第39話 撮影リベンジ
私とまどかちゃんは朝早くから撮影のための収録場所に直接やってきました。
スケジュールを円滑に進めるためにも何としてでも今日は成功させなくてはいけません……。
撮影会場に来るとまた、カメラを向けられた時のプレッシャーが蘇って来るようでした……。
「と、知美ちゃん。表情が凄く硬いけど。リラックスできる?」
「え、ええ……大丈夫です」
いざカメラを向けられることを考えると緊張せざるを得ません……。これが全世界に発信されると思うと……。
「これがどういう結果になるかは分からないけど、今あたしたちが出来ることをやるしかないと思うんだ。
みんな一生懸命生きているし、あたし達はその中でかなり恵まれていると思うんだよね。
この世界に少しでも恩返しがしたいって――全部お姉ちゃんの受け売りだどね」
これ以上みんなに迷惑をかけるわけにはいきませんね……。
「そうですね。昨日の内藤さんもかなり追い詰められていましたからね。
このプロジェクトを表向きにでも成功させて赤井という人を出し抜く方法も考えていくことが最善ですね」
「うん、そうだよ! ――と、いうことでっ!」
まどかちゃんが手をウネウネさせてきています……。
「キャッ! やめて下さい! フフフ、ハハハハハ!」
と言いつつも私はあまり抵抗しませんでした。まどかちゃんの手がとても暖かいです。
「ちょっとは肩の力抜けた?」
「ええ、これならできそうです」
私には責任を果たすために、多少苦手でもやるしか無いですね。
「2人ともおはよう。お――今日は島村さん良い表情をしているね」
「ええ。昨日は少しリフレッシュしたので、今日は何とかできると思います」
昨日の夜、台本も再び綿密に読んできましたので内容は完璧に頭に入っています。
後は私のメンタル次第と言うことでしょうか。でも、弓道の大会でも多くの大会を制してきましたので何とかなると――思いたいです。
「ということで、開始!」
「皆さんっ! いかがお過ごしですかッ! EAIですッ! 私達はコスモニューロンにおける良い面と悪い面について紹介していこうと思いますっ!」
まどかちゃんが元気よく声を張り上げながらいよいよ撮影が始まりました。
私はなるべく自然な笑顔を浮かべます。
「EAIというのはEliminating Artificial Intelligenceの略称です。
今回は問題提起をするとともに、私たちの新しい活動についてお話させていただきます。
早速ですがまどかちゃん。この世界はあまりにも生きにくい世界だとは思いませんか?」
「知美ちゃん。そうだねぇ。一見すると上手い事回っているように見えるけど、何だか貧富の格差は無くならないしどうしてこんなことになっちゃっているのかな?」
まどかちゃんは台本とは実を言うとちょっと違うんですけど、内容的には大体あっているので問題は無さそうです。
「世の中にはAIが決めた評価値に達することができなければ全く評価されないという状況です。
中には頑張っても実力がギリギリ足りない人間というのも多いと思うのです。
そう言う方は極端に収入が少なくなってしまい、生活がままならない状況に陥ってしまっています。
現状ではAIの示した『理想的最適解』を達成できない人間が信用スコアも低くなり、あらゆるサービスの制限、若しくはかかわる人間すらも限られてしまうのです。
こうして、AIによって決められた基準によって頑張っている人が“落伍者”になってしまっているのです」
「なるほどねぇ~」
「以前よりかは生まれに関わらず、職業を自由に選択できるような世の中になってきました。
しかしながら、目標を達成できなければ評価されない今の世の中だと、努力をしても報われません。
そうなると、信用スコアも低くなるでしょうし、あらゆる制約を受けていきます。
生活することも社会的評価も苦しいものになってしまいます。
現に東京都と埼玉県の県境には評価されなかった非常に多くの人達が路上生活を強いられています。
このような社会はAIが導いた結論としては最適解なのかもしれません。しかし、私はこれが個々人としては最適解とはとても思えません」
最初はちょっと緊張が残っている感じがしましたが、最初のセリフの場所を凌ぎ切った段階でスラスラ言えるようになってきました。
「なるべく多くの人が生きやすい世界にするためにはどうしたら良いんだろうねぇ?」
「誰もが“自分らしさ”を発揮しつつも他の人の権利を侵害しないことが大事だと思います。
自分らしさを発揮することには一定の責任を持たなくては他の方の自由を脅かしてしまうからです。
ですが、今のような価値判断や選択肢を狭められ事実上の強制させられる社会は良くないと思います。
それぞれの自己判断をもっと尊重しても良いのではないでしょうか?」
「確かに、“自分らしさ”を発揮し過ぎて他人に迷惑をかけたら何の意味もないもんね~
今のままだと『AIが決めた自分らしさ』になっちゃっているよね~」
正確には『支配者にとって都合のいい人格の作成』でしょうけどね……。
「また、脳に埋め込むデバイスであるコスモニューロンには数多くの健康被害が報告されています。
電磁波を直接脳に送り込むことから、常時頭痛に悩まされたり、全身麻痺に至る方もいらっしゃいます。
私達EAIでは、こうしたコスモニューロンを除去する手術を受けるためのお金を補助したり、お医者さんを紹介する活動も行っています」
「あたしたちEAIでは、こんな感じでデジタル社会から取り残された人たちを助ける活動をしていまーす! 是非とも参加してくださーい!」
まどかちゃんが元気に締めて動画は終わりました。ふぅ……まだ修正はあるとは思いますが、大きな仕事は終えることができてとても良かったです。
収録後に見直してみて、撮り直しや編集などの作業に入りました。
「え、映像で見直してみると恥ずかしいですね……」
最初の映画の撮影の時と違ってちゃんと声が出ていることだけは救いの様ですが……。
「そぉ? 恥ずかしがること無いと思うけどねぇ。よく話せてるじゃない? 凄く良かったと思うよ!」
「そして、これを世間様に公開してしまって本当に大丈夫なのかと思ってしまいます……あまりにも素直に言い過ぎているような気が……。
もうちょっとオブラートに包んだ方が……」
「でもさ、これぐらいはっきりと伝えないと誰に対しても響く言葉にならないんじゃないの? 意味のない動画を作っても仕方ないんじゃないの?」
まどかちゃんは素直な性格なので特にそう言う風に思ってしまうのでしょう……。
「うーん、そこのところの塩梅は難しい所ではあるね。
でも動画自体は素晴らしいよ。多少のミスはあっても編集で誤魔化せる程度だしね」
加藤さんはそんなことを言いながら私の肩に手を置きました……あまりいい気持ちはしませんし「これ以上をやってきたら」反撃するのもアリでしょう。
「ありがとうございます――後、今気づきましたが私が話す場所多くないですか? どうして苦手であるはずの私の方が……」
「いやぁ、あたしもこういうのは苦手でね~。緊張とかはしないんだけど台本を覚えられなくって……。だからテストの点も低いんだけど……」
まどかちゃんは、下をペロリと出しました。
「は、はぁ……」
確かにほとんど台本を見ずに私は話していましたが、まどかちゃんはチラリと手元を見ていたような気がします。その上でちょっとアレンジしていましたしね……。
台本を渡された時点で気づけなかった私にも問題はありますが……。
「ま、無事に終わったんだし。終わり良ければ総て良しじゃん?」
「そ、そうですね」
何だかうまい事言いくるめられてしまったような気がしますが、まどかちゃんがいなければそもそも私のメンタルが持たなかった可能性が高いです。それを考えればこれで良かったのだと思います。
何より、自分の役割を果たせたのに心の底からホッとしました。
代役を探したりするのも大変でしょうし、私も立ち直れるか分かりませんから……。
「動画以外で私たちにできることはありますか?」
「そうだね……明日はラジオみたいに会話形式で話してもらえないかな?
過去のデータがあるのでそれを読み上げてもらえればいいから」
「なるほど、分かりました」
少し発声練習をした後に、私たちは解散することになりました。
加藤さんにあれ以上セクハラをされなくてよかったです……。
思わずの反応で加減が効かないかもしれませんから……。




