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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第4章 反成果主義

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第37話 張込みの収穫

 今の時刻は午後16時半ほど。僕は今、「ダイニング・レスト」の向かい側にある「フライ・ライト」という揚げ物専門の店に入っている。

 先程聞き込みをしている時と着ている服を地味にして帽子を目深に被っている。店の店員とマスターに顔が割れていることもあるからだ。


「ふぅ……しかし、今日来るとも限らないから全くもって無駄になってしまうこともあるんだよな……」


 しかしながら、この“張り込みマニュアル”はとても良かった。

今日は1時間しか張り込みはしないから関係は無いが、長時間同じ店にずっと同じようにいるわけでは無く、1時間に1回ぐらい“着替え”に出てまた同じ店に戻ってくるのだ。

 その時、アクセサリも変更しなるべく癖も変えておくように試みる。

 この様に色々な対策を施して周りの人間から不審がられないようにするのだ。


この店は店員もあまりおらずロボットが自動で配膳を行い、回収してくれる。

このように人間の監視の目が薄い店なので不審がられず尚更やり易いだろう。


「景親、どうだ? なんとかなりそうか?」


 僕は勿論、“時間潰しの名人”なので造作もなくゲームで時間を経過させることができる。

 ただ、片目だけはリアル世界に完全においておかないと何の意味も無い張り込みになってしまうのでちょっと慣れは必要になりそうだけど(笑)。


「いやぁ、なんというかやっぱり何もしないで待っているだけと言うのは性に合いませんな……。せめて素振りぐらいできればいいんですが……。景色も変わんねぇですし、マジでダルいんです」


 喫茶店の中で素振りをする景親を想像した。奴が一心不乱に振り回したことによって、椅子や机は粉々になり、キッチンは穴だらけの景色が脳裏に浮かんだ……。


「絶対素振りはヤメロ。大体、損害賠償するのは僕だからな? 

 だが、金の問題は正直些細な話でもある。目立つのが一番張り込みで良くないんだ。

 輝成のマニュアルにも書いてあるだろ?」


「わ、分かりました……だからと言って寝ないようにしますぜ」


「そうしてくれ。あ、折角だから、何か簡単な格闘ゲームでも紹介しよう。初心者でもやり易いタイプのゲームだよ。お前、戦うタイプのゲーム好きそうだからさ」


 横スクロールで攻撃パターンが3つぐらいしかない安易なタイプのゲームを教えてあげた。


「お、これなら楽しめそうですぜ」


「それ、滅茶苦茶簡単だからやりごたえを求めたかったらもっと難しいタイプのもあるよ。

 世界大会に関係するのをやりたいならFVだな。

 ちなみに、ダッシュ・ウルフが僕の一番得意なキャラで――」


 そこで気が付いた。勝手に語り出して暴走し始めそうになった……。


「色々とお気遣いありがとうございます。何とかこれで時間を潰せそうですぜ」


 景親と連絡はこうして終わった。ふぅ、ようやくこれで一息つけるというものだ……。


「ん?」


 ゲームを再び起動しながら、ふと外を見ると、歩いている黒いシルクハットに黒いコートを身にまとった男が“おかしい”。


 見た目上に問題があるわけでは無いのだが、IDなどのデータが表示されない。

顔が隠れているのでモザイクの人物かは分からないが、“コイツだ!”と思わせるモノがあった。


 僕は高鳴る心臓を抑えながら、ゆっくりと立ち上がってレジで決済をする。これも無人のためにコスモニューロンで払い込めばいいだけなので楽――の筈だが、ゲームのアプリの方を間違って開き直してしまう。慌てて決済アプリを起動しなおして決済した。


「お、落ち着け……」


 データを見ると夕方以降に店が開店してからの”モザイクの人物“現れる時間がまちまちだった。

 だから今日のところは“適当に1時間”と思っていただけにあっという間に遭遇したのは良い意味でも悪い意味でも想定外だった。

 

 そんなことを考えていると、コートの男は「ダイニング・レスト」に何事も無かったように入っていく。


 それを見届けると僕もすぐに入らず、「ダイニング・レスト」から誰も出てこないのを確認しつつ、店に入った。

 相手が施設に入った際には、すぐに出る様子が無いのなら、あまりにも早く入り過ぎると、付けられていることが発覚してしまう可能性が上がるからだ――とマニュアルに書いてある(笑)。


「いらっしゃいませー! 何名様ですか?」


 先程店の外を掃除していた店員が気持ちよく挨拶する。僕は帽子を思わず目深にかぶった。どうやらまだ先ほど聞き込みをした人物がまた来たとは思っていないようだった。


「ひ、1人」


 コートの男を視界に捉える位置に座ることができた。場合によっては目と目が合うかもしれない。声も頑張って耳をそばだてていれば聴こえてくるような範囲内だ。


「お飲み物は何になさいますか?」


「えーと、烏龍茶で」


「え……分かりました」


 店員は首を傾けながら奥に下がっていく。無理もない、お酒を出すのがメインの店で1人で烏龍茶なのだから。

 だが、酒が飲めないのだから仕方ない。かと言って注文して飲まないとか無駄にもしたくないし……。


「これはこれは、EAI最高顧問。今日はお早いのですね。お隣失礼します」


 数分後、IDを見ると日本宗教連合やEAIに所属している人物が3人やってきて頭を下げてから席に着いた。


「うん、今日は他の仕事が早く終わってね」


 黒いコートの男は“最高顧問”と呼ばれている。やはり相当偉い人物なのだろう。しかし、声は若そうで、僕よりちょっと上ぐらいの印象だ。少なくとも“最高顧問”の役職のイメージにあるような高齢な感じはしない。


 だが、先程聞き込みをした「ブレイクタイム」での女将さんが言っていた証言と合致する。この男が色々と目標にしていた人物に間違いなかった。


「今回も組織統合について具体的な日時の打ち合わせをしたいのですが……」


 やはり、敢えて問題を起こし破滅に導くつもりなのだろう。組織統合をして力をつけると見せかけての活動なのだから姑息にもほどがあった。


 その時、黒いコートの男と視線が交錯した。黒いシルクハットであるのと、照明の角度の都合上、表情は正確なところまでは分からないがニヤリと笑ったような気がした。


「今日のところはここまでにしよう。また次の機会で。ね?」


 まるで僕の存在に気が付いたからここまでにしようと言っているかのようだった。


「え? まだ始まったばかりですが……どうしてでしょうか?」


「これだよ」


 そう言ってコートの男が椅子の裏に手を伸ばし、見せたのは丸く小さい物だった。

 

「ま、まさか盗聴器!」


 コートの男が“僕に見えるように”盗聴器だと呼ばれた物を捻り潰した。


「そうだ。ネズミがどこかから聞いていると言うことだ。この話はまたの機会にしよう」


 そう言いながら立ち上がる。まるで僕が仕掛けたと言わんかのようだ。勿論そんなことはしていない。

 もう既に特攻局が目をつけている??? それともこの男が特攻局出身で自作自演なのか???


 そんな半ばパニック状態になっている僕を横目にコートの男が横切る。

 余裕綽々と言った感じで通り過ぎているのに対し、周りの取り巻きは誰かが聞いていたのかと表情に動揺が走っているのが分かった。


 彼らが出ていくのを見守るしかなかった。僕一人では返り討ちに遭って店に迷惑をかけるだけだから……為継達に震えながら“見つけた”と伝えるしかなかった。


「あの……ご注文は……」


 気が付けば店員が目の前にいてかなり困惑している。そりゃ、客が烏龍茶しか頼んでいない上に、注文せずに硬直していたら困るわな(笑)。


「いや、悪い。気分が悪くて。ここで失礼させてもらう」


 そう言ってお会計をして店の外に出た。

 すると、大きな影が2つ僕の方に迫ってきた。


「虻輝様、ご無事でしたか」


 輝成と景親だった。流石に急いできたのか肩で息をしている。


「済まない。取り逃がした。盗聴器を仕掛けていないのに、盗聴器らしきものを捻り潰した時は気もが冷えたよ……。

 他に探りを入れている人がいるのか、それとも僕に対する脅迫だったのか……」


「そりゃ不可解っすねぇ」


「いずれにせよ、ご無事で頂けたらそれで結構です。我々もこんなに早く見つかるとは想定していませんでしたので……。不覚にも油断していました」


「正直僕もただの“デモ張り込み”だと思っていたんで想定外だった。

 ゲームやるかぁと思って外をたまたま見たら奴らだったんだから体の震えが止まらなかったね(笑)」


「まぁ、為継に頼んで衛星管理システムから探せば見つかるんじゃねぇんですかい?

 IDまでは分からなくとも、どこに行ったかは分かるんじゃ?」


「ええ、そう思って私が既に頼んでおきました。

 もう既に結果は出ているかと」


 流石は輝成、こういうところは気が利いている。僕はもう色々とパニックになりかけて“見つけた”と一言メッセージを送るだけで目一杯だった……。

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