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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第4章 反成果主義

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第43話 不器用王

 僕のコスモニューロンのタイマーが鳴ると共に、景親が僕の部屋のドアをバンッ! と開け放つ!


「虻輝様! 4時10分前ですぜ! 行きましょう!」


「あ、ああ……」


 こんなに早く起きる必要があるのか? と改めて思いながら起き上がる。

 イタタ……両足が昨日の反復横跳びとうさぎ跳びの影響による筋肉痛でまともに歩くこともできない。


 幸い、どんな感じの服かを選ぶだけで自動的に着せてくれるからこんな時は本当に助かる――背筋を伸ばさないとちゃんと着せてくれないけど(笑)。


「さぁ! 行きますぜ! 今のままじゃ遅刻だ!」


 景親に拉致されるようにして玄関を出て、飛行自動車に強制的に乗せられた……。



「こうしてみると巡回ロボットも可愛らしいな」


 筋肉痛をほぐしながら各ロボットを眺めた。


 普段は、空気のように静かに仕事をこなして存在しており、マジマジと見たことは無かった。

だが、2か所のランプ兼カメラの部分が眼に見えるし、熱を放出するための空気口のところは口に見える。


「……あれ、どうなってんだこれ?」


 説明書通りにやってもポトリと落ちるだけで取り付けることができない。焦ることで手汗が出て更に手が滑る――僕はリアルではあまりにも不器用過ぎた(笑)。

 表情が変わっていないロボットすら憐みの眼で僕を見ているような気がしてきた(笑)。


「ホイッと持ってヒョっとつけりゃいいんですよ!」


「そ、そう……」


 景親がそう言いながら付けるが全く分からない。表現能力が無さすぎるだろ……。


「――虻輝様は、休んでいただいて結構ですよ。まだ日も登っていませんしね。私が何とかしますので」


 そして、輝成からは静かに戦力外通告を受けた(笑)。パッパと取付を完了させていく輝成からすれば、やらかしそうな僕は何もしてくれないほうがマシなのだろう。


「さ、流石にこれだけ早起きしてやってきたのに何もしないとか虚しすぎるから……」


 必死に眠気真名子を擦り、筋肉痛に耐えながらようやくやってきたんだ。ここで何もせずに棒立ちとか悲しすぎるだろ……。


「でしたら、虻輝様。“カチリ”としっかり音が出るまで嵌めて下さい。その上で目から光が出れば大丈夫ですので」


「わ、分かった」


 カチリと鳴ってもどうにも目から光が出てくれない……。


「ちょっとカメラの角度が下を向いています。本当に僅かの差ですが、全く機能しないかどうかの分かれ目になります。精密機械ですからね」


 輝成が僕の手に添えて指示してくれる。カチリと音が出た。

 輝成の手は思ったよりもスベスベしていてちょっとドキリとした。


「な、なるほど――お、出来た!」


 今度は自力で次のロボットに取り組むとあまり手間取ることなく装着することができた。

 ただ単にロボットのランプが付いただけなのに、人間の眼に光が灯ったような気分になった。


「その調子です。これで効率よく出来ますね」


 それから20分後、巡回ロボット出発時間ギリギリ時間でようやく取り付けることができた。


「ふぅ……輝成ありがとう。何とか戦力になることができた」


「いえいえ、虻輝様がいなくては時間通りできませんでしたから。むしろ当初はぞんざいに扱ってしまい申し訳ありませんでした。」


「いやぁ、当初は僕もできないんじゃないかと思ったけどさ。まぁ半ば意地だよね。

 ここまで来てゲームしているだけでしたとか惨めすぎるから」


 景親も輝成と同じぐらい手際が良かった。サバイバル能力があるだけあって手先は器用のようだった。だが、景親は教える能力が無かった……。


「しっかしあれですな。これだけの監視カメラ付きでも結局目視でやらねぇといけねぇんだ。ダルイったらありゃしねぇぜ」


「景親贅沢だぞ。張り込んでやるより遥かに効率が良いのだから」


「そうそう。何でも当たり前に思っちゃいけないよね。監視カメラを一括で監視できる暖かいモニタールームで他人の目を気にせずにゆっくりできるんだからな」


「いえ、ずっと見ている必要はありません。大体100画面もあったら2、3人ではとても監視することは出来ません。

為継から一応はモニタールームのアップデートを行ったようです。“モザイクの人物”が現れた際にセンサーが反応しマーカーをつけ、警報が鳴るようになったようです」


 試しに輝成がスイッチを入れて警報の音を聞いたが、鼓膜を切り裂くような結構インパクトのある音だった。これはゲームをやっていたとしても絶対に気づくな(笑)。


「おぉ、これなら大丈夫そうだな」


 当然僕の頭の中にはゲームをしながらその警報を待つ構図を思い描いていた。

 これが大王が示した最大限の譲歩なのだろう。


「では、私なりに調査を引き続き行ってまいりますので失礼します」


「輝成、お疲れ~」


 輝成は去っていき、こうして警報の音に注意しながらゲームを始めた。


――ゲームは至って順調に勝ちまくっていけた。外の音にさえ気を付ければいいのだから気楽だ。

ところが、50連勝ぐらいところであることに気が付いた!


「あ、今日は大樹の面接のお膳立てをしてやってたんだった! 景親スマン! 後は任せた!」


 昨日寝る前に美甘に大樹の家にスーツなど一式を送るように言っておきながら完全に記憶から忘却していた(笑)。

 仕事を紹介してやるとかドヤ顔で言っておきながらこの有様である(笑)。


 僕はダッシュで汎用ロボット管理センターから出て行った。景親は苦笑しながらも見送ってくれた。



「虻輝様……その慌てぶりだとやっぱり忘れておられたのですね……」


 待ち合わせ場所では美甘が呆れ顔で待っていてくれた。時間はまだ10時前だが、着替えたり、弁当を食べたりすれば時間はあっという間に経過してしまう。

 監視センターから待ち合わせ場所に近かったのが幸いだった。


「いやぁ、もうロボットに部品を付けることに必死でスケジュールが完全に抜け落ちてた……」


 飛行自動車で移動しながら雑談した。


「虻輝様。ちゃんと予定に入れておいてくださいよ――通知しても意味が無いのかもしれませんけどね。

そもそも、ネクタイすらまともに結べないんですから……。抵抗されますし」


「結んであってパッとシャツに着けるタイプにしてくれよ。アレの方が圧倒的に楽だからね。というか、もうあのタイプ以外全部捨てておいてよ(笑)」


「ほとんど無いと思いますけど、ポトリと落ちたときがあまりにもカッコ悪いですよ……。

 それに紳士服会社としてはあんまり流行らせたくないようで、最高品質品は売ってないんです。お家の格に合った商品をつけて頂かないと……」


 あまりにも下らない利権や家格のせいで、不便になってしまうんだな……。


「かと言って首に手が伸びてくると思うだけでくすぐったいからなぁ(笑)」


「ホントこちらの身にもなってくださいよ……」


 そうは言うが、苦手なものは苦手なのだから仕方ない……。

 

 そんな、他愛もないどうしようもない話を次々としているうちに、再びチームABUTERUのゲームスタジオがあるビルが見えてきた。


「とりあえずこちらのお店で着替えていただきます」


 しかし、美甘はビルの手前の会員制の高級ブティックで止めた。

 黒いキラリと光る大理石に、神殿のような支柱が建てられている。

 僕は気が付けばここの会員に否が応でもならされていた。コスモニューロンで勝手に登録されている。会費が月10万円もするのに僕の許可が無いって(笑)。


「えぇ~、トイレで着替えるよぉ」


「虻輝様……立場をわきまえて下さい。あなたは虻利家の御世継様なんですからね。

 プロに着けてもらうわけですからくすぐったくもないですよ」


「えぇ~」


 こんな、入るだけで蕁麻疹(じんましん)が出そうなぐらい相性が悪そうな店に行きたくなかったが、トイレでの着替えを美甘が認めくれそうに無いから溜息を突きながら中に入った。


「虻輝様、お越しいただき光栄です」

 

 ドラマであるかのように左右から挨拶をかけられる。もはや気持ちが悪いレベルだ。

 あぁ、貶されてもいいから普通に接して欲しい(笑)。

 その願望の形が家での“扱い”なのかもしれないけど(笑)。


 衣裳部屋のような部屋に入れられると3人がかりで服を着させられる。

 ロボットが着させればいいのに――無意味な待遇だが、今は逆に人が介在しているからこその高級感と言うのがある。


 スーツを着ること自体が島村さんに父上に襲撃された10月24日以来だ。あの日もこれぐらい無駄にいいスーツを着てご隠居に会ったもんだった。


「流石です♪ 何でもお似合いですね」


 ゲームをしながら服を着させられるという芸当をやり終えた時、美甘に声をかけられた。


 美甘はなぜか僕が良いスーツを着ると“ルンルン”なんだが……。

僕にとっては動きにくいったらありゃしない。高い服だとスパゲティのルーすらこぼせない――まぁ、安い服だからって積極的にこぼすわけじゃ無いけど(笑)。


「別に僕は背が高いわけじゃ無いけどそこまで似合わない服は無いよな」


「顔が小さいからでは? 身長がそこまで低く見えないです」


「あ、そう……」


 嬉しいような嬉しくないような……。そうは言うが、やっぱり男としちゃ身長あったほうが良いよなぁ。高身長女性軍団が最近僕の周りに集結してきているから尚更見劣り感が凄いんで……。


 美甘はその点、標準的な女性の慎重だから僕が見劣りしないという点では良いね(笑)。


「あ、もう11時過ぎていますよ。早くスタジオに向かわれないと」


 オマエがここで着替えさせたから時間がかかったんだよ。と言おうものならまた言い返されて時間が無駄に経過するのでグッと我慢した。

 どうして雇い主の方が我慢しなくてはいけないのか謎過ぎるが(笑)。


 玲姉の作ってくれた弁当を開ける。今日は“普通”だった。

稀にハートマークとか入れてくるんだから何を考えているのか分からん……。

 それも多くの人と会うときに限ってやってくるんだから今日はちょっと警戒していた(笑)。


「あ、おいし」


 弁当の内容は凍らせた夕食の余りものを調理しなおしたのが多い。それでも、コンビニ弁当なんかと比べたら味は格段に違う。健康の面から見たらかなり助かるのである。

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