第44話 本人より緊張する面接
体にピッタリのスーツなのにもかかわらず、どうにも体に慣れないのでちょっと体操したりしながらエレベータに乗った。スタジオのある15階にようやく到着すると、すでにメンバーが待っていた。今回は来ることを事前に通達していたからだ。
時間は12時30分前だった。
「あ、虻輝さん。今日はかなり良いスーツでお出ましになられたんですね」
僕がスタジオに入るなりすぐにメンバーの皆が周りに集まって来る。
皆もいつもよりちょっと良い服か新品の服を着ているような気がした。
「うん、今日は大樹の面接だからな。まともな格好を要求しておいて責任者の僕がいつもの安物の服じゃねぇ(笑)」
「俺たちもスーツの方がいいんでしょうか?」
「いや、君たちはよく考えてみれば大樹より年下だし良いんじゃないか?
僕は流石に年上だしこのチームの代表として責任がある立場だしね」
たまには年上ぶっておかないと正直なところ威厳が保てる気がしない……。
「分かりました。ただ、身だしなみぐらいは整えておきます」
既に大丈夫そうな気もするがね……。
「面接試験はどういう感じにしましょうか?」
「正直、大樹はスキルがあるわけじゃ無い。だから、このチームに溶け込めるかどうか、やる気があってスキルを習得できる素質があるかどうかについて見てもらいたい。
仕事が近くなりそうな加茂君と佐伯君には質問を考えてもらった。
後の皆はそれぞれ自由にしてもらって構わない」
「分かりました」
「10分前に来るように言ってある。皆! いつも通りに配置について!」
「はいっ!」
そういう僕の手汗がすごかった。僕がなんだかんだで一番緊張していた。このスーツがまた着慣れないのもあるけど……。
「佐伯君、内藤君が来たら面接室まで案内してあげてね。エレベーターから来ると思うからその手前で待っておいて」
「分かりました」
佐伯君も表情が硬く多少緊張しているようだった。
ちょうど11時50分になるとエレベーターのゲートが開く。大樹が中から出てきた。
ここは透明な部屋のために様子が随時見えた。
「こんにちは、本日12時から面接を予定している内藤大樹という者なのですが」
大樹は緊張しすぎという感じもなく、かといってあまりにも気楽という感じでもない良い感じの緊迫感と言えた。
ちょっと僕もホッとした。
「内藤さんこんにちは。虻輝さん達がお待ちですよ。面接室はこちらです」
大樹が佐伯君に誘導されながらこちらに歩いてきた。僕と目を合わせると以前向けた笑顔を一瞬僕に向けたがその後すぐに表情を引き締めた。
「内藤大樹です。本日はよろしくお願いします」
「どうぞ、お座りください。まず、僕たちのチームに応募してきた理由について教えてもらえないでしょうか?」
長い机に僕たち10人がズラリと並ぶ。大樹はそれに対して1人のみと、パッと見では“圧迫面接”のようにも見えてしまうが仕方ない事だ。
実を言うとざっと質問する内容は教えてあげた。ただ、どういう回答をすれば最善かまでは教えないでおいた。流石にそこまでしてやる必要はないだろうと思ってね。
「はい。私は虻輝さんの紹介でここにいますが、虻輝さんの人柄がとても良く、私が間違ったことをしようとしても正してくれました。
この人のためなら身を粉にして働けると思いました」
非常にはっきりとした声で思わずくす僕がぐったくなってしまうような言葉だった。
「具体的にこのチームでどんなことが貢献できますか?
この“チームAUBTERU”は世界トップの実力者である虻輝さんをはじめとし、世界大会チーム戦でも優勝するほどのトップの実力者が揃っているいわば“最強軍団“とも言えるチームと言えるレベルです」
加茂君の言い方はちょっと棘があるが、確かにこのチームに“存在しているだけ“で世間的な価値はかなり高い。
まぁ、僕のバックに虻利家の権力が付いているだけという見方も無きにしも非ずだけど(笑)。
「私には具体的に何か世界大会に出られるだけの実力があるわけではありません。
ですが、私はこれまで土手での生活で雑草を食べながら肉体労働をやり続けてきました。
掃除から雑用、飯炊きまで皆さんのサポートなら誠心誠意込めてなんでもやります!」
「そうですか……ですがそういったサポートに関してはこのチームにいなくてもできるはずです。例えばですねこのビルの清掃員や売店員として応募すれば間接的にでもウチのチームに貢献できるわけです」
加茂君がすかさず続ける。
ただ、そういった清掃や売店はほとんどロボットによる無人対応なっており、もはや就職先すら無い。まぁ、細かいことは言わないでおこう。
「確かにそういう側面もあります。ですが、私はこのチームの名前を背負うことによって責任がある立場として貢献したいのです。
すぐに転職できてしまうような状況ではなく、チームが存続する限り半永久的に貢献したいのです」
「なるほど……」
「内藤さんは今高校に通われていないようですが何か理由はありますか?」
最年少の木下君が聞いてきた。彼はゲームの将来性もありながら僕と違って学業も優秀なので気になるところなのだろう。
「現在、生活の安定すらままならない状況で、学校に行くことすらできない状況です。
仮にこのチームに所属することができなくとも、働きながら生計を立てていくつもりです。
それも虻輝さんが色々と生き方を教えてくださったお陰です」
「なるほど、分かりました」
木下君は僕をチラリと見た後、大樹を再び見据えていた。
「他に内藤君に質問がある人はいませんか?」
皆首を横に振った。結構手厳しい質問が連発したのでちょっとホッとした。
「内藤君には明日、合否を通知します。今後の流れとしましては合格すれば3か月間の使用期間の後に正規採用かどうか最終決定することになります。お疲れさまでした」
僕たちの方針として“一晩寝てから全員に関わることを決断する”という規定がある。
というのも、その場の“雰囲気“だけで流されて決断してしまうと感情だけで決めてしまい客観的、冷静に決断することができないからだ。
「皆さんありがとうございました。もし、合格できましたら必ず皆さんのお役に立って見せます」
そういって大樹は背筋をより伸ばして立ち去った。
「それじゃ、一晩考えて明日の朝結論付けて欲しい」
「分かりました」
「虻輝さん。このゲームのFPSのプレイングについてちょっと相談が――」
榊君という僕と2歳年下の子が言ってきた。彼は思い切りが良いプレイングをするが、ちょっとそれが仇になるところがある。
大樹が下で待っているはずだからグズグズしていられない。
だが、最低限同僚・後輩たちと交流しておかないと“いかにも大樹のためだけに来た”みたいな雰囲気なってはいけないのだ。
「オッケー。とりあえずやって見せてよ」
なるほど、僕の思った通りちょっと見切りが早すぎる。
「ふぅむ。榊君はもうちょっと冷静に状況を把握してから動いたほうが良いね。
例えば今の局面、敵がもうちょっと前に出てから射撃をしても良いんじゃないかな
―? そんなに相手の武器は射程が長いわけでは無いしね」
試しに僕がやって見せた。実際にやって見せるとどういうタイミングでやればいいのか分かるからだ。
「な、なるほど。流石ですね」
「改善点が見つかることは良い事だよ。
僕なんて最早ほとんどのゲームで改善点が無いレベルだから質を下げないようにするのに重点を置いている。
あとは、世間一般のトレンドの分析とそれに対する対応。
試合の“流れ”でツキを呼び込むプレイングをその都度考えてるだけだからね」
「ちょっと次元が違いすぎですよそれは……」
頂点に立つと羨ましがられるが、その実は“孤独”なのである。同じ立場の人間が極限まで限られてしまうからね……。
そして頂点に立っている同士は“独特な奴ら”だからまず情報交換しないし(笑)。
「まぁ、また見せてよ。じゃぁ、皆、僕は次のミッションがあるからまた明日よろしくね」
「はい! お疲れさまでした!」
皆、笑顔で僕を送り出してくれた。この雰囲気からして大樹はきっと大丈夫――そう思いたかった。




