第38話 ビジネスライクの間柄
為継に連絡をしてみると、すぐさま連絡が付いた。相変わらず対応が早い。
助かると言えば助かるのだが、むしろ為継の仕事に支障が出ていないか、ちゃんと眠れているかとかが心配だ。
「申し訳ありません虻輝様。残念ながら、目標は見失いました」
「え、どういうこと!?」
為継は開口に一番そう言った。
「衛星管理システムでマークして追ってみますと、どうやら途中で地下の階段に降りて行きました。その後の消息は不明です。
EAIと日本宗教連合の者たちはそれぞれの施設に帰っていったようですがね。
本来であれば、地中にいる人物の動向も赤外線や位置情報で知ることができるのですが、如何せん“特別な人物”のために地下に入られた時点でもう分からなくなっていました。
恐らくは、ある程度追跡されることも織り込み済みということでしょう」
「なるほど、逃げるルートまで考えられていたと言うことか……」
「ええ、中々厄介な相手です。恐らく“表“に出るたびに逃走ルートはその都度考えられていると思って良いことから、非常に知能が高いと言えるでしょう。
しかしながら、虻輝様達が行われていることは的外れでないことは証明されました。引き続き地道な張り込みが必要であると思われます」
為継に“非常に知能が高い”とか言われても皮肉にしか聞こえないがな……。
「確かに目の付け所は間違ってい無さそうだよな。先程の“盗聴された”と言う話も多分僕の存在に気づいての茶番なんだろう。
何か効率のいい方法は無いだろうか、こっちの実働部隊は僅かに3人。いくらなんでも限界があるんだが……」
「確かに人員が足りなさ過ぎますな……少々お待ちを。局長に何か手立てはないかお話を伺ってきます」
「思ったんだけど、大王ならコードを解除してモザイクをかけなくさせることもできるんじゃないか? そっちについても検討してもらえないか?」
「――そちらは難しいかも分かりませんが、一応伺ってみます」
数分かかった。その間に輝成や景親と情報を共有した。2人はこのままでは期間内に解決することは絶望的だと言っていた。
そりゃそうだろう。相手としても同じ場所で会合を開くとは思えない。より相手が警戒している段階で保護されている人物を探すことは困難と言っても良かった。
「局長のお話ではどうやら、コード解除することは難しいようです。権利者を害することは大きなマイナスになるとか……。
もちろんモザイクをかけた人物を教えることもできないとのことでした」
「ということは、何も手立てがないと?」
目の前が真っ暗になった。僕たちは“認知“されてしまった可能性が高い。警戒している相手に対して不毛な待ち伏せ作戦が今度は上手くいく気がしなかった。
今日は単に運が良いだけに過ぎない気がした。
そしてその幸運を僕が無能なばかりに……何もできないばかりに手放したのだ……。
「いえ、コード解除ができない代わりの代替案を局長より頂きました。
一般的にある巡回ロボットに“コード解除”のための器具をつけることによって人間の眼と同じようになり、モザイクがかからなくなるようです」
「おぉ……それならば格段に効率が上がるな。数も多いし、人間と違って疲れない。まさしく、効率の次元が変わっていくだろうな」
手も足も出ないと思っていたところから一気に希望の光が出てきた。我ながらとても単純だとは思うんだけど(笑)。
「ただし、その作業は虻輝様たちにやっていただきます。大王局長も無駄なことをなさらないです」
「ですよね~。何かムシが良すぎる話だと思ったんだ……」
「そもそも提供させていただく物は、テスト段階の製品ですのであまり実用されていないのです。100台分ほどしかありませんのでそこまで時間がかかるとは思えません。
むしろ、どう効率的に配分するかについて綿密に分析していく必要があります。
それについては私の方にお任せください」
流石大王、テスト品をこの際僕たちに使わせデータを取る。そして僕たちは調査が進む。
とてもビジネスライクなWinWinな関係だった。
「分かった。具体的に巡回ロボットに器具を装着するやり方についてはデータでくれればいいよ」
「ええ、そのつもりでした。では、仔細がまとまり次第お送りさせて頂きます」
「あと、盗聴器を仕掛けられたと目標の人物が言ってたんだけど、それについてはどう思う?」
「私は虻輝様がいることに気づいた相手の“自演説”を推したいところですな。
少なくとも特攻局がこの一件に関して直接動いている様子はありません。
虻輝様達を潜入捜査要請していることで明らかだと思います」
「確かに……」
ただ半分は納得しているのだが、半分は納得がいかない。それだけ特攻局の仁科さんの今朝の言動が不気味だったのだ。
仁科さんの後ろには建山さんがいる。あの人の動きも正体不明だった。
「虻輝様は世間的にもかなり知名度の高いお方ですから、多少のカムフラージュ程度では気づかれた可能性もあります。
今後は多少目立っても景親の護衛を受けた方が良ろしいかと」
「分かった」
景親は他の人と比べてデカすぎるし、目立つことにはなるが、リスクがある以上仕方ない。元はと言えば僕が弱すぎる上にさっき取り逃がしたことがいけないわけなんだし(笑)。
為継の提案について話すと、輝成と景親は笑顔になった。
「そりゃ楽になりそうですな。俺たちは比較的機械の扱いに慣れていますから。
それに、俺一人じゃ退屈なんで、虻輝様と一緒にいるのはとても嬉しいっすね」
僕はお前の木刀で撲殺される可能性がいつもあるがな……。
護衛している奴に無意識のうちに撲殺されたら人類初だろ……。
「科学技術局は次々と面白いものを製造しているんですな。モザイクのコードの意味が無くなるとなればかなり極秘で作られていそうですが」
確かに、権利の侵害になりそうだから“委員会”にすら口外はできないだろうな。
大王はそういった“支配者層“すらも出し抜こうとしているんだから本当に抜け目がないと言えた。
「大王としても妥協のラインなんだろう。コードを解除すると保護させている側の権利を侵害するが、本人の権利を侵害しない“シッポ”の方は公開してもいいということなんだろうな」
「なるほど、政治的取引があると言うことなんですな。トップ層の各人の権利は保障されていると……」
「そうなんだよね。あ、僕や父上すらもトップ層じゃないからねちなみに(笑)
無力感を日々感じて絶望すら感じる時があるよ」
輝成はニッコリと笑った。ふと、その笑い方は“クリーさん”の時から一緒だなと思った。
「それぞれ人には役割があります。虻輝様は出来るだけのことはなされているので大丈夫ですよ」
「そんじゃ、帰りますか。輝成も家まで送るぜ」
景親が車に向かって歩き出す。気が付けば、ウチの飛行自動車が近くに待っていた。自動運転で近くまで連れてきたのだろう。
やれやれ、今日も緊迫とストレスの波状攻撃の一日だったがようやくこれで帰路に就くことができる……。




