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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第4章 反成果主義

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第41話 連絡入れ忘れ

 家に着くと20時を回っていた。

 今日は仁科さんへの中間報告、店への聞き込み、モザイクの男――もう、色々なことがありすぎてパニックになる寸前だ。

 ヨタヨタと歩きながら門の前でID照合を行う。



 特にモザイクをかけられて保護されていた黒いコートの男のことが気になった。

 ただのトカゲのしっぽ切りの可能性もあるのだが、僕たちはもしかすると“とんでもない相手”と対峙しなくてはいけないのではないか?

 僕すらもよく知らない“委員会”の脅威に晒されなければならないのか……?


そんなことを考えながら、玄関ドアを開けると玲姉とまどかが同じように腕を組んで頬っぺたを膨らませて待ち構えていた。

それを見て思い出した――連絡するのを忘れていたことを……。

景親や輝成に連絡したけど肝心な家族に連絡を入れるのを完全に忘れていた……。


「輝君は、集中していると連絡手段が無くなるのが困るわよね。

“連絡が取れなくなった=死んだ”と言う業界もあるんだから本当に注意してよね」


 それ虻利家だわ(笑)。それどころか遅刻すら死だからな……。

しかし、連絡を入れなくても死なないからと言って、家族を軽視することは問題外と言えた――なお、またやらかす可能性がある模様(笑)。


「は、はい……」


 菜箸は玲姉の手元で粉砕された。パラパラと木くずに変換されて床に落ちる。僕の心の声に対して“輝君もこうなるのよ?”と言わんかのようでゾッとした。


 汎用ロボットがサッとその木くずを回収していった。僕もあのようにゴミとして処理されてしまう――そんな末路を見ているようだった。


 ウチのモノは大抵予備があるか模造品だ。玲姉が粉々に砕くからだ――なお、怒らせるメインの要員は僕なんだけどさ(笑)。


「虻輝様~なぁにやってんすっか! 俺すらわかってましたよ!」


「いや、景親気づいていたなら教えてくれよ……」


 バシバシと僕の背中を叩いているが、景親は絶対に気づいてなかったやつだろこれ……単に僕をイジる側に回りたいだけである。


「ちょっと輝君! 下らないコントやってないで。皆、待っているんだから早く来なさい。ご飯が冷えるわ!」


 玲姉が僕を襟のところを持って引きずりながら連行する。

 モザイクの男や“委員会“なんかよりずっと脅威だわ……。



 夕食はパンとシチューだった。リビングに入る前から匂いが充満しており、匂いだけで満足しそうだ。

僕1人だと、コンビニで買ってきたパンとレトルトを電子レンジでチンするだけの簡単な奴で終わらせてしまう。

が、玲姉と烏丸にかかればルーやパンも自前で作ってしまう。

 匂いからしてレトルトとは格が違い、とても香ばしく食欲をそそった。


「いただきまーす! ――いやぁ、美味しいねぇ。烏丸が作ったんでしょ? これは流石プロだよ。大したもんだ」


「作りたてのほうがもっと美味しかったんですけどねぇ。電子が少なめのオーブンではありますが温めなおしていますから」


「私はパン粉からこねて作ったわ。もちろん輝君好みの味にね」


「へぇ~。2人とも一流なのにウチなんかにいることがもったいないよね」


「むしろ、虻利家にいることが最高権威じゃないですかねぇ~。虻輝様があんまりにも一般人っぽいんでなんだかそんな感じがしませんけどね(笑)」


「まぁ、確かに虻利家はこの地上の頂点だからな。そこで腕をふるえたほうが良いということか……」


 僕がいまだに“世界の頂点の家族”だということが信じられない。――日頃の扱いがひどすぎるのもあるけど(笑)。


 夕食を食べ終わると、デザートが出てくるまでのわずかの間に為継から連絡があった。


「虻輝様。今日も大変でしたな。

ところで、明日も大変になりそうなので今日は早く寝て頂きます。明日の朝は4時半に立川にある警備管理会社の整備施設に必ずお越しいただかなければ作戦はご破算になってしまいます」


「え……そんなに早くぅ!?」


「虻輝様、訓練から逃れる時は朝4時とかに起きられたと美甘から聞きました。

 今は大事な時なのですからこれぐらいやっていただかないと困ります。

 この時間でなくては警備ロボットが一つの個所に集中していないので非常に効率が悪いのです」


「ふぅむ、なるほどねぇ」


 虻利ホールディングス傘下の警備管理会社が巡回ロボットを管理しているのだが、明朝に整備も兼ねて大幅に入れ替えている。

 それより前に手はずを整えなければいけないのだろう。


 問題は玲姉に許可を取らなくてはいけない。今の話を玲姉に恐る恐るしてみた。


「ふぅ……仕方ないわね。今日は訓練も無しで良いわよ。村山さんには後で私が何とか言っておくわ」


 玲姉に話すと珍しく理解が良かった。もう心身ボロボロになる日々が続いている上に、この上で訓練までしていたら流石に命が持たない……。


「柊玲子からも承諾を得られたのでしたら問題ありませんな。と言うことでよろしくお願いします。景親はもう寝たようですので、明日はすぐに虻輝様の元へ飛んでいくでしょう。虻輝様も直ちにお休みになったほうがよろしいでしょう」


「げ、景親どれだけ寝付くの早いんだよ……。まぁ、僕も結構寝付くのは早いが(笑)」


 気が付けば景親は僕の隣から消えていた。ほとんど木刀振り回して隣で話を聞いていただけのような気がしたが……まぁダルすぎて眠くなったのだろう(笑)。


「しかし、逃亡するとか明日が世界大会とかそう言う事情なら早く寝れそうだけど、

 何か具体的な目標が無いと寝れる気がしないな……

 もういっその事、出る時間まで起きてるか?」


 世界大会みたいな一般的には緊張しそうな場面でも特にプレッシャー無く寝られるわけなんだが、こういう時は寝付けなくて寝過ごしそうである。

 ゲームをやり始めたら気が付けば深夜2時になっていたとか普通にあるわけだし……。


「どうしてもご不安でしたら特別なBGMをご用意しましょう。これをお聞きになればすぐに寝付けるかと」


 そう言って為継がデータで送ってきたのは「お経」を録音したものだった。なるほどこれなら意味不明で聞いているだけで――。


「ということで、今日は早く寝るよ。明日夜にでも情報を共有しよう」


「え……」


 島村さんが珍しく残念そうな顔をする。ただ、こればかりは仕方ない。

何だか僕と島村さんはすれ違いがあるし、相性が悪いなと思えた。


 と思いながらリビングを出ていこうとしたところ、玲姉が立ちふさがる。


「さぁ、輝君。まだ夜9時なんだしこんなに早く寝ることなんてできないわよねぇ~?

 それならこの私から提案があるわ」


「え……まさか……」


 聞きたくなかった。今この瞬間ベッドの上にワープしてすぐに意識が飛んで、気が付けば朝になってくれたらどんなにいいだろうと思った……。


「反復横跳びとうさぎ跳びを100回ずつやるわよ!」


「ギィヤー! それは訓練じゃないのかよー!?」


「ウォーミングアップは“訓練”じゃないわ~。今日はこの私に連絡を入れなかった罰なんだから! さぁ行くわよ~!」


 玲姉がすんなり引き下がるのは、どうにもおかしいと思ったんだ……。

僕はこの後フラフラになるまで反復横跳びとうさぎ跳び選手権をやらされた後、死んだようにしてベッドに飛び込んだのだった……。


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