島村さんの眼光の鋭さを改良して兵器にすることを……。ロボットや前線に備え付けられているレーザー光線の性能もきっと上がるに違いない。特に精神攻撃に使えるだろう……。



 気が付けば食事が終わっており、玲姉が妙に笑みを浮かべながら斜め前に座っているだけだ。

恐らくは玲姉が用意してくれた一流の日本食を食べたはずなのに、何を食べたのかどんな味なのかも覚えていない。

 心が壊滅的ダメージを受けた状態で食後に玲姉にどうすれば良いのか? 味方になって貰えないかについて話してみた。


「そうねぇ~。私はその場にいなかったのだから何とも言えないわね。輝君がそうだと言えばそうなのかもしれないし、まどかちゃんや知美ちゃんの証言が正しいようにも思えるわね。

 どちらも嘘を吐いてい無さそうなのは間違いないけど」


「そ、それじゃぁ、僕の弁護に――」


「ただ、この世の中には“パワハラ”もあるからね。自覚が無くとも相手にとっては非常に苦痛を感じていることもあるのよ。

 つまり、相手の大樹君がどう感じたのかそこが大事になって来るんだと思うわ」


 なるほど、さすがは本当の社長だ。“名前だけ副社長”の僕より企業の経営者らしい立場の発言と言えた。


「な、なるほど、知らず知らずのうちに相手の気持ちを踏みにじっている可能性があるわけか。

 とにかく、大樹に誤解を解いてもらう機会が無いと僕の人権は回復しないわけか……」


「そう言うことね」


 玲姉は何故か知らないが僕が絶体絶命と言う状況にもかかわらずとても楽しそうだ。


「玲姉、僕が窮地に立たされているのにどうしてか楽しそうだね?」


「ええ、面白いモノを見ている感じがするからねぇ~」


「当事者の僕の身にもなってよぉ~。あの2人から見たらもう僕は虫けらや生ごみ以下の存在なんだから」


 僕の悲痛の訴えも空しく玲姉は余計ニコニコ顔になって楽しんでいる。

だが、逆に肩の力が抜けていくのが分かった。


「輝君が誠実に訴えれば大丈夫だと思うしね。実際の上では問題無いという自信があるのよね?」


「確かに。勘違いだと僕は思っている――いや、確信しているからね」


「それなら私が、あの2人に話をつけておくわ。最低でも輝君と大樹君との2人から話を聞くように言っておくから」


 仲介役だけでも十分だった。あの2人に対してもはや話すきっかけすら見いだせなかったからだ。


「おぉ、それだけでも助かるよ。色々と話を聞いてくれてありがとう。

 チャンスが1回あれば大丈夫だと思っている」


 父上は常に仕事で不在、母上は行方不明(死亡が濃厚)。そんな中、玲姉はやっぱりお姉ちゃん兼母親と言える存在と言える。


 先程まではこの世の終わりのような気分だったが、玲姉は正面から弁護はしてくれないがそれ以上に僕の成長を促してくれる対応をしてくれるなと思った。

 ただ、お母さん的存在と言ったらきっと“私はそんな年じゃないわよっ!”と言って殴られて前後の記憶が消滅するだろう……。


「今度はちゃんと私が作ったご飯を味わって欲しいわね。気分が落ち込んでいる時ほど、ご飯や匂いというのはとてもリラックス効果を持つんだから。

 あと、そんな下らないことは二度と思わないこと。い・い・わ・ね?」


「は、はい……」

 

 僕が思った通り指摘された。一時的に記憶を失っていないだけまだマシだろう……。


「ねぇ……話を聞いてあげたお礼やご飯をちゃんと食べてくれなかったお礼としてやることは分かるわよね?」


「あ……」


 玲姉がスッと目の前に出つつ僕の手を引く。抵抗する間もなく引きずられていく。

このタイミングで連行していく場所と言えばたった一つしかなかった。

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